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マンション?ダンジョン?−魔訶不思議見聞録−ダンジョン?マンション?

作者: 久山春北

ご来訪ありがとうございます。

「その条件と予算ですと、ご紹介出来る物件はこれらになりますね。」

 淡々と説明してくれる担当者さんの話を聞きながら僕は独りごちる。

「まぁ、そうですよね…」

 僕は織部和哉、この春、晴れて大学に合格し意気揚々と都会に出てきた。念願の都会での一人暮らし。先ずは拠点を!と物件を探しに不動産屋さんの暖簾をくぐったのだが…

「築46年、木造2階建て、バストイレ共同…」 

 僕は、担当者さんの用意してくれた資料に目を通したが、やはりというか当然というか、僕の条件、鉄筋バストイレ付きワンルーム月2万円を実現した物件は無かった。

「ええ、その条件ではねぇ…これ以上はちょっと…」

 同じ事を言う担当者さんからは、贅沢を言う面倒な客だと思っているであろう妙な圧を感じるが、僕はそれを受け流しつつ最後の資料まで目を通していく。

 

 何故きつい条件で探しているのかというと〈実家に負担を掛けたくない〉が第1に上がる。何せ3浪しているからね。義務教育を果たしてくれた上に高校まで行かせてくれた実家には感謝しかない。だからせめて大学生活は自分で!と思ったんだ。実家は、そんな事はどうとでも成る。と言ってくれたんだけど

 

 実家は、最寄りの駅から森を一つ超えた先にある文字通り超が付いても可笑しくない程の田舎で、収入を得るために作物や獣肉を卸す以外は、まるでそれが当然の様な自給自足の生活環境だった。

 子供心に、他の子達と僕の装備に違いを感じた事も有るけど、実家暮らしの日常がそんな事で悩む暇を与えてくれなかった。山野を駆け廻ったり、水中で遊んだり、日々成長する野菜の世話をしたりと、毎日ドキドキハラハラワクワクでとても楽しかったし、それが必要だっから。

 

 第2に実家から木造は絶対許さん!と言われたから。何でさ?と食い下がって聞いてはみたが、今のお前に木造はまだ早い!という返事が返ってくるだけで、理由を言ってはくれなかった。実家は立派な木造造りなのにだ。解せぬとはこの事か

 まぁ、そんなこんなできつい条件での物件探しをしているんだけど、別に貯金が何も無いわけじゃない。

 都会に出て一人暮らしをしてみようと思い立ったのは高校2年頃で、その時から約5年間、金銭面については実家の伝手を頼って500万位準備したし、色々支払ってもまだ200万チョイは残ってる。

 とは言え、そこは都会の一人暮らしの難しさ。4年で200万は現実的には無理が見えてるので、アルバイトしつつ節約生活していこうと考えての一歩目で壁にぶつかってる。


「条件を緩めたら有りそうですか?」

 僕は資料最後の物件もダメなことを確認して、担当者さんに聞いてみる。

「そうですね、どの位緩めるかにも依りますが10万いや8万円が可能なら有りますね。」

「8万円…」都会は高い

 僕は大学に通いながら収入を得る方法に思いを巡らせる。そんな割の良いアルバイト有るだろうか…


「もし宜しければ、私が今住んでいるマンションを紹介しましょうか?」

 唐突に担当者さんがそんな事を言ってきた。

「え、それってどう言う…」

「いえね、そう言えば先月大家さんと話したことを思い出しまして、「一部屋空いたから君のお眼鏡にかなう良い人が現れたら連れてきてくれ」なんて事を言われたものですから、条件を緩める気になったのならどうかなと思いまして」

「え?僕ですか?お眼鏡って、え?」

「まあまあ、戸惑うお気持ちは解りますが、どうです?ダメ元で一度観てみては」

「はあ、それは有難いお話しですが…」

 そんな僕の返事を聞くや否や担当者さんは徐に立ち上がり僕に告げてくる。

「では早速参りましょう!」

「え!今からですか?」

「勿論です。善は急げと言いますからね」


 

 僕は今、担当者さんに連れられて担当者さんの住んでるマンションの前に来ている。電車で来たのは、駅からの地理を把握するため、担当者さんが敢えてそうしてくれた。有難い。

