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40.ガンブレッドのお気に入り

花をたくさん詰め込んだ大きな袋を抱えた私を、さらに後ろから抱えこんだアルフリードと共にガンブレッドに乗って訪れたのは、広い、広い牧草地で、大きな白い柵がその中に張り巡らされていた。


すると、その奥の方から


ドドドドドッ


ものすごい地響きとともに、現れたのは……


大量の馬、馬、馬!!


茶色に、白に黒、グレーにいろんな子が群れをなして、その柵の中を駆け巡っていた。


そう、ここは馬牧場。


白い柵から離れた所には馬場があって、ガンブレッドみたいに綺麗な筋肉が浮かび上がってピカピカに磨かれた子たちが、その中で調教師さんらしき人に色々な歩き方を訓練されているようだった。


「ここは帝国中の騎士団で使われる馬の生産地なんだよ。ここで十分、訓練を積んでから各地に送られて行くんだ」


アルフリードはガンブレッドの手綱を引きながら説明をしてくれた。

私も降りて、一緒に隣を歩いている。


「じゃあ、ガンブレッドもここで生まれたの?」


ガンブレッドはブヒヒンといなないて、顔をブルブルとさせた。

それを宥めるようにアルフリードは、その顔をナデナデした。


「コイツはうちの(うまや)で生まれたんだよ。ヘイゼル家の跡取りは代々同じ血統の馬に乗るのが習わしだからね。コイツの父さんは、父上が乗ってるのさ。コイツの母さんもいるから、エミリアもウチに来た時には彼女に乗るといい」


そうなんだ! ヘイゼル家に仕える高貴な血筋の子だったのね、ガンブレッドは。

……舐めぐせも代々伝わってる訳じゃないわよね?


ところで……ここに来た訳はなんだろう。

動物をたくさん見れるのは癒されるけど、牧場見学のために前々から連れてきたいと思っていたってこと?


馬場を通り過ぎて行くと、長い平屋がいくつも並んでいるエリアに出た。


その中はいくつも小さく区切られているようで、所々に草を()んで食事をしたりしている子たちが入っている。


この子たちのお世話をしているらしい人がいるのを見つけるとアルフリードは私にガンブレッドの手綱を預けて、何かを聞きに行った。


その人がある馬小屋の方を指さすと、アルフリードは戻ってきてそちらの方へ向かった。


平屋がたくさん並んでいる所に沿って回っていくと……


そこには、めっちゃくちゃ可愛い、小さくて細っこい仔馬たちが親馬と一緒に歩いたり、お乳を飲んだりしている光景が飛び込んできた。


最初に見たような白い柵に囲まれた緑色の草が生い茂る中で、気持ち良さそうに伸び伸びと過ごしている。


「エミリア、どの子がいい?」


ワクワクしながら、その子達を眺めていると急にアルフリードから質問をされた。


どの子がいいとは、どういうこと?


「エミリアも騎士を目指すなら愛馬が必要でしょ? 僕からの贈り物だよ」


アルフリードはいつもの控え目だけど爽やかな笑みを私に向けていた。


馬……私の馬!?


「調教が必要だから今日すぐには連れて行けないけど、仔馬のうちから選んでおくのも悪くないと思ってさ」


え……どうしよう、すごく嬉しい。



その時、おとなしくしていたガンブレッドがアルフリードの手綱を振り払って、どこかへ向かって走り出した。


「こら! ガンブレッド、何してるんだ!」


アルフリードが慌ててガンブレッドを追いかけ始めた。


私も彼らに追いつこうと一生懸命走るが、どんどん距離が引き離されていく。


ガンブレッドは馬だから早いのはもちろんだけど、アルフリードは長い足で全速力で走っているからか人間とは思えないような速さだ。


初めて会って抱え上げられた日も、あの速さで運ばれていたんだろうか?

顔に当たる風が痛かったくらいだから、きっとそうだろう。


やっと彼らが立ち止まっている馬小屋の前までこれた。


息切れで私はもう死にそうだった。


やっと落ち着いてきて、花の入った大きな袋を腰にぶら下げた、ガンブレッドの濃い茶色の尻尾がブルンブルンと回るように勢いよく振られているのに気づいた。


アルフリードは呆れたようにガンブレッドと同じ方を向いて、何かを眺めている。


私もそれが見える方に寄ってみると、

そこには芦毛色をした綺麗な仔馬が1頭だけこじんまりとした柵の中に立ってじっとしていた。


そして、その大きな真っ黒な瞳がついている顔を……ガンブレッドがペロペロと舐め回していた。


どうやら、彼は相当その子のことが気に入ってしまっているらしい。


「さっきそこに係員がいて聞いてみたら、生まれて3ヶ月になるメス馬なんだって」


これはもう、私のためというより、ガンブレッドのためという感じになってしまったけど、この芦毛色の子が私の将来の愛馬になった。


「調教には1年ほどかかるって。それまでの間、時々ここに様子を見に来てあげようね」


帝都への帰り道、アルフリードは私を後ろから抱えながらそう言った。

 

あの子の名前は”フローリア“にした。

たくさん花を摘んだ日に出会った子だから。


1年たったら、フローリアはどんな風に成長しているんだろう。


それまでに私も乗りこなせるように乗馬も頑張らなくちゃ。

騎馬もできるように、槍も扱えるようにしなきゃだし。



帝都に入って自宅に戻った頃にはもう、あたりは随分と暗くなっていた。


リューセリンヌがあった土地で摘んだ花が入った袋は、アルフリードが持って帰ることになった。


ほとんどの庭が公爵様いわく自然のままの状態になっているけど、一応、ヘイゼル家のお屋敷には庭師の使用人さんもいるので、一旦その方に管理をお願いしてもらう事になった。


アエモギの花は、アルフリードのお母様の庭に植える根の付いてるものを少量、彼に持ち帰ってもらって、ほとんどは香水作りのワークショップのために使わせてもらうことになった。



そして、次の日。

待ちに待った王子様のワークショップの日。


お母様とイリスと共にやってきたのは、皇城の敷地内にある、こじんまりとした離れだった。

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