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47.フローリアとのひと時

私は乗馬を始めてから3ヶ月近くが経っていて、ちょうど前回フローリアに出会ったのも、同じくらいの時が経っていた。


前はアルフリードと一緒にガンブレッドの上に跨って私は(なん)にもしないでいただけだったけど、皇女様との乗馬レッスンのお陰で、そこそこの速さで1人でも駆けさせることができるようになっていた。


ガンブレッドのママ・シェルラーゼはとっても賢くて、落ち着いた栗毛の子で、ヘイゼル家改造計画や、クロウディア様の中庭の手入れのためにアルフリードのお宅に何回かお邪魔する度に、会ったり乗せてもらったりしていた。


ちなみに、ガンブレッドがいつもピカピカなように、ヘイゼル家は馬をとっても大事にしていて、彼らが住んでいる建物はなんと……アルフリード達、人間が生活するところよりも立派で新しくて、とっても快適そうだった。


「エミリア、無理して落馬でもしたら大変だから、あんまりスピードは出さなくていいからね」


黒いポンチョのフードを頭に掛けて、アルフリードは私の少しだけ前をガンブレッドに乗って駆けている。


そこそこの速さで走れるといっても、前回、アルフリードとルランシア様が駆けていた速度はかなりのもので、私には長時間その速度を維持するレベルには到達していなかった……


前にも通った一面が草原になっているエリアは、もう草が黄色く枯れてしまっていたけど、遠くの空まで見渡すことができるその広い空間を、1人でシェルラーゼを操って駆け抜けるのは、とっても気持ちのいいものだった。


前回よりも少し時間はかかったけど、私たちはまず元リューセリンヌの土地へ行って、公爵様が奥様と初めて出会ったという秘密の花園へ向かった。


その入り口になっている森の木々が生い茂っているところは、葉っぱが散って枝が剥き出しになっていたけれど、花園はやっぱり花園で、以前きた時とは違う色とりどりの花が地面に群がるようにして所々に咲いていた。


私とアルフリードは手分けして、今日初めて見た花を少しずつ採取しつつ、香水作りのために必要なアエモギの花の根を探して集めていった。


この前は1袋だけだったけど、今回は4袋作って、ガンブレッドとシェルラーゼのお尻の両横に1つずつぶら下げて、馬牧場へと向かった。


「フローリアーー! 元気だった?」


初めて見た時よりも、体が何周りも大きくなっている。

筋肉量も増えたようで、仔馬らしい細っこさはもうすぐで無くなってお馬さんらしい体型になりそうだ。


芦毛のフローリアは白い柵で覆われて、他の仔馬たちがいる中を、ピョンピョン飛び跳ねるようにして元気に走り回っていた。


どうやら、とってもお転婆さんに成長しているようだ。


「はいはい、わかったよ。今降りるから」


アルフリードのする声の方を見ると、ガンブレッドが前足を交互に上げて地面を踏み鳴らしている。


バサッとポンチョを翻して、アルフリードはガンブレッドから飛び降りた。


するとガンブレッドは駆け回っているフローリアを追いかけるみたいにして、柵の周りを行ったり来たりしていた。


私が乗ったままになっている彼のママのシェルラーゼは、そんな息子の様子を公園で遊び回る子どもを見守るようにして、静かに目で追いかけていた。


そして、例のごとく、フローリアが近づいていくと、その顔をベロっと舐めたりしていた。


今は外で伸び伸びする時間だったようで、しばらくすると厩務員(きゅうむいん)さんが、仔馬たちを集めて、平屋がたくさん立ち並んでいる中にある、それぞれの部屋に戻して行った。


私とアルフリードはフローリアの部屋に入らせてもらって、お馬さんの好物の定番メニュー・にんじんやら、わら草やら、ご飯をあげたり、体をブラシで綺麗にしてあげたりしてお世話した。


フローリアは本当に可愛くて、手入れをしている間は何をしてもらっているのか分かっているらしく、気持ちよさそうにくつろいでいて、時々私の顔を大きな真っ黒な瞳で見つめたりしていた。


そんな彼女を見て、この子に(またが)って、騎士服を着て、槍を持って皇女様をお守りする日がいつか来るのかな……と、ふと思ったりなんかした。


「エミリア、そろそろ行こうか」


お世話が終わって、フローリアをなでなでしていると、もう出発しないといけない時間になっていた。


アルフリードも彼女の顔をなでなでして、それから私の方に優しく微笑みかけた。


なんだか知らないけど、そんなひと時がすごく幸せに感じられた。


また来るからね、とフローリアと約束して私たちは馬牧場を後にした。



速度が遅いので、前回よりも早めに出たんだけど、日が暮れるのが早いので、帝都に着いた頃にはやっぱり真っ暗になってしまっていた。


だけど、アルフリードはなぜか街の中心の方に向かっていて、


「確か、昨日くらいから始まったって聞いたんだよな……」


と何のことだか分からないけれど呟いた。


すると、前にランチを食べに行った高台にあるレストランへ登る石畳でできた坂道の方に何やらポツンポツンと明かりが見え始めた。


近づいてみると、道の両端に大小さまざまな白いキャンドルが灯されていて、坂道がまるで天まで光って伸びているみたいに見えた。


「毎年これくらいの時期になるとやっている、冬の風物詩だよ」


そんな、ささやかな思い出を目に焼きつけつつ、日々が淡々と過ぎて行った。



朝は、トレーニングルームで筋トレした後、イェーガーなエスニョーラ家の一員として、お兄様の横に並んで弓矢の自主練。


アルフリードと皇城へ行っては、乗馬レッスンと剣と槍のお稽古をバランスいい感じで自主練したり、皇女様(補佐:アルフリード)から直々に教えてもらったり。


王子様にも何か起こりそうな予兆は見られなかったけど、以前お願いしていたインテリアコーディネートのワークショップに、何回か出席させてもらっていた。


一緒にヘイゼル家のリフォーム計画を立てたり、実際にいくつかのエリアは改修が始まったりしていた。


もちろん、フローリアに再会した時に摘んできた秘密の花園のお花達も、クロウディア様のお庭に植え替える作業なんかをしたりした。



そうして、雪が舞い散る景色をアエモギの花の香りが漂う自室から眺めたりしているうちに、次第に陽気はだいぶ暖かくなり、春先と呼んでもおかしくない季節になった頃。


アルフリードはある重要な教育を施されるため、我が家に招待されてやってきた。

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