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17.エルラルゴ先生とのお喋りタイム

「そうそう! エミリアちゃんにぜひお願いしたい事があったんだ」


 急に王子様は瞳をきらめかせ始めた。


 な、何でしょうか??



「女騎士が皇女様を守るって小説、すっごく気になってて、貸してくれない?」


 もしかして、嘘から出まかせで言ってしまった、女騎士を志願した理由を説明するのに使った、あの小説のこと? 


「も、申し訳ありません。あの本は無くしてしまって、今は手元には持ち合わせていないのです」


 なんとか言い逃れしないと……


「ロマンス小説とか、そういうファンタスジックな話、出版されているものは全部読んでるくらい大好きなんだよ。でも、図書館にも蔵書されてないし、出版履歴にもそういった本が見つからないんだよね」


 思ったより本格的に調べてるな……

 もはや、実在する本ではないと気づかれるのも時間の問題な気がする。


「えっと、小説は小説でも実在してないというか……夢、夢です! 夢の中でそのような本を読んだのです!」


 王子様はハッとしたような表情をしている。

 これで、ごまかせたか?


「なるほど! だからいくら探しても見つからないんだ」


 やった、これでこの話は解決ね。


「隠された令嬢を憧れだけであれ程の行動に駆り立てたんだ……すごく興味深いよ。いつでもいいからさ、その夢の小説の内容、書いて持ってきてくれない?」


 神様に祈るように手のひらを顔の前で組んで、あの少女漫画みたいなキラキラした瞳を潤ませながら、王子様は懇願してきた。


 なんだか面倒なことになっちゃったな、と内心思いつつも、王子様はもしかしたら突然、何かが起こっていなくなってしまうかもしれないのだ。

 そう思うと、彼の願いを無視する訳にはいかなかった。


「分かりました、書いてくると約束します」


 私は口元に笑みを作って、王子様に答えた。


 すると、王子様は少し目を細めた。といっても元々が大きすぎるので大して細くはないのだけど。


「ああ、その笑顔を見れたって、アルフリードはすごく喜んでたよ」


 なんで、ここでアルフリードの話が出てくるの?

 小首を傾げていると、


「初めて彼が君の屋敷に行った日、手土産にお菓子を持っていったでしょ」


 王子様は2人きりしかいないのに、少し小声で話始めた。


 あの、皇城のパティシエ特製のケーキのことだろうか。あのケーキは本当に格別に美味しかった。


「君にベタ惚れしている彼からの初めてのプレゼントにしたら、お菓子なんてしょぼいって思わなかった?」


 しょぼい? パティシエさんに何て失礼な! 美味しかっただけじゃなく、疲れ切っていた私の状況を一瞬で癒してくれた。


 あの時、あれ以外のプレゼントを受け取っていたとしても、同じように嬉しくなんか感じられなかったはずだ。


 私は怒った顔をして、首をブンブンと横に振った。


「本当はあの日、大変だったんだよ。ロマンス小説でよくいるじゃない、主人公のヒロインにバンバン、バンバンお金に糸目をつけないで色々送りつけてくるお金持ちの相手役っていうのが」


 全部読み漁ってるというだけあって、小説で例えるのが好きなのね、王子様。

 私も前の世界では、仕事終わりのストレス発散が特にロマンス小説を読むことだったから、詳しさには自信がある。


 確かに、相手役の皇帝や公爵がドレスやら、ジュエリーやらをまとめ買いして贈るシーンは、ほぼ毎回出てくるわね。


 まさか、アルフリードもそれをやろうとしてたってこと……?


「ヘイゼル公爵家は代々、倹約家で知られている。エミリアちゃんも驚いたでしょ? あの屋敷の気味悪さ」


 良かった、同じ感性の持ち主の人がいた。でも、今度はアルフリードの幽霊が出そうなあのお屋敷の話?


「あそこは帝国が出来た約200年前に建てられたんだけど、500年は持つようにと強固な石造りになってる。だから特別なメンテナンスをしなくても、住もうと思えば住めてしまえるんだ。男所帯だから見た目とか、快適に過ごせるかっていうのは公爵もアルフリードも気にしてないし、お金がかからないに越したことはないからと、あんな風になってしまってる」


 公爵様は唯一この世界でまともだと思ってたのに、それも怪しくなってきた……生まれた時からあそこで過ごしていたら気にならないものなの?


「もともとが裕福なのに、さらに倹約してるから、資産があり余っちゃってて。女の子へのプレゼントくらいしか彼には使い道が思いつかないんだよ」


 初めて会った次の日に、高価な品々が送りつけられたり、彼が持ってくるのを思い浮かべると、かなり胸焼けがして来そうだ。

 しかも、あの時はかなり疲れていたし、欲しくもないものをもらっても困ってしまうし、疲れも倍増しそうだ。


「ソフィも私も聞いてるだけで具合が悪くなりそうな物を本気で持って行こうとしてたからね。本人が喜ぶようなものじゃないと100%嫌われて避けられると脅して、やっと甘いものに落ち着いたのさ」


 そういえば、甘いものは好きじゃない? と聞かれて思わず“大好きです”と答えてしまったとき、アルフリードは目を見開いてすっごく嬉しそうにしていた。


 その後、私は夢中で食べていたから覚えていないけど、無意識に笑っていたのかもしれない。


 あの幸せな時間の裏側には、王子様のそんなアドバイスがあったんだ。


「だけど」


 突然、王子様は綺麗で可愛らしい顔を正面からズズッと近づけてきた。

 驚いて思わず座ったまま上半身を後ろに引き下がると、


「これから婚約式に向けて、面白いことになっていくはずだから、楽しみにしててね」


 と言って、王子様は何か裏がありそうなニッコリ笑顔を作った。


 思えば、婚約式まであと2週間になるところだった。



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