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80.独身貴族と騎士のつどい

 姫が滞在しているスパリゾート1階の奥には、舞踏会やパーティーが開けるくらいの大きなホールが設置されている。


 皇女様のパーティーに同伴する姫のパートナー選びはこの大ホールを貸し切って開催されることになった。


 私はこの日までにアルフリードが防具屋さんに頼んで特別に鋼を打って作ってもらった、XSサイズの兜を頭に装着して、姫と共にこの会場までやってきた。


 ホテルのスタッフさんから、会場の舞台に近い扉に案内されて中に入ると、そこは既にたくさんの男の人たちがひしめいていた。


 見るからに若い貴族風の男性たちがグラスを片手に談笑していたり、奥の方に置いてあるビリヤード台で玉を打っていたり、チェスをしてたりなんかもしている。


 その他にも、色んな家門の騎士服を着た、でっかくて頑丈そうな体つきの男性も、貴族風の男性たちと同じ数くらいいて、ガハハハと笑ってしゃべってたりもした。


 姫が会場の舞台に置かれている、豪華なイスに腰掛けてる横で会場を見渡すと、右端の前の方に数名の男性グループが輪になって話していた。

 よく見ると、その中の1人がこちらを見ている。


 あ、あれは! アルフリードじゃん! 彼もここに来てたんだ……


 なんだか少し、心配そうな顔をしているみたいだ。


「おーい、アルフリード!」


 すると、会場内から声がして、彼はその声の方を振り向いた。


 私も同じ方を見てみると、男の人たちの群れの中で手を振っている人がいる。


 耳が隠れるくらいの暗めの金髪をした、背の高い男性だ。


 どこかで見たことがある気もするけど、その人の近くには、さらに見知った人の姿が。

 あれは、お兄様じゃん。つまらなそうな顔をしてアルフリードみたいにこっちを見てるけど……この手を振ってる人は狩猟祭で一緒だったチームメンバーの人かな?


 でも、昨年うちの客間で療養していた人に、あんな人いたっけ?


「あれ……ローランディス? ローランディスじゃないか!」


 アルフリードも声を張り上げて手を振り返すと、金髪の男性の方へ向かって行った。


「いやあ、僕の領地の近くにいる友人から誘われて久々に帝都に来たんだよ。元気にしてたかい?」


 ローランディスと呼ばれた人は、気さくな感じでアルフリードに声をかけた。


「ああ、皇太子殿下のご帰還でバタバタしてたけど、今では落ち着いて元気にしてるよ。前に会ったのはうちでやった婚約式以来だったかな?」


 そう答えているアルフリードの話を聞いて、私はやっと思い出してきた。


 アルフリードと話をしているのは、母方の親族の人で、彼のはとこに当たるローランディス様だ!


 時間はほんの少しだったけど、ヘイゼル邸で開いた婚約披露会で、ご家族と共に挨拶されていたのを覚えている。

 その時も髪色は違うけど、顔の系統がアルフリードに似ているな、と思ったんだった。


 どうやらお兄様のチームメンバーの人に誘われて、領地からここに連れて来られたみたいだ。


 アルフリードは実のお母様とは心に距離があったようだけれど……叔母様であるルランシア様をはじめ、他の元リューセリンヌの王族の方々はこれまでずっと、彼に親身に接してくれていたみたいだ。


 楽しそうに思い出話みたいなのをしているアルフリードを見て、私はほっこりしてきて兜の中で密かに微笑んでいた。



 チリンチリン


 会場全体に鈴の音が響いた。

 見ると、座っている姫の横にアンバーさんがいて、手にしたベルを揺らしていた。


「はい、皆さま本日はお集まり頂き、ありがとうございます。それでは、これよりリリーナ王女殿下のパートナー候補の面接を行いますので、順番にお並びください」


 そう言われると、集まっていた男の人たちは列を作って、姫が座っている前に並び出した。


 騎士さん達は貴族家にお仕えしてるということもあって、前の方は貴族のご子息方に譲って、列の後ろの方に固まって並んでいた。



 うーん、これは予想以上の人数だ。

 今は朝の10時くらいなんだけど、この人たち1人1人とお話してたら、一体いつ終わりになるんだろう……


 以前、高級ブティックで姫が注文した大量のドレスは仕上がってきていて、今日は早速、その一着を彼女は身にまとっていた。


 エステでキレイにした足をよく見せたいのか、初めて会った時みたいに、前だけ足膝の上まで短くなってる特徴的なデザインをしている。


 その格好で足も組んでいるし、腕も組んでいるという、なんとも王女様らしい態度を示して、次々に自己紹介している男性諸君を値踏みしていた。


「ダメ! 顔がタイプじゃない」「髪の色が好きじゃない」「腕が長すぎる」

「ファッションセンス0」「こんな事も知らないの!? 頭の悪い男は論外よ」


 そうして、並んでる貴族家の子息の半分ほどの人数とお話が終わった頃だった。


「なんなのよ! 年下ばっかりじゃない! 他の年齢層の男はいないの!?」


 突如姫がいつもの甲高い声のトーンをさらに上げてきた。


 実は当日になって分かった事だが、ここに集まってきた独身貴族達は、私が声をかけたアルフリードとお兄様のチームメンバーの知り合い達で、そのほとんどが昨年の狩猟祭に参加した20前後の同じ年頃の若者ばかりだった。


 男の人がとりあえず集められればいいやー、と思ってたから、年齢まで考慮してなかったや……


 しかし、姫はワガママ姫なこともあって随分幼く見えるけど、実際は何歳なんだろう……?


「アンバーさん、姫は今おいくつなのですか?」


 私はそっと小声で、そばにいるアンバーさんに聞いてみた。


「姫は今年で23歳になられます」


 という事は、皇女様は今度20歳になられる訳だから……


 皇女様より3つも年上なの??


 お2人が一緒にいる所を見ると、どう見たって皇女様の方が帝国に来て好き放題している姫のご機嫌を上手く収めようとする、年上のお姉さんって感じなのに……


 そういえば、他の人質だった王位継承者や、その婚約者さんの年齢も考えてみると、よく知らないや。

 この機会に聞いてみよう。


「はい、ナディクスの次期国王であるエルラルゴ殿下は22歳、弟君のユラリス殿下は21歳になられます。姫の妹君も確かユラリス殿下と同じ歳で、ジョナスン殿下は姫と同じ23歳のはずです」


 と、アンバーさんは教えてくれた。


 エルラルゴ王子様も見た目は美少女で年齢不詳だったけど、皇女様やアルフリードより少しお兄さんだったんだ! むしろ、私と同じ歳くらいといっても全然、違和感はない。


 一旦、同じ年齢層の独身貴族たちは後回しにして、もっと年齢に幅がある騎士さん達の順番を先に持ってくることになった。



 だけど……


「汗くさいのはダメ! 身長が高すぎるのもダメ! 体育会系のノリもダメ! 筋肉量が多すぎるのもダメ! ダメ、ダメ、ダメ!!」


 姫の好みに叶う相手はなかなか見つからない。


 ヤエリゼ君が最初に紹介してくれたエスニョーラの騎士勢も、身長が大きすぎるし、もろ体育会系のノリだし、筋肉量も多すぎってことで、あえなく撃沈だった。



「あの後ろ姿は……」


 それでも何人か騎士さんの選考が通り、さっき後回しにされた独身貴族に順番が戻ってきた頃だった。


 姫がボソリとつぶやいた。


 その視線の先には、皆が並んでる列から逸れて、ポケットに手を突っ込んで窓をみている後ろ姿。

 あれは紛れもなく……私のお兄様じゃん。


 そういえば、皇太子様のご帰還パーティーがお開きになったときも、姫は彼の後ろ姿をなぜかジッと見つめていたのだった。


「あの男を連れてきなさい」


 姫がアンバーさんに命じると、お兄様は渋々こちらにやってきた。


 この展開はまさか……


「わたくし、こういうクールな顔立ちで、後ろ姿が様になる男とは付き合ったことがありませんわ。気に入ったから、お前を私のパートナーに……」


「あいにくだが、私には妻もいるし、子どももいるんだが」


 姫は顔をツンと上に向けて目を瞑りながら、さも得意げにご指名の言葉を述べようとしたんだけど、この前のアルフリードみたいに眉間にシワを寄せて、大きな猫目を剥き出した、鬼のような恐ろしい形相に変わり果ててしまった。


「お前、ここがどこだか分かっているの? このリリーナのパートナーという名誉職を選び抜く神聖なる場なのよ! それを……コブつきの女房もちがノコノコと我が物顔で徘徊しているだなんて! 汚らわしいわ……今すぐここから出ておゆき!!!」


 ……やっぱり、アルフリードがキレた時も涙が滲むくらい怖かったけど、この方はその比じゃない。マジでチビってしまっても仕方ないくらいの迫力だ。


 お兄様は顔面を白くして、明らかに軽蔑の眼差しを向けつつ、会場を後にしてしまった。


「いいこと? 私のパートナーに本気でなろうとするつもりもない、失礼極まりない男は即刻この場から消え失せるのよ!! ……さ、続きを始めましょ」


 姫は剥き出していた目を元に戻すと、何事もなかったようにイスに静かに座って、並んでいる男の人たちの面接が再開された。


 私は今の話から、彼女のパートナーになんかサラサラなる気はないのに、この場にいるアルフリードが今度は槍玉に上げられるんじゃないかって心配が生じてきて、彼の姿を探した。


 すると、会場には見当たらなかったものの、お兄様が出て行った出入り口が少し開いている事に気づいた。


 よく見ると、扉を開けているのはちょうどアルフリードで、彼の後ろには、なぜか皇太子様とエリーナ姫、それにラフな格好をした若者が3名ほどこちらを覗いていた。


 そして驚くべき事に、いつもだと口元にしか微笑みをたたえていない皇太子様が、若者らしい満面の笑みを浮かべて、一緒にいる3名の青年たちと楽しげにお話しているように見えたのだ!


 どういう事なのか、そばにいるアルフリードに聞きに行きたいけど、姫の女騎士の職務を全う中の今は、ここから離れる訳には行かない。


 そうこうしているうちに、アルフリードは扉を閉めてしまったのち、しばらくしてまた1人で会場に戻ってきた。

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『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
目次はこちらから

サイドストーリー
連載中『ラドルフとイリスの近況報告【改訂版】』
目次はこちらから



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