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78.王子様からのお手紙

『エミリアちゃんへ


 ちゃんとこの手紙届いてるかな?

 ナディクスにはスパイがいっぱいいるんだけど、エスニョーラ家のスパイから君の手紙を渡された時は、この私でも驚きを隠せなかったよ』


 この筆跡! 王子様から連日受けてた帝国マナーの授業では、手紙の書き方も教わっていた。その時に、実際に見せてもらってたのと同じだ。


 しかし……序盤から、何やら物騒な内容が(つづ)られている。


 “スパイがいっぱい”


 毒殺が横行してて、閉鎖的っていうマイナスイメージに、さらなるワードが追加された。


 だけど、私が王子様とやり取り出来てるのも、その我が家門のスパイのおかげだから、単純にマイナスと言うのも変か……


 それでは、続きを。


『だけど、君の帝国式の手紙の書き方は、私が指導したからね。筆跡を記憶していたから、君からのだってすぐ分かったよ。


 心配してくれて、ありがとね。』


 おおっ、王子様も同じこと考えてくれてたんだ。


『ナディクスに到着した時は、お父様の容体も危険な状態だったけど、今はだいぶ落ち着いて、たまに意識も戻ったりしているよ。


 国王であるお父様が倒れてしまった今、王位継承者の私がナディクスのトップだから、しばらくはここから離れられないだろうね。』


 ナディクスの国王様、一命は取り止めたんだね! 良かったぁ。

 でも完全回復されて、執務が取れるようになられないと、王子様はナディクスから離れられないよね。


 あれ、でも? 皇女様は皇太子様の引き継ぎから解放されたみたいだから、皇女様がナディクスへ行くんじゃダメなの?


『ユラリスは政治に強いから、色々助けてもらっているけど、いつも守ってくれるリリーナ姫がいないってオドオドしてしまって困ったもんだよ。

 姫は帝国では上手くやってるかな?』


 あ、姫の婚約者様で王子様の弟君のユラリスさんの事も書いてある。


 んー…… なんだろう、帝国で離れ離れになる時、彼は姫の足元にしがみついて、別れを惜しむほど彼女にベタ惚れなのかと思っていたけど。

 この文章のニュアンスだと、守ってもらえなくなるから離れたくなかったのかな……?


 確かに姫、強そうだもんね。スパイにも毒にも負けなさそうだよ。


 はい、続き行きます。


『もうすぐで、ソフィの20歳の誕生日だよね。

 本当は私がプロデュースして、身支度なんかもセットしてあげるつもりだったんだけど、それが出来なくて残念だな。


 エミリアちゃんとアルフリードには、私の分まで楽しんできてもらいたいよ。』


 そっかぁ…… 王子様も皇女様のバースデーパーティーを楽しみにしてたんだよね、きっと……

 たとえ王子様がプロデュースしないにしても、お誕生日の姿を一目見たかっただろうな……


 ここで、閃いたのは、さっき玄関の所で見たラドルフ一家の肖像画!

 あの絵は、すっごくリアルでまるで生き写しみたいだった。


 この間、うちに来ていた女の絵描きさん。あの人に油絵まで行かなくてもスケッチでもいいから、パーティーでの皇女様の姿を描いてもらえないかな?


 そうすれば、すぐに王子様の所へも送れるし。


『ところで、お父様に盛られた毒だけどね、どうやらこれまで出回っていない新種のものみたいなんだよね。

 この城の至る所にいるスパイが仕組んだことは確かだろうけど、どこから持ち込まれたものなんだか……


 ナディクスは美容品が発達してることもあって、薬学知識を持った研究員たちがいるんだけど、彼らが毒の解明を急ピッチで進めてくれてるよ。』


 そうだよね、また同じ毒が使われちゃったら、国王様みたいにいつ回復するか分からないし、下手したら命が無くなってしまうなんてことも……


 解毒剤を作るためにも、毒の内容の解明が必要ってことだよね。


 そして、どうやらキャルン国は農業に力を入れてるけど、ナディクス国は美容研究に力を入れてるみたいだ。


 この前、スパのコスメ売り場にいた白騎士トリオも美容グッズに詳しそうだったし、アンバーさんも美容知識が豊富だったし、まさに美容大国だ。


 そして、お手紙は終盤に差し掛かっており、こんなことが書いてあった。


『それから、エスニョーラ家のスパイを介してエミリアちゃんとやり取りしてるって事は私の周りにも、ソフィ達にも内緒にしておくから。


 知ってるかもしれないけど、君の家門は帝国が生まれる前は、色んな国の軍帥をやって渡り歩いていた有名な一族だよね。ナディクスにもいた事があるって話さ。


 そんな背景があるから、どの国も君の一族に一目(いちもく)置いているし、パイプは繋げておきたいと思ってるはずだ。私の国も同様にね。


 という訳だから、波風を荒立てて、オカシクなるのはゴメンだから、静かに2人での連絡に使っておこう。


 エミリアちゃんも、もうすぐでアルフリードとの結婚で環境が変わって大変かもしれないけど、また帝国での様子教えてね。


 じゃあ、またね!』



 最後は、王子様らしくとっても潔い挨拶で締めくくられていた。


 しかし……エスニョーラ家って、そんなに世界的にも有名な一族だったの!?


 ま、まあ確かに、お兄様の記憶力はすごいし、能力をひけらかさないお父様も、あの膨大な量の貴族家マニュアルを全部覚えてるんだよね。


 あんな人達の能力が何百年もの間、代々受け継がれてるなら、世の中で目立ってしまうのも無理ないか。


 それに、そんな歴史があるから陛下も知らないような、独立した諜報組織を持ってるのかも。

 それも、あらゆる国外で通用するほどのものを。



 王子様からのお手紙、第1回目は細かい点で気になる事はあったものの、全体的にはBADな印象では無かったので、一安心だった。


 まだ、姫の所に戻るまで3時間くらいあるので、お返事を書く前にできる事をやっておこうと思った。



 そして、やってきたのは皇城内の皇女様のプライベートルームだ。


 皇太子様と彼のほぼ側近と成り代わったエリーナ姫に引き継ぎが終わって、皇女様は本来のお姫様らしく、皇城の奥で表舞台に出ない生活に切り替わることになる。


 部屋の入り口をガードしている皇族騎士さんに、ちゃんと皇女様の女騎士の記載が入った身分証明書を提示して、その部屋の扉をノックして入室した。


 壁や天井は白で統一されていて、床はサーモンピンク色をした絨毯が敷かれている。


 奥にある大きなベッドの横に、ソファが置いてあって、皇女様は薄めのテロンとしたダークグレーのロングドレスを着た姿で座っていて、読書していた。


「皇女様、今お時間よろしいでしょうか?」


 皇女様は私が入ってきたのにも気づかずに本に集中していたようだ。

 チラッと私を見て、前に置いてある低いテーブルに、その本を閉じて置いた。


「ああ、エミリア。姫から解放されたのか? こんなにヒマで静かなのは、お兄様の代わりを務めて以来久々だから頭がボーッとしてしまうよ」


 皇女様は立ち上がって、全面が格子状のガラスになっているテラスの窓の前に立った。


 あの、常に鋭い面持ちでいた皇女様がボーッとしてしまうなんて、何だか想像もつかない。


「あの、皇女様は帝国でのお仕事が終わったら、ナディクスへは行かれないのですか? 」


 皇女様の20歳のバースデーのお祝いができないのは寂しいけど……王子様と彼女が一緒にいられるなら、それが1番だ。


 それに、帝国から皇女様が離れれば、原作であった事故も回避されるはず。


 皇女様は私の質問には答えずに、しばらく外を眺められていた。


 テラスの先は、皇城のプライベート庭園が広がっている。


 庭園は、いつも騎士訓練をしていたエリアだけでなく、迷路みたいな植え込みや、花園があったりして、実は色んなエリアに分かれている。


 皇女様のお部屋は、けっこう高い位置にあるので、その庭園が上からよく見下ろせるのだが、その一角にしゃがみ込んで、何かをしている人影があった。


「今日は彼らの休息日ということで、お兄様とエリーナ姫は、あそこに畑を作ることにしたそうだ」


 ああ、あの人影は公務をお休み中の皇太子様とエリーナ姫だったのだ。

 そういえば、まだキャルン国に彼らがいた頃の手紙では、向こうで畑を耕していると書いてあった。

 ここでも同じようにナチュラルな趣味を持って、生活されるみたいだ。


「ナディクスはな、しきたりが多くて、国王が病床に就いている間は、城に客人を呼んではならないのだ」


 皇女様は庭の方を相変わらず眺めながら、そうおっしゃった。


 ううー、そうなのか。そんな制約があるなんて、八方塞がりだ。


 さすが閉鎖的な国、そういう所はイメージ通りな感じはする。


 その後は少し皇女様と雑談をして、私は再びエスニョーラ邸に戻った。



 ナディクスへ行けるならと思ったけど、皇女様は帝国に今の所いる予定なので、誕生日パーティーは決行されるだろう。


 そこに来れない王子様のために、パーティーでの皇女様の絵姿を送ってあげたい。


 お手紙を黙読中に現れたそんな閃きを叶えるために、お兄様とイリスから画家さんの連絡先を教えてもらった。


 今度、そこの住所へ直接お願いしに行ってみよう。


 とりあえず、今できることはそれくらいなので、自室で書いた王子様へのお返事をヤエリゼ君に託した。



 その後は、ヘイゼル邸に寄って、ロージーちゃんから洗濯してくれていた替えの騎士服に着替えさせてもらった。


 そして、この前途中になっていた、肖像画を年代順に並べ替える作業の続きをやることにした。


 ゴリックさんも呼んできて、主人のプライベートエリアの廊下に出た時だった。


 いつだったか同じ場所から聞こえてきた、厳かな音色が聞こえてきた。


 これは……


「アルフリードが弾いてるの?」


「坊っちゃまは、本日は皇太子様の休日に合わせて、お屋敷でお休みになっております」


 ゴリックさんが答えてくれたんだけど、もしかして……

 皇太子様とアルフリードがコミュニケーションを取れる方法、見つけたかもしれないよ!

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『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
目次はこちらから

サイドストーリー
連載中『ラドルフとイリスの近況報告【改訂版】』
目次はこちらから



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