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3回目の観光ツアー2

「ハハッ 急に鼻血なんか出すからビックリしたじゃないか。ふーん、僕の姿に興奮したなんてね……まだまだ、エミリアのことで知らなかった事が沢山あるんだなぁ」


 なんとか無事にスパでのデート(?)を終えた私たちは、帝都の市場でフランクフルトみたいな食べ歩きフードを買って食べながら、今度はお買い物を楽しむことになった。


 ちなみに私の格好は、彼が用意してくれていてアリスにさっき着替えさせてもらったオシャレな外出着に、このデートの時には定番となっているポニーテールヘアにアレンジされていた。


 しかし、せっかくのお出かけだっていうのに、あんまり彼が心配してヘイゼル邸に帰ると言い始めてしまったので、仕方なく渋々ながらも本当のことを話したのだった。


「鼻血ばっかり出されても困るけど……エミリアがどんな事で興奮するのか、さぐるのも楽しそうだな。あ、そろそろ5分経つから、エミリアこっち向いて」


 なんだか恐ろしいことを口走ったアルフリードにビクつきそうになっていると、彼は市場のど真ん中だというのに、そんなこともお構いなしに私の方に向かい合うと、首を下に向けて、口づけをしてきた。


 一応、彼といる時はこんな感じで5分に1回はチューをするのが当たり前となってしまっていた……

 あのアル中の治療を施してた時みたいに、周りに人がいようがいまいが、今のところ行われているのだけど、これも一体いつまで続くのやら。

 まさか、ずーっと、ずーーっと、私たちがお爺さんとお婆さんになっちゃっても続く訳じゃないよね……? 


 かすかによぎっていった疑念を受け流して、キスを終えた私たちが向かった先は、前回も訪れた乗馬グッズのお店だった。


 前回は唯一、彼が反応を示してくれた革製のペアルックの手袋しか買わなかったけど、今度は、ガンブレッドとフローリアにミュミュちゃんへのお揃いの鞍とか、防寒グッズなんかを買い込んだ。


「じゃあ、ヘイゼル邸まで届けてください。その時に一括してお支払いしますから」


 アルフリードはお店のご亭主に、まったくもって余裕の様子で朗らかにそう告げながら、今度はファッション街の方へと向かっていって、私にたんまりと洋服やらバッグやら帽子やらを買い込み、そのお礼ではないけれど、今度は私が彼に似合うものをってことで、紳士服のお店に入って、色々なものを試着してもらった。


「僕の洋服をエミリアと選びにくるなんて初めてのことだな……僕も父上も着るものや周りに置くものにこだわりは無いから、いつも適当だけど。エミリア、どれがいい?」


 そうして、とっても高級そうな仕立てのいい上着やら、ズボンやら、コートやらを羽織り出した彼だったけど……


 いや、どれも似合いすぎてて、逆にどれでもOKなんですけど。


 それにしても、いつも皇城に着て行ってるものや、お家でくつろいでる時に着てる部屋着ですら、恐ろしいほどに洗練されてて、どれもこれも完璧に着こなしてる彼だっていうのに……適当に選んでたんだ。


 一流の人っていうのは、なんでも一流に見えてしまうっていうけど、やