46.イェーガーなエスニョーラ part2
若干、薄暗い感じの森を5人で進んでいると、
「うちから近くはあるが、通常は立ち入り禁止だからな。初めて入るが、どの辺りで一番狩れるのだろうか」
お兄様がもう、やる気満々の調子で喋った。
「あと少しで最も出没するエリアに到着する」
皇女様が先頭を切って、草木を分け入って進みながら答えた。
「よしここだな」
すると、大木が倒れている場所が現れて、その大木の影に5人で身を潜めた。
そして、しばらくすると……
ああ! あそこにいるのは、可愛いグレーの色をしてシマシマのふさふさの尻尾をしたタヌキさんだ!
そこで矢をつがえたのは……あの殺気を丸出しにしたアルフリードだ。
「じゃあ、一番乗りでやらせてもらうよ」
タヌキさんはこちらの様子に全く気づきもせずに、顔を手で擦ったりして毛繕いをしている。
シュバッ!
ついに、アルフリードが矢を放ってしまった。
カン!
そして、何かに当たった音がしたけれど、恐る恐るタヌキさんの方を見ると、その子はビックリしたような顔でそのすぐ横の木に刺さっている矢を見ている。
……ああ、よかった。
「チッ、外したか」
アルフリードはまだ殺気だっているようで、いつもと別キャラに化してしまっている。
「私がやろう」
今度はお父様が矢を準備し出した。
こんな事があったのに、タヌキさんはまだ同じところに留まっている。
お願いだから、逃げてーー……
またシュバッという音がして、矢が弧を描いた、と思った時だった。
今度はアルフリードが放った木の幹の横にある垂れ下がった枝の方に、矢がそれていった。
お父様のも、失敗……? というか私にとってはタヌキさんに当たらないなら成功だけど。
すると、
ボトリ。
何かが落ちる音がした。
タヌキさんがそれに気づいて、地面に落ちている丸いものを拾った。
あれは……何かの実だろうか?
「ああ! さすが侯爵殿。お見事だ」
皇女様が感嘆の声をあげた。
すると今度はお兄様が膝立ちになって、少し上の方を目掛けて矢を放った。
すると、同じ木からボトボトボトとまた落ちてきた。
「1、2、3……うわぁ 兄上すごいな。4つもいっぺんに獲れましたね」
やっぱり丸い大きな実が4つ地面に落ちている。
こ、これは彼らが狙っているのは……
「あ、あのう、狩りというのは動物のことではないんですか……?」
私の質問に周りにいる4人が怪訝そうな顔をした。
「ああ、エミリア嬢は今の狩りの仕方を知らないのだな」
久々に皇女様が私の事を可哀想な子、と言わんばかりの顔つきで見つめていた。
「私が昔、参加した頃はまだ動物を狩ってはいたが、今は愛護団体からの抗議を受けたり、むやみやたらと動物を殺すことは禁じられているのだよ」
お父様が弓を肩に担ぎ直しながら言った。
あ、そうなんだ。それなら良かったけど、狩りってもしかして。
「今では狩りと言ったら、“木の実狩り”に“果物狩り”のことに決まっているさ」
アルフリードは得意気に教えてくれた。
「そして今日のテーマは“秋の味覚狩り”だよ」
そのセリフを言う皇女様が、メイク終わりに説明する王子様とダブってしまいます。
まぁでも、よかった~!
動物さんに優しい狩りで何よりだった。
でもさっき……
「アルフリードがタヌキさんが出てくるまで、待ってから矢を射ってたのは、なぜですか?」
「それはだね、帝国では狩った食べ物を動物たちに分け与える者ほど称賛されるんだよ。矢の腕前を競うために、彼らの住まいを荒らして、食べ物まで奪ってしまうなんて人間のクズだからね」
爽やかな感じで答えてくれるアルフリードだけど、最後のセリフは殺気を隠し持ってるよ。
お兄様が狩った4つの実の周りには、最初にいたタヌキさんの親子らしい、ちょっと小さいのと、もっと小さいのが3匹出てきて、実をコロコロ転がしながら森の奥の方へと行ってしまった。
「まあ、無理して野生動物を待つことはない。エミリア嬢、あれなんか狙えるのでは?」
皇女様が指さした先には、木の上の方にパパイヤみたいなでっかい実が丸々と成っていた。
私は斜め上の方に向かって弓を引いて、
えいやー! と心の中で叫びながら、矢を放った。
ヒューッと飛んでいって……
見事、実の部分に命中したぁ!
そして、ユラユラ揺れながら地面にボトッと落ちていった。
初めての狩りで、しかも一発目で的中って、すごいよね。
ふふん、皆、エミリアはすごいな~って思ってるっしょ。
褒めて褒めて~~……
なんて、思わずニヘヘと頬を歪ませながら、後ろを振り返ると、
「あー、エミリア。ダメだな、てんでなってない」
最近、シスコン度合いが薄まってきたお兄様が、まさかのダメ出し。
「いいか、見本を見せるぞ」
皇女様が矢をつがえて放つと、私が狙ったのと同じ実に向かっていったが、実が枝からぶら下がっている細っこい茎をピッと裂いて、実が落ちていった。
2つの実が落っこちているところに皆して近づいてく。
「実自体には傷がつかないようにしないと、狩りとは言えないんだよ。エミリアのは矢が貫通しちゃってて、ひっどいもんだ。まだまだだね」
そっかぁ、あんなに細い所を狙わないといけないなんて、けっこう難しいな。
だけど、アルフリードもなんか塩対応な感じしない?
やっぱり殺気立ってるみたい。
こうして、私たちはたくさん、たくさん秋の味覚を狩って狩りまくり、集まってきた動物さんたちに獲ったものはお返しして、森を後にした。
そして、季節は秋から冬へと移り変わった。
馬用の防寒着をまとったガンブレッドと、彼のママのシェルラーゼにまたがって、厚手の黒いポンチョを着た私とアルフリードは再び、仔馬のフローリアを訪ねることになった。