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勇者は余と戦ってくれ! ~女勇者と堅物魔王~  作者: 漂月


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第30話「共に戦う日々を」

第30話「共に戦う日々を」


 魔王ウォルフェンタインはシュナンセン王国の宮殿に招かれていた。

 目の前では国王チアラ三世が民衆に演説をしている。



 この国ではこうして、国王自身が民衆に意見を表明することで公約を結び、信頼を築いてきたのだという。

 実際には都の住民しか聞くことはできないので、あくまでも形式としてのものだ。



「そゆことで、『呪いの森』の魔王ウォルフェンタイン陛下と諸侯の協力で、トーリとセイガランの軍勢は完全に撃退できたっす。ここに深く感謝を表し、その勇気を称えるっすよ。マジあざっす!」



 バルコニーの周りに集まった民衆は熱狂の渦だ。

 参謀のレグラスがぼそっとつぶやく。

「人間たちの様子を見た感じ、『あの王様もなかなかやるじゃないか』といったところでしょうか」



 キュビがコクコクうなずく。

「まあ、あのチャラ男じゃね……。言動がチャラいだけで、後は割とまともだと思うんだけど」

「見た目が不安な分、ちゃんと仕事してるだけで好感度が上がりますからね。人間なんて……いや、我々なんてその程度の生き物ですよ」



 二人の会話にユーシアが割り込んでくる。

「まあまあ、いいじゃん。これで魔王軍がシュナンセンの味方だって、みんなが認めるんじゃない? 仲良くなるのはまだまだ無理だろうけど、少なくとも襲われることはもうないでしょ」



 四天王(※三人しかいない)の言葉に、魔王ウォルフェンタインは静かにうなずいた。

「そうあることを祈るとしよう。魔族と人間の間に真の信頼関係が生まれるのは、おそらく次の世代であろうな。我らはただ、その日が来るまで信頼を守り育て続けるだけだ」



 ユーシアが呆れたような顔をして覗き込んでくる。

「ほんと真面目だね、魔王様って……」

「それが魔王という存在であると思っておる」

 にっこりと微笑み、魔王ウォルフェンタインは一同を促した。



「さあ、それよりもチアラ殿の演説を傾聴するとしよう。歴史的な場面に立ち会っているのだからな」

「はーい」

 キュビとユーシアが返事し、レグラスもコクリとうなずく。



 そしてチアラはというと、やや興奮した様子で拳を振るっていた。

「ちなみに魔王軍には四天王がいるんすけど、まだ一個空席があるんすよね。だからオレ、四天王になろ……」

「陛下、ちょっとこちらへ」



 演説の途中でインシオ侍従長が国王の耳を引っ張り、どこかに連れていく。

 戻ってきたチアラ王は、痛そうに肩をさすりながら咳払いをした。

「あ、あー……。四天王になろうと思ってる人がいたら、魔王軍に志願するといいっすよ! そう言おうと思ってたんす、いやマジで!」

 民衆がドッと笑い、拍手に包まれる。



「どうやらチアラ殿は、皆に愛される王になりそうだな」

 魔王の言葉に、一同は深くうなずいたのだった。


   *   *


 魔王ウォルフェンタインは国王チアラより正式に「呪いの森」の領主として封じられた。

 これによって自治権だけでなく、軍権や徴税権など広範な権利が認められたことになる。領内では国王以上の権限を持つ存在だ。



「ウォルフェンタイン公と呼ばれることになったが、いささか気恥ずかしくもあるな」

 魔王の村に帰ってきたウォルフェンタインは、ソファで本のページをめくりながら苦笑している。



「領主といっても千人ほどの領民しかおらぬ。樹人や茸人たちは協力者でしかないし、領地という概念も理解せぬであろう」

「領民ならこれから増えていくでしょ。この森は豊かだし、平和になれば村はどんどん大きくなるよ」



 同じソファに腰掛けたユーシアが笑う。

「そろそろお妃様も娶った方がいいんじゃない?」

「ふむ。人間たちの風習では、貴族の当主は妻帯せぬと格好がつかぬのであったな」

 じっとユーシアを見つめるウォルフェンタイン。



 そしてそそくさと視線を本に落とす。

「まだよかろう」

 ずずいっと顔を寄せてくるユーシア。

「早い方がいいと思うよ?」

「むう」



 ソファの上では逃げ場がなく、ウォルフェンタインは本を置いた。

「余にとって伴侶とは、信頼と尊敬に値する人物のことであるな」

「信頼と尊敬かあ」

「そして余の伴侶となることが、その者にとって幸せでなければならぬ」

「あ、それは大丈夫」



 しばしの沈黙。

「だがまあ、急いで結論を出す必要もあるまい……」

「なぜ逃げる」

 真剣な表情で顔を寄せてくるユーシアに、ウォルフェンタインは軽く咳払いをした。



「余は人狼だし、歳もおぬしとはいささか離れておる」

「あ、そうなんだ」

「うむ」

 また、しばしの沈黙。



 ユーシアが首を傾げる。

「それで?」

「ちと所用を思い出した」

「逃がすか」

 立ち上がろうとする魔王を、勇者はその腕力でガッチリと捕まえた。



 ユーシアはウォルフェンタインに顔を近づける。

「種族の差も歳の差も、私は気にしないよ? むしろ、違うから好きなんだと思うし」

「むむう」

 唸る魔王。



 するとユーシアは、ふと不安そうな顔をした。

「もしかして私のこと、あんまり好きじゃない?」

「それは違う」

 即座に否定するウォルフェンタイン。



「余はおぬしを尊敬し、信頼している。おぬしは作られた勇者という宿命に負けることなく、自らの人生を切り拓いた。そして戦いの中でも、自分の信条を曲げずにうまく折り合いをつけている。見事というほかあるまい」



 そう言ってからウォルフェンタインは溜息をついた。

「正直に言えば、余はおぬしに心を奪われているのだ。しかしおぬしは人間であるし、歳も離れ……」

 まだ何か言おうとする唇に、ユーシアはそっと指を押し当てた。



「そういうのはいいの、魔王様。私を妃にしたいのかどうかだけ、素直に答えてください」

 今度の沈黙はかなり長かった。

 視線をそらして指先で口元を隠しつつ、ウォルフェンタインは答える。



「……許されることならば、妃にしたいと思っている」

 ユーシアはにんまり笑った。

「じゃあ決まりね! 結婚しよう!」

「いや待て、そう軽々に決めて良いことではあるまい」



 慌てるウォルフェンタインにのしかかりながら、ユーシアが言う。

「結婚なんて勢いでやらなきゃ一生できないよって、お義母さんが言ってた!」

「マーミャ殿が……」

 彼女は独身なので、つまりはそういうことなのだろう。おそらく想い人は先代勇者ディランだったのだろうと、ウォルフェンタインは想像した。



 しばし瞑目し、それからウォルフェンタインはユーシアに向き直る。

「領主として世継ぎの問題などもあるにはあるが、そちらはどうにかなるだろう。元より魔族というものは、同族以外では魔王にしか従わぬ。強者こそが正統とされるゆえ」

「じゃあお嫁さんが勇者ってのは、むしろいいんじゃない?」



「待てと言うに。余も悪くないとは思っておるが、いずれにせよこういうものは段階を踏むべきであろう。おぬしはまだ若いゆえ、途中で考えが変わるかもしれぬ」

 ウォルフェンタインはソファの上で背筋を正す。



「そこで婚姻を視野に入れつつ、まずは互いを深く知るところから始めるというのはどうであろうか?」

「いいよ!」

 ユーシアはニコッと笑う。



 それから上目遣いでウォルフェンタインを見つめた。

「じゃあ……とりあえず脱ぐ?」

「やめなさい」

 魔王はひどく赤面した。


【終】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇猛果敢な勇者様に終始押され気味な魔王様 この件については勇者の圧勝かな(笑
[良い点] 最後まで微笑ましくて楽しかったです。 [気になる点] 賑やかな家庭になるんですかね。 [一言] 次回作も楽しみです。
[一言] 勇者が真っ直ぐストレートで行った! と思ったら終わってしまった・・・ お疲れさまです
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