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黒幕系彼女の場合

「狩也君。あけましておめでとう」

 縁側から足を放り出して月を眺めていると、背中から声がかけられる。

「碧花、起きてたのか?。って事はアイツらは寝たのか」

 ここは水鏡家の本家、要するに碧花の実家。普段は落ち着ける場所に居を構えているがこういう祝日に関しては家に帰る事が多くなる。水鏡家への訪問が多くなるのは単に人手の数が原因だ。ここには大勢の水鏡家が居る。結婚して姓が変わっていてもここに来ている限りは水鏡を名乗っている人間ばかりだ。

「子供が多いと二人きりの時間も中々難しいけど、家に帰省して良かったね。みんなが様子を見てくれる。今年に限った話じゃないけどさ」

 碧花は徳利と御猪口をお盆の上に乗せたまま、俺と挟むように置いて縁側に座る。今宵はなんて綺麗な月だろうと、そんな事を言う前に、碧花の横顔に見惚れてしまう。少し間を置いて彼女の方も折れを見つめた。

「久しぶりに一杯付き合ってよ。二人きりの時間は貴重なんだからさ」

「分かってる。そこまでお前がお酒飲みたいと思ってるのは意外だったけどな」

「どちらでもないけど、君と一緒に飲めるなら大好きだよ。ふふ、恋人時代は年が邪魔したけど、今はいいよね。少しくらいは」

「実際過ごした歳月なら中学生の時でも問題ないと思うけどな」

「その時は『王』も誘って飲み明かそうか。積もる話はある筈だよ」

 御猪口の中に日本酒が注がれる。二人で軽くそれを持ち上げると、口元に運んで静かに一口を味わう。

「…………一年を振り返ろうかと思ったけどあんまりなにも思いつかないな」

「一年が過ぎる度にこれまでの一年を忘れていく。それもいいじゃない。私達が過ごした一年は確かにそこにあった。今度は新しい一年が始まる。きっとまた忘れてしまうかもしれないけど、その日が来るまでは忘れられないような日にしようじゃないか」

 お盆をどかして、碧花の肩にしなだれかかる。俺の方からやったのは初めてかもしれない、彼女はぴくっと肩を動かして驚くも、受け入れるように太腿に手を置いて目を瞑った。

「子供達には結局伝えないのか? お前の事」

「あれは私と君の秘密だから、伝える気は毛頭ないよ。今はやましい事がある訳じゃない、ただ約束があるだけだ。君が守ってくれるから私は綺麗でいられる。今年もよろしくね、私の旦那様」

「任せろ……って言うとあれか、またお前の取り合いになっちゃうな。子供には勝てそうにないよホント」

「下の子がもう少し大きくなったら、もう一人くらいは……どう?」

「体は大丈夫なのか?」

「水鏡の血は伊達じゃないよ。まほろばに行ってしまえば私達はあの日あの時の姿のまま囚われてしまうんだ。純粋に快楽を求めるのはそれからでも遅くはない。だってこれは私達と『王』の約束だから」

「…………そうだな。家族が寂しくならないように、もっと賑やかになれたらそれが一番いいかもな」

 御猪口の中の酒をぐいっと飲み干す。遥か遠くの『家族』に思いを馳せながら、思い立ったように立ち上がって碧花の手を掴んだ。





「少し夜を歩かないか? 昔みたいに」

「うん、いいね。行こうか」

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