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第2話 新入生狩り狩り

「新入生狩りを狩るって、あなた何を言って……」


 困惑した様子の天野から視線を外し、やって来た上級生に目を向ける。どうやらここまで走ってきたようで、彼は肩で息をしながらニヤニヤした笑みを浮かべていた。


「お前、拾ったなぁ? 拾ったよなぁ、俺の手袋を!」

「ああ、この通りだ。誰かに拾われる前にと思ってな」


「くひひっ! ようやくだ、ようやく俺にもツキが巡って来たぜ! 俺と〈決闘〉だ、新入生! 手袋を拾ったお前は逃げられねぇ! なんせこれは、神が定めたルールなんだからなぁ!」


『〈決闘〉の成立を承認。〈神域サンクチュアリ〉展開』


 天から周囲に声が響く。それと同時に、俺と上級生を中心として〈神域〉が展開される。周囲を歩いていた新入生たちはそれに気づいて、ギョッとした表情で慌てて神域の外へと逃れていく。


「新藤くん……!」

「天野も離れていろ。巻き込まれるぞ」


「……っ! あなた……」


 天野は何かを察した様子で黙って頷くと、神域の外へと逃れる。神域から出られないのは〈決闘〉の当事者たちのみだ。


「くそっ、あの女だったらよかったのによぉ。まあいい、テメェのスキルカードを奪って奴隷にしたら次はあの女を俺の性奴隷にしてやるぜ……!」


「随分と気が早いんだな、先輩。俺が負けると決まったわけじゃないだろう?」


「はっ! テメェこそ粋がってんじゃねぇ! 俺はこの地獄で一年生き残ってきたんだよ! テメェみたいな新入生に負けるわけがねぇだろうがっ!」


「……なるほど」


 確かに、このような〈決闘〉が日常的に学園内で行われているのだとしたら、上級生で自身のスキルカードを保持しているだけでも大したものだ。〈決闘〉は自身のスキルカードを持ってないと成立しないからな。


 よほど逃げ隠れるのが上手かったのか、相応の実力者だということか。


 ……まあ、前者だろうな。実力があれば、わざわざ新入生を狩る必要がない。


「始めるぜ、新入生! テメェの魂を俺に寄こしやがれ!」


 上級生は懐から2枚のスキルカードを取り出す。


「〈ピストル〉! 〈ファイヤ〉!」


 スキルカードは光の粒子となって形を変え、上級生の手に銃が顕現した。


「死ねぇっ!」


 放たれるのは火炎の弾丸。〈ファイヤ〉のスキルカードは単独でも魔法として使えるが、スキルカードは使用するたびにマナを消費する。〈ピストル〉の弾丸として使うことでマナの消費を抑えているのだろう。悪くない組み合わせだ。


 火炎の弾丸は俺の脇腹を易々と貫いた。鈍い痛みに顔を顰める。だが、人体にダメージは負っていない。〈神域〉の内部ではスキルカードによって傷を負うことはないからだ。


 その代わり、スキルカードによる攻撃を受けるとマナが削られる。マナを全て消費すると〈決闘〉の敗北になり、その時点でスキルカードは勝者の物となる。


 脇腹に一発食らって削られたマナは全体の5%といったところか。二枚のスキルカードが組み合わされているだけあってなかなかの威力だ。


「〈ソード〉」


 俺はスキルカードを発動し手に片手剣を顕現させると、上級生に向かって突進する。


「真正面から向かってくるなんて馬鹿かよっ!」


 上級生は銃口を俺に向けて引き金を引き続けた。矢継ぎ早に放たれる弾丸は俺の体を貫くが、全てが俺に当たるわけではない。何発かは盾として体の前に掲げた剣に当たり、何発かはそもそも俺の体に命中せずわきに逸れる。


「てめっ……なんで!?」


 銃撃に構わず突っ込んできたのが意外だったのだろう、上級生は懐に入り込んだ俺を見て驚きに目を見開いていた。


「もう少し射撃の腕の磨いたほうがいいんじゃないか?」

「――っ!」


 避ける気がなかった初弾で俺の眉間を撃ち抜かなかった時点で、上級生の射撃の腕は見透かせた。人体にダメージが入らないとはいえ、脳や心臓を撃ち抜かれれば人は錯覚を起こしてダメージを食らう。ともすれば意識を奪って一方的に攻撃することも出来ただろう。


 それを狙わなかった。頭ではなく的の大きい体を狙った時点で程度が知れている。後はまぐれ当りに警戒していれば、多少マナが削られたとしても接近は容易だ。


 そして、


「終わりだ」

「くっ……」


 俺の眉間に銃口を向けようとした手を片腕で弾き、がら空きの胴に向けて剣を下から上へ斬り上げる。


「ぐああああっ!」


 体勢を崩した上級生を、俺は矢継ぎ早に切り裂き一気にマナを削りきる。


「や、やめっ! 悪かった! 許して――」

「やるわけがないだろう?」


 俺が放った止めの一振りに、上級生の体は軽々と吹っ飛ばされて地面に転がる。それと同時にガラスが割れるような音が響き渡り、周囲に展開されていた〈神域〉が解除された。


 〈決闘〉の勝敗が決したからだ。


 その証拠に、上級生の元にあった二枚のスキルカードが宙に浮かび、俺の方へ飛んでくる。


「あ、あぁ……」


 上級生は俺の手に収まったスキルカードに手を伸ばそうとして、そのままその手は力なく垂れ下がった。


 スキルカードの所有権の移譲。これでこの二枚のスキルカードは俺の所有物となり、同時に上級生は俺の命令を絶対に拒否できない奴隷へと成り下がった。


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