はじめてのバレンタイン【β×Ω】(1)
【αになれないβ】仁科儀 冬弥×【βに近いΩ】行家 春真
はじめて当事者になった二人の話。
冬休みが明けて、気がつけば二月になっていた。
この季節は動画やネットを見てるとやたら目に入ってくる広告がある。毎年恒例、男子が女子に声かけられないかってそわそわし始めるアレだ。
とはいえ生まれてこの方そんな機会もなく、今通うのは男子校で。自分には全然関係ない行事のひとつ。
……の、はずだったんだけど。
「そういやユッキーさぁ、バレンタインチョコ渡すのか?」
急にそんなことを言い出した友達――原田の一言で、何となく目をそらしてた行事に引き戻されてしまった。
バレンタイン。
二月のちょっとしたイベントである。
とはいえ明らかに女子向けの行事だし。男がチョコ渡してる所なんか見た事ないし。さすがに乗っかるのもなと思って考えないようにしてたのに。
「クリスマスは選択肢ありすぎて困るけど、バレンタインはチョコだけだしな」
「よく考えたら一番プレゼントしやすいやつだよね。β様との格差も考えなくていいし」
沢良木と皆川の会話に、それもそうかと気持ちが揺らぐ。
恋人のβ様こと仁科儀冬弥先輩は金持ちのお坊ちゃんだ。
誕生日は何を渡したら良いのか分からなくて、迷いに迷った末にめちゃくちゃ恥ずかしい格好をしてしまったけれど。
バレンタインなら渡すのはもれなくチョコだ。悩むにしてもその範囲内で済む。
だけど、問題が一つある。
「人に渡すやつってどこで買うんだ……?」
板チョコとか普通のやつなら菓子売り場で見たことがあるけど、あれは人に改まって渡すやつじゃない。
どこで買ってたんだろ、ああいうの。
「ほう。乗り気だなユッキー」
「これは俺らが力貸すしかないんじゃねーの?」
思わず考え込んでしまったのを見て、田原と田野原の悪ノリコンビが身を乗り出してくる。正直からかわれる予感しかしないからお断り申し上げたい。
だけど、自分でいくら考えても目的のものを入手できる光景が思いつかない。それこそ通販くらいしか。
……さすがにそこまで通販で済ませるのは違う気がするのだ。大事な相手に渡すものだから。
ニヤニヤ笑う友達の提案に乗るべきか、他の相談相手を考えるべきか。そんなことを悩んでいる内に退路はあっという間に消えていって。
「よっしゃ、迷えるユッキーを導いてしんぜよう! なっ!」
「え。お、おう……」
テンション高く両肩を掴まれて、思わず頷き返していた。
若干の不安がない訳ではないけれど。何だかんだで仲良くつるんでる面子だ。気心も知れているし、そんな変な事にはならない……はず。たぶん。きっと。
「よーし、外出許可取ってくる!」
「ついでにゲーセン行こうぜゲーセン!!」
…………。
先が思いやられてきた。人助けを遊びに出かける口実にしやがって。
全寮制の少し特殊な学校なだけに、外出するには許可が要る。そして許可を得るには理由が要る。
んで、第二性別Ωの生徒が学期中に外に出る時は持ち物から事前指導から、あれこれ面倒なチェックが入る。
……っていうのを、初めて知った。
普通にしてれば出掛けるのは長期休暇になるし。寮に店もあるし通販で事足りるしで、あえて出る必要も特にはなかったから。
「出る前から疲れた……」
申請しに行ったら速攻で抑制剤の所持量が少ないって指摘が入った。そこから予防活動の時はちゃんと持ってるのか、貸与されてる薬をくすねて使ってないかって話にまで発展して。
何とか生徒会長の呼び出しは回避したけど、代わりに対策が甘いってめちゃくちゃ怒られてしまった。
ゲンナリしながら皆に合流して愚痴をこぼすと、もれなく苦笑が飛んでくる。
「ユッキーは仕方ない」
「そうそう。最初首輪してなかったし」
「そ、それはイッチもだろ」
苦し紛れに、他の面子と同じように笑う市瀬を見る。するとぎくりとした顔が返ってきた。
市瀬はてっきりβだと思ってた友達の一人。実はΩだったと最近発覚したばかりだ。
薬はこっそり飲んでたって聴いたけど、首輪は絶対してなかった。してたら流石にβじゃないって体育の時にでも気付いたはず。
「でも最近してるしなぁ。対策足りないって未だに怒られてんの、ユッキーだけじゃん」
「こないだ抑制剤忘れてただろ。注意してるのに危機感が薄いって、β様も心配してたぞ」
「そーだそーだ。対策優等生のイッチ見習えー」
……そう言われると、返す言葉もない。身に覚えがありすぎて。