TAKUMIの1分クッキング
都内の中心部にある有名なスクランブル交差点。そこに建つビルの壁一面には巨大なディスプレイがあり、日々様々な広告が映し出されている。
ある春の日のこと。そこに、とある料理サイトの広告が打ち出された。
それは今流行りのヴァーチャルアバターの男性が料理をするという内容だった。
甘いマスクに輝く笑顔。心地よい声で紡ぎ出される解説は大変わかりやすく、確かな技術で裏打ちされた鮮烈なパフォーマンスが女性達を魅了する。
彼は瞬く間に人気となり、スクランブル交差点には、広告を一目見ようとする女性達が殺到した。
そして、そんな女性達にモテようと料理を趣味にする男性が急増。自らの腕前を武器に出会いを求め、交差点には益々人が集まった。
「夏ど真ん中! 今日は、夏バテに効くガツンとした簡単な肉料理を紹介します」
あまりの人気に、新作広告が次々と打ち出され、気づけば4ヶ月もの間ディスプレイをジャックし続けていた。
「まず、熱々の鉄板を用意しましょう。暑ければ暑いほどいいですね」
新作公開のこの日は休日とあって、車道にもたくさんの車が行き交い、いつもより多くの人々が交差点へと詰めかけた。歩道という歩道にみっちりと人が詰まっている。
「次にこちらの新鮮なお肉を、粗挽きにしていきます」
押し出された人々が車道に溢れ出す。
歩行者信号は赤。
「しっかりと焼き色が付くまで焼いてくださいね」
炎天下の屋外、よく磨かれたアスファルトは灼熱だ。
「軽くスパイスを振ったら、鉄板からワイルドにいただきましょう」
この日のスクランブル交差点は、特に騒がしかった。
これが、ヴァーチャル料理研究家TAKUMI最後の動画である。




