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蟲毒な彼女の場合

『おはよう、いやこんにちはかな? シン、今は何処に居るのかな?』

「ネエネ? どうかしたの? ごめん、波の音というか、船の音であんまり聞こえないかもしれない」

 

 俺と澪雨の世界旅行はまだまだ終わっていない。お役目から解放された彼女に思う存分世界を見せるのが彼氏として出来る事だ。船に乗ってみたいなんて言われたら、それはもうどんな手段を使ってでもクルージングをしなければ。海を掻き分け緩やかに進んでいるつもりでも、耳をすませば遥かに水を切り開いている。その飛沫の音が、今はとても心地いい。

『どーこーにーいーるーのー」

「今はフランスに居るね。クルージングする為に色々巻き込まれたけど、ネエネがくれた翻訳機のお陰で何とか切り抜けられたよ。あ、聞く? 俺が滅茶苦茶頑張ったんだよ! まず全然土地勘とかないからさ。とりあえずぶらっと歩いてから計画を立てようって時に―――」

「ごめんね、シン。お姉ちゃん、聞いてあげたいけど時間がないの。非世界でちょっとした仕事をしてて不意に思い出したんだ。日本では恐らく新年が明けた所なんだけど、その様子だと澪雨ちゃんのお願いに応えるのに必死で気づいてなかったみたいだね」

 その澪雨は船の中で遊戯に興じている。電話を片手に中に入ると、キューを持った澪雨が相手方を務める人形―――今は凛が入っている―――にエールを送っていた。

「凛、頑張って!」

「うるさいなあ澪雨。こういう競技は集中しないといけないんだから、それって妨害になるよ? ていうか私達今は対決してるんだし応援とかしないの」

「え、そ、そうなの? でも私達全然球を入れられてなくて勝負してる場合じゃないような」

 血の色に満たされた瞳がぎょろりと俺をみつける。人形の為表情は変わらないが、昔の彼女ならきっと笑っていたのだろう。

「悠心、電話がかかってきたみたいだったけど誰から?」

「ネエネからだな。どうも日本では新年らしい。バタバタしてて気づかなかった。そんな余裕がなかったとも言うけど」

「一番バタバタさせられたのは私だけどね。動く人形だからって無茶させられるなんて、澪雨の護衛をしてきた時と変わんないじゃん」

「日方は私の為に頑張ったんだからあんまり悪く言わないで! 悪いのは私なんだからっ」

「悪いも何も、お前に喜んでほしいから頑張ったんだ。不毛すぎるぞこの言い争い」

「日方…………!」

 


「はいはいバカップル~」


 

 澪雨の甘えたがりは日を追う毎に悪化しており、可愛いから頑張ってあげたいが、扱いが姫様のそれで、やはり根本的には巫女様と持て囃されていた時期と変わらないのだと思う。その地に居る間はその地の服を選びたがる事が多いものの、今はたまたま制服である。俺達には見慣れた光景である反面、異邦の人間が甘えた声を出しながら見慣れない服で歩いていたら嫌でも目立つというもの。俺が恥ずかしがって淡白に接した分、こういう時に酷くなる。

 無制限に挑戦していたキューの一突がようやく一番のボールを入れた。

「まーじで大変。ビリヤードですんなりボール入れられるのって凄いね。はい次、澪雨」

「……ねえ。全然遠い場所に居るけどここでお祝いするのってありかな? 新年あけましておめでとうって言いたいんだけど」

「しきたりでも何でもないしいいんじゃないか? ここに居るのは俺達だけだし、初詣しようってんなら無理だけどさ」

「流石の私も今からおみくじ作るのは難しいかな。神社もね。特殊な力はなんもないし」

 敢えて妙な場所で言葉を区切ってから、凛が話を続ける。

「でも、この年は貴方達にとって文字通り新たな年でもある。呪いを乗り越え、普通の生活を手に入れたっていうね。祈る神もいなければ巫女もおらず、またその加護も感じられないけど。それでもいいなら私が偶像を務めてあげる。物言わぬ神様として、さ、祈ってみれば?」

「凛…………うん、分かった!」

「俺は日本に帰った時にでもやろうかな。せっかくならネエネとも一緒にしたいし。えーと……まずは六文銭を渡すんだっけ?」

「三途の川を渡りたいなら今すぐ海に突き落としてもいいよ。そういう厳かな作法は代理神様の権限により省略! 柏手でも打って、お願い事をしてみなさい?」

 澪は椅子を使って偉そうにふんぞり返る凛に向かって跪くと、鳴れない様子で柏手を二度打って、恥ずかしそうに目を瞑った。









「こ、今年は日方と恋人らしい事できますように…………や、あ、今のなし! な、なしったらなし!」

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