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45.イェーガーなエスニョーラ part1

返そうと思っていた部屋着は私が持っていなさい、と公爵様は言って庭師さんを呼びに行ってしまった。


この香りは奥様の事を思い出させてしまって、返ってツラい思いをさせてしまうようだった。


しばらくして公爵様は、ハンチング帽をかぶり、白いシャツにサスペンダー付のズボンを履いた、ガーデニング職人のイメージそのものの服装をした背の高い初老の男性と戻ってきた。


「うちのガーデナーのエリックだよ。庭のことなら何でも彼に尋ねなさい」


「坊っちゃまから託された苗の方へご案内します」


エリックさんに付いて行くと、庭の一角に、この間摘んできた花たちが、土の入った小さなポットにいくつか小分けされて大きな木のケースの中に並べられていた。


私はエリックさんと共に、庭の一番目に付く所にそれを植えていった。


「あのー、アエモギの花を来年たくさん咲かせるには、どうすればいいですか?」


全部植え終わってから尋ねてみると、


「もっと根が必要と存じます」


エリックさんも、この前アルフリードの側にいた執事さんや、騎士服の話をしたらおかしな挙動をしたメイドちゃんみたいに必要最低限のことしか言わないみたいだ。


けど、それなら今度、仔馬のフローリアに会いに行く時にまた採りに行けばいいかな。

あの秘密の花園みたいな場所には、山のように花が咲き乱れていたから。


あと気になることと言えば……


「クロウディア様が植えていたものは、消えてしまっていたそうなのですが……無くなりやすい植物と、そうでないのがあったりするんですか?」


エリックさんは、石像のように少し固まっていたけど、少しして口を開いた。


「元リューセリンヌ地方の植物は根が丈夫で、一度根づけば簡単には無くなることはございません。奥様が植えられていたご祖国の植物は、ある日すべて根こそぎ無くなっておりました」


へぇ? それって……誰かが盗んだか、わざとやったってこと?


「そのことは公爵様やアルフリードは知っているんですか?」


「当時は坊っちゃまはまだ社交デビューもされていなかった頃ですから、公爵様がお調べになられておりましたが、その後どのようになったかは存じ上げておりません」


なんだか、ちょっとヘイゼル家の謎が一つ増えてしまったけど、その後、エリックさんの中庭の作業を手伝ったりした。


そして、アルフリードが帰ってくるとエスニョーラ邸まで馬車で送ってもらうことになった。



「エミリア、弓の稽古は侯爵様と進んでる?」


あ、そういえば、全くイメージにそぐわなかったけど、腕前が良すぎるお父様から弓矢を教えてもらうことになってたんだ。


「いえ、まだ始めてないです」


「来年、3年に一度の狩猟祭が行われるんだよ。参加するのは貴族家の子息だけだけど、今度、皇城の狩場でその練習をすることになったんだ。エミリアも基本的なところまで弓が引けるようになってれば、一緒に行けるんじゃないかな」


ほへぇ、狩猟祭っていうのも、ファンタジーな小説ではよく出てきたりするよね。


この世界でもそういうのがあるんだ。

多分、忘れてるっぽいお父様に、稽古をつけてもらえるようにお願いしておこう。



結局、アエモギの芳香剤と、部屋着はうちに持って帰ってきてしまった。


またヘイゼル家の2人の前に持っていく事があるか分からないけれど、この香水の匂いも、部屋着のデザインも私は好きなので自室で保管しておくことにした。


芳香剤は部屋のドアの所に付いているフックにぶら下げておいた。



シュバッ


次の日の朝、お父様と一緒に訪れたのはエスニョーラ邸の敷地内にある射場(いば)、つまり弓矢を射るための練習場だった。


ここは騎士団の施設ではなくて、主人専用の練習スペースなのだという。


そこにいたのは……


10メートル以上も距離がありそうな的に向かって、超正確に矢を放っている……あのお兄様の姿だった。


1年の大半を貴族家マニュアルの更新作業に費やして、書物ばかり読み漁っている文官職のお兄様のスポーティーな姿はとても新鮮だった。


しかし、これをやってるってことは……


「ラドルフも今度の狩猟祭に出るからな。これは帝国の最も伝統的な行事でもあり、18~20歳の貴族家の子息は絶対参加なのだよ」


お父様が説明してくれた。


そっかぁ、文官だからといっても、体育会系な行事に強制参加はつらいけど、この1回きりに参加すれば晴れて自由の身になるということだ。


お兄様がんばれー。


それで、黙々と矢を的の中心にいくつも刺していっているお兄様の隣で、私はお父様から基本的な使い方を教わった。


はじめは遠くにも真っすぐにも飛ばせなかったけど、次第にコツが分かってきた。


筋トレで胸筋や上腕二頭筋なんかも鍛えてるせいか、的の中央にはまだ無理だけど、端っこの方には当てられるようになってきた。


「うむ、さすがエスニョーラの血を引いているだけはある。この調子なら数日練習すれば狩りにも行けるだろう」


そんな予言めいたお父様の言葉から数日後。


私、アルフリード、皇女様、お父様、お兄様。


というメンバーにて、あの王子様の歓迎会が行われた迎賓館があるところ。

普段は皇族の方々が使われる狩場に集合した。


だけど、私は不安に感じることがあった。

それは、生き物を手にかけなければいけないということ……


もし可愛いウサギさんや、キツネさん、シカさんにタヌキさん。


そんな子たちが目の前に現れてしまったら……みんなきっと、容赦なく矢を放つんだろうな。


アルフリードなんか、前に皇女様と手合わせしていた時に、隙を見つけてものすごく殺気を込めた表情で襲いかかっていたし。

またそんな表情を見てしまう事になるかもしれない。


私たち5人は、広大な森に足を踏み入れた。

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『皇女様の女騎士 番外編集』
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