 マンションは、最寄り駅から徒歩10分程で駅周辺には商店街が有り、1階にはコンビニとコインランドリーが入っていて使い勝手は悪くない感じ。そこはかとなく感じる妙な圧が気になるけど。


「どうです?先ず先ず悪くない立地でしょ?」

 担当者さんが、僕の考えが見えているかの様に聞いてくる。

「そうですね。確かに今そう思ってます。」

「でしょ!そう思っていただけると思ってました」

 僕の返事に何故か愉しそうな担当者さん。

「ですが家賃の方が…これだけ整ってるとさすがに諦めざるを得ない気がし」

「大丈夫です!そこで大家さんの登場です」

 食い気味で担当者さんが被せてきた直後に僕のすぐ横から投げかけられた声

「ようこそ、君かい?部屋を探しているのは」

「へ!?」

 何時の間にか、本当に何時の間にか、僕の左に壮齢の大男が立っていた。実家暮らしの日常で気配を探る事を得意にしていた僕はマジで驚いた。いや本当マジで


「改めてご紹介します。この方がこのマンションの大家さんです」

「は、初めまして、織部和哉です」

「うむ、私がこのダンジョンのオーナーを努めている。よろしくな若者よ」

「え?ダンジョン?」

 不穏な単語に思考が止まる僕。

「やだなぁ大家さん、マンションですよマンション!」

 慌てた風もなく笑顔をキープしたまま担当者さんが訂正してくる。

「おお、そうだったマンションだったなマンション、はっはっは」

 あっけらかんと笑い飛ばす大家さんに、言い間違いにも程があるだろと思いつつも戸惑いを隠せない僕は言葉に詰まるが、動き出した思考が頭の中を駆け巡る。

 

 いったいこの大家さんは何者なんだ?いや大家さんなんだろうけども…家族以外で気配が分からないなんて初めてだ。でも今感じる圧は家の爺様と似ている気もするし…この人ヤバイぞ。

 それからこの担当者さんもだ。なんでそんな何事も無かったかのような笑顔なのさ?しょうがないですねーなんて雰囲気まで醸し出してるし…え?なに?これが普通なの?この人もヤバそうだぞオイ

 

 ヤバイ!思考が纏まらない!僕はこのまま此処に居てもいいのか?何か得体の知れないものに巻き込まれ始めてるんじゃ…この場は一旦引いて落ち着く時間を得るべきなのでは?うんそうしよう。 

 そう結論付けた僕は全力で逃走しようとしたのだが…

「まぁ待て」

 その言葉とともに大家さんに肩を組まれ、僕は動けなくなった。

「逃げられないだと!?」

「ヒュー♪凄いね!アスファルトが1センチ位凹んだよ」

 担当者さんが僕の足下を見て関心しているけど、僕はそれどころじゃ無い。一刻も早くこの状況から脱出するため、もう一度全力で足に力を込める。

「だから待て待て!」

 大家さんの腕にグワッと力が入るのが解る。

「ワーオ、更に2センチ凹ませるとか嘘でしょ!あ…」

 担当者さんが僕の足下を見て感心した様に呟いているけど、何かをしてくる素振りは無い。

『あ、って何?アスファルトが凹むって何?って違う違う!今は逃げないと…』 

 

 逃げられなかった。

『クソ!こんな所に爺様以上の人が居るなんてマジかよ!』

 僕はこのままでは逃げられないと悟り一先ず力を抜き隙を覗うために気持ちを静めていく。

『落ち着け、どうやら今直ぐ僕を害する気は無い様だ。チャンスは一瞬だぞ集中しろ、先ずは深呼吸だ』

 腹を決めた僕は深く息を吸い込みゆっくりと細く長く息を吐いていく。と、僕の変化を感じ取った大家さんが話し掛けてくる。

「そうそうそれで良い。先ずは君を驚かせた事を謝罪しよう。済まなかった。」

 大家さんが謝罪の言葉を告げてくる。僕の考えすぎなんだろうか?

『いや待て、集中を解くのはまだ早い。油断するな和哉、もう一手仕込むんだ』

 僕はそう自分に言い聞かせ、軽く握った掌の内にゆっくりと静かに空気を集め圧縮していく。

『爺様以上なら最大でも対して効果は無いだろうけど、最悪はこいつをぶつけて強引に…』

「なるほど、よく鍛えられている。良い集中力だ。ところで時政君はご壮健かな?」

「!?」

 ふいに告げられた爺様の名前に集中を乱され、掌の内に集めた圧縮空気が一気に膨張を始める。

「ヤバっ!」

 慌てて抑え込み放散する。暴発しなくてよかった。

 

 しかしこの人は本当に何者なんだろう?敵意を感じない爺様の知り合いらしきこの人に興味が湧いた僕は

「何故爺様の名前を知っているんです?いやその前に何故分かったんです?」

 と疑問をぶつけてみると、

「うむ、時政君とは昔、此処とは違う世界で共に旅をしたことがあってね。」

 と、いきなりぶっ飛んだ切り出しで話し始めた大家さん。

 実は一月前に家の爺様と十数年振りに会っていて、その時に【孫が外に出る事になった】と聞いていたそう。

 そして今日担当者さんから、【面白い子が来た。纏う気配から恐らく縁者】と連絡が入ったので、面接しに来たんだと教えてくれた。

 で、ついでだとばかり若かりし頃の冒険譚も小一時間程熱く語ってくれた。

 

 冒険譚をザックリ言うと、学生の時お互いに面倒を見ていた後輩が起こした問題が大事になりかけたので、片を付けるために頭同士河川敷でタイマンを張っていた時いきなり光に包まれ、その光が消えて周りが見えた時、草原の真っただ中で十数匹の犬?に囲まれ、傍には襲われていたであろう怪我をした4人組が膝をついているヤバイ状況だった。

 タイマン中で気持ちが高揚していた二人は一時休戦から共闘して犬?を撃退し、その後4人と連れ立って近くの町に移動した。

 その町で4人の内の聖女と呼ばれる女の子が語ってくれた経緯によって、光は聖女の祈りという魔法(起きる現象は神次第)で発動した召喚現象だったこと。その世界は魔法現象をある程度は任意で起こせること。あの犬?はそこそこヤバイ魔犬だったこと。4人は[世を乱していると言われている魔王と呼ばれている存在]を倒すために旅をしていること。等が分かったんだそう。

 ただ、2人は魔法は使えるようには成らなかったけど、何故か少年漫画の主人公のような事が出来るようになったんだそう。大家さんはバ〇ルとかロッ〇とか言ってた。

 その後、2人は4人と共に行動し、紆余曲折を経て魔王と呼ばれていた存在と合流し、クソッタレな黒幕を倒し、やり切った余韻に浸っていたところ再び光に包まれて、光が消えた時にはタイマンをしていた河川敷に戻っていた。という荒唐無稽な話だった。


「とても信じられない話しなんですが…」

「そうだろうね。私もそう思うよ。」

 大家さんは微笑みながらそう言う

「今で言うところのラノベ展開ってやつなんだけど、君は読んだ事無いかい?」

 担当者さんが僕にそう問いかけてくる。

「無いですね。というか担当者さんは今の話し信じてるんですか?」

「うーん、何て言うのが良いかなぁ、信じてるというか知ってるというか…」

 担当者さんは相変わらず笑顔だけど、答えは曖昧で掴み所が無い。

「知ってるってどういう事…」

「おっと、それより先はまだ駄目だ。先ず君の意思確認をしないとな。」

 大家さんが僕の質問を制してくる。

「意思確認って何ですか?」

「勿論、このマンションに入居するか否かだよ。」

「あー、それはー」

 探していた時の苦労が頭に浮び悩む。

「家賃は5万円でどうだい?下のコンビニでバイトするなら3万円にするぞ。」

「ホントですか!って、いやいや流石にそれは僕にとって都合良過ぎでは?」

「使えるコネは使った方が良い。君の場合は[我が友人の孫]というコネだな。」

「よろしくお願いします。」

 いろいろ謎があるけど、いったん棚上げだ。


「いやー入居が決まって幸いです。良かった良かった。では契約手続きはマンションの方で行うとして、お二人ともそこを退いて下さい。凹んだ路面を直しますので。」

 担当者さんに促され僕と大家さんが数歩後ろへ下がると、担当者さんは凹みの傍に片膝をつく形でしゃがみ、凹みに手をかざす。

「あーやっぱり。水道管にヒビが入ってますね。あと一押し有れば噴水が出来るところでした。」

 そう言いながら担当者さんが何やら呟くと、まるで逆再生映像の様に凹みが盛り上がり元の状態に戻るという有り得ない現象が起こった。

「嘘!噓!噓!!」

 驚愕である。僕はいったい何を目撃したんだ。

「ヒビも直しておきました。ライフラインは大事ですからね。」

 そう言って僕を見る担当者さんの顔は、ドヤ感満載なイケメンスマイルだった。

 すると黙ってみていた大家さんが担当者さんに話し掛ける。

「相変わらず見事な力の使い方だね。」

「大家さんも出来るでしょう。」

「私は細かい事は苦手でね。」

「脳筋ですね。」

「家賃上げちゃおうかな?」

「冗談です。」

「hahahahaha」 

 3人で笑った。これが様式美というものなのだろう。




三日後

 

 僕は今、入居したマンション3Fの自室にいる。302号室、ここが都会での僕の拠点。まだ物は少ないけど余裕が出来たら少しずつ揃えていこうと思う。あと、奇しくもお向かいの301号室は担当者さんの部屋だった。


 あの後、入居契約をして、では今後はご近所同士よろしくね!という流れの中で大家さんと担当者さんの名を教えてもらった。大家さんが近藤誠一さんで、担当者さんが仮野士名さん。

 余談だけど、仮野さんが魔王疑惑の人だった。爺様と近藤さんの2人が光に包まれた時、戻されるんだなと感じ取った仮野さんはそれに便乗して着いてきたんだと。ヤバイ訳だ。にしても仮野士名って直球過ぎるよ。


 その後、このマンションの秘めた真実を聞かされた。勿論、秘めた真実なので守秘義務もガッツリ有る。犯せば……くわばらくわばら

 因みに、実家も広域エリア型ダンジョンなのだと、これまた驚きの真実を聞かされた。守秘義務は言わずもがな。勘弁してくれ。


 ダンジョンが出来た理由は、2人がこの世界に戻ってきたからだろう。というのが今の所の見解だそう。

 なので2人は、ダンジョンを識るために二手に分かれたんだそうだ。

 

 ま、実家の事は置いといて、このマンションのダンジョンは、ファンタジー物でお馴染みの地下階層型ダンジョンで、マンション地下2階に有る扉を開けて入るんだそう。大家さん含むこのマンションの住人は暇を見つけてはダンジョンに潜っているとの事だった。

[趣味と実益を兼ねた余暇の過ごし方としてベスト]とは大家さんもとい近藤さんの弁。


 僕も入って良いんですか?と聞いてみたら、地下6階迄限定で許可が出た。それより先は危なっかしくてとても許可できないと言われたのは不満だった。でも、その後の担当者さんもとい仮野さんの理由を聞いて納得できた。外で暮らすには僕は色々足りてなかった。


 当面の課題として、仮野さんから、僕の常識と世間の常識の違いを把握した上で、世間の常識の範囲内で行動し、必要な時は全く気取られる事無く行動出来る様になる事。と厳命された。達成すれば7階から先にも潜る許可をくれるそうだ。

[でなきゃ面倒事が休む間無く突撃してくるよ。それが希望なら好きにして好いけど]とは仮野さんの弁。


 僕としても、いよいよ念願叶って都会の一人暮らし生活を始められる準備が整ったんだから、しなくて良い面倒事は御免被りたい訳で、課題達成は最優先。

 課題達成のために、加減調整や訓練目的でダンジョンに入る時は、安全第一を守って入ろうと思う。


 ああそうそう、拠点が決まってその報告をしに実家に帰った時、そうなると思っていたと言われた。出る時に、どうとでも成ると言われた意味が分かった瞬間だった。

 爺様的にも、僕が仮野さんと逢うのは既定路線だったそう。

[核弾頭を無責任に放り出すわけ無かろうが!]とは爺様の弁。

 大笑いしてる父さんからも、キッチリ修行してこい!と言われたさ。


 何はともあれ、僕の新たな第一歩は此処からだ!




お目通しありがとうございました。

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