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58.リニューアルな気持ち

「今年は早く降り出したな」


心地良くて、いつまでも居たくなるような空間に生まれ変わった応接室の窓の前に立って、アルフリードはチラチラと舞っている雪で覆われた庭を眺めていた。


彼がイメージを起こして私がディテールを決めて共同作業で作った、ゆったりとした布ばりのソファに腰掛ける私の前には王子様がいる。


ワークショップの予定もびっしり書き込まれている、愛用の手帳を気難しげな表情で彼は見つめている。


「う~ん、来年は、忙しい年になりそうだ……」


これまでは、気味が悪いと婚約披露会以外にはこのお屋敷に近づこうともしなかった彼も、皇女様と共に何度か遊びに来るようになっていた。


それに、アルフリードとの共同作業によるリフォームも、本館部分はだいぶ片付いて来ていて、いよいよ主人達の居室と廊下であるプライベートエリアにも手が付けられそうになっていた。


今日、王子様がここに来たのは、アルフリードからの依頼を受けてのお仕事のためなのだという。私は詳しく聞かされてはいなかったけど、同席するようにと言われてここに一緒にいる。


「来年もワークショップの予定でいっぱいなんですか?」


さっきロージーちゃんが淹れて置いて行ってくれたお茶を飲みながら、私が何の気なしに聞いてみると、


「何言ってるの」


王子様は、ちょっぴりイラッとした感じの顔をして、それを抑えるみたいに凛とした空気をまとってカップを手に取り、お茶を飲んだ。


「エミリア、分かってる? 来年の君の誕生日が来たら、何が起きるのか」


アルフリードは窓の方からこちらに向かって歩いてきて、私と王子様が座ってるのとはまた別のソファに腰を下ろして、長い足を組んだ。


来年の私の誕生日……その事を思い出して、危うく飲んでいたお茶を吹き出すところだった。


来年の8月。その日が来て16歳を迎えた時、私とアルフリードは婚姻する予定になってしまっているのだ。

まだまだ先だと思っていたけど、もうあと8ヶ月くらいしかない。


もしかして王子様がここにいるのって、婚約披露会の時みたいに、結婚式のプロデュースもお願いするためだったりして……?


「いいかい、まず4月になったらジョナスンが帰ってくる予定だろ。一国の正統な後継ぎが帰還するんだ。とてつもなく盛大なお帰りなさい式が行われるはずだ」


カップを持ちながら苦笑いしていると、王子様は腕組みをして、ソファの背もたれに深く寄りかかった。


しっかり頭に刻み込んでる4月6日の日付。

この日、隣国キャルン国の大学に留学中のジョナスン皇太子様が、無事に単位を取得して、もっとキャルン国に滞在してたい……なんて変な気を起こさなければ、帝国に戻ってくることになってる。


「それから8月を過ぎたら、君たちの結婚式な訳だけど……来年はアルフリードが20歳になる節目の年でもある。どうする? 結婚パーティーと20歳のお祝い式は別々にやる? それとも、2つ合わせてとんでもなく盛大なのにしちゃう?」


むむむ……知らなかったけど、こっちの世界も、前にいた世界みたいに20歳になるっていうと、大々的にお祝いする習慣があるみたいね。


やっぱり予想通り、結婚式+アルフリードの20歳のお祝いの準備の打ち合わせで、王子様はここまでやってきたので正解っぽい。


どんどん、どんどん、私と彼との結婚が現実味を帯びて来ている。


まだ不気味で仕方がなかったこの部屋で、公爵様とお父様からアルフリードとの婚約が決まったって言われた時、どうにかしてそれを取りやめさせなきゃ! って躍起になってたけど……


王子様に何かが起こりそうな気配が感じられない今、この流れを無理に変えることはないんじゃないかって、近頃は本気で思っている。


原作でのアルフリードは皇女様を一途に想っている姿がずっと描かれていたから、そうなるに決まってる! プロポーズも一時的な気の迷い! って思い込んで、彼のために婚約破棄しようとしてたけど……


目の前の彼は私の事をとっても大事にしてくれるし、私のためにフローリアにも会わせてくれたし、どうでも良さそうだったリフォーム計画も一緒に手伝ってくれるし……


それに、私と一緒にいる彼はとっても嬉しそうで、幸せそうで……


それなのに、わざわざ事を荒立てるような真似、する必要あるのかな?


「そうだなぁ。父上の意見も聞いてみないといけないけど、一緒にやっちゃえばいいんじゃない? 何度もプロデュースやるのは大変だろ。それに、エルラルゴだって帰国したらすぐ結婚だろうし、僕の催しのために負担を掛けるのは嫌だな」


アルフリードも腕組みをして、顔を上に向けて考えるみたいなポーズを取りながら、意見している。


「私はソフィのそばに居られれば、それでいいから。気にしなくていいよー」


王子様はニコッとして、頭を横に可愛らしく傾けた。


これは、帝国で好きなことをしてたいがために、アルフリードの催しを利用して自国に帰るのを長引かせようとしてるのでは……


「ジョナスンも婚約者を連れて帰ってくるって言うし、来年はもしかしたら結婚ラッシュになるかもねー」


冗談めかしてそう言いながら、王子様はスッとお茶を嗜んだ。


「そうだエミリア、あの大舞踏室はどうする? あそこもまだ何もしてなかったと思うけど」


アルフリードが思い出して話題を振ったように、婚約披露会の2人の思い出の場所、公爵邸が誇る大舞踏室は、普段めったに使われることもないので、1年前のままとなっていた。


「あの舞踏室は、そのままでも立派で趣があるから、リフォームはしなくていいと思うの。ただ、あそこから見えるクロウディア様の中庭は眺めがいいから、大きな催しがある時以外にも、入りやすい雰囲気が作れるといいな」


例えば、ずっとシャンデリアの上に乗っかってる白いお化けみたいなシーツを取り除くとか、全面石造りなので、リフォームまで行かなくても壁に洗浄をかけてキレイにしてもらうとか? 


もしアルフリードとの結婚式兼、20歳のお祝いが実現して、また結婚披露会の時みたいな素敵なあの大舞踏室に入れるんだとしたら、すごく……楽しみだな。



それから、しばらく打ち合わせみたいな雑談みたいなのを3人でしていると、執事のゴリックさんが現れて、


「エミリア様のご友人方が到着されました」


そう言われて3人で玄関にお出迎えに行くと、外は寒いから厚手のコートを着てるいつものお友達のご令嬢たちがピカピカに磨かれている玄関ホールで待っていた。


「次期公爵様、ご招待にお預かりして光栄でございますわ」


皆してドレスの端を持ってちょこんとお辞儀した。


「じゃあ、これから特別講座を始めるので、こっちの部屋についてきて」


もはやご自分のお宅のような慣れた感じで、王子様がご令嬢たちを案内したのは、いつも行くのとは違う応接室。ここも、アルフリードがヒュッゲな感じでデザインしてリフォーム済である。


「じゃあ、僕は仕事があるんで書斎にいるよ。何かあったら呼んで」


そう言ってアルフリードが退場していくと、私たちは持参した葉っぱとか花とかを机の上に取り出して、王子様が用意しておいてくれた道具を使って、自家製キャンドルを作り始めた。


空が暗くなり始める前に、アルフリードも呼んできて皆して馬車に乗って帝都までやって来た。


この日は1年前に、馬牧場へフローリアに会いに行った帰りに、アルフリードと見上げた坂道に並べられていたキャンドルに火を灯す点灯式のイベントがある日。


こうして持参したキャンドルを帝都中の人が持ち寄ることで、真っ暗な夜に天まで伸びるみたいな道が出来上がるのだ。


私たちも坂道の中腹に、できたばかりの葉っぱとか花びらが所々、顔を出しているキャンドルを並べて火を灯して、坂道の下のところで寒かったけど日が暮れるのを待った。


雪がヒラヒラと舞ってる中、お友達と王子様、そしてアルフリードと一緒に目に焼き付けるのが2回目になるその景色に、またこの世界に来て忘れられない思い出が1つ増えていった。

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