ポリアンナ
火星基地に新入りの女性がやってきた。
赤毛のそばかす美人で、あだ名はてっきり赤毛のアンかと思っていたら、「ニックネームはポリアンナです」ときた。
「なんで、ポリアンナ?」
「知らないの?ポリアンナ症候群」
「よかった探し」
?
みんな知っているらしく口々にいろんなことを言った。知らんのは俺だけか?
新入りの面倒見てあげてね、と上司から言われたので、ポリアンナちゃんをエスコートしながら基地内を案内した。
「本名は?」
「キャサリン」
「そっちの方がいいだろ?」
「いい名前でよかったと思ってます」
「じゃ、なんでポリアンナ?」
「どんな状況下でも楽観的なんです」
「なんじゃそりゃ」
「小説があるんですよ。ポリアンナって少女が逆境にめげずに良いことだけを探していく物語です」
「あんたもそうなのか?」
「まあ。そうですね」
ふうん。変わっとるなぁ。
ビービービー。
警告音が響いた。
近くの区画で空気漏れだ。
「そこの壁の酸素マスクとって!つけるんだよ。じきに空気が希薄になるから!」
「酸素マスクがあって良かった」
「緊急時用に設置してあるんだよ。それより、問題の箇所を見つけて修繕しなきゃ」
「修繕」
「やり方、シミュレーションしてきたんだろ?」
「事前に講習受けててよかった」
「行くぞ」
「わくわくしますね!」
なんとなく、俺にもポリアンナ症候群が分かりかけてきた。
なかばうんざりしながら彼女と空気漏れの箇所を修理した。
がこん。
空気圧の変化で基地の基礎部分がぐにゃりと曲がり、鉄骨が落下した。
俺は足を挟まれて身動きができなくなった。
「生きててよかった」
「よくないよ!足が挟まってるんだぞ!」
「他の人呼んできます」
「そうしてくれ!」
彼女は向こうに行ったかと思ったらすぐに引き返してきた。
「区画が切り離されてて向こうに行けません」
なんてこった!
酸素マスクの酸素残量も心許ない。
「内線で応援を呼んでくれ」
「内線どこですか?」
「探せ!」
意識が朦朧としてきた。
彼女が新しい酸素マスクを探してきてはめ替えてくれた。
「一人じゃなくてよかったですね」
俺はげんなりして、何も言えなかった。
「救援を待ちましょう」
「内線は?あったのか?」
「断線してました」
俺は絶望した。
しかし、救援は来て、救助された。
「ほら、よかったじゃないですか?」
「どこがじゃ!」
俺の足は骨折していた。
「お願いします、彼女の世話役解雇してください」
涙目で上司に訴えた。
「なんで?彼女がいたから助かったじゃない」
上司は聞く耳を持たなかった。
ちくしょう、ポリアンナめ!俺は嫌というほど思い知らされたのだった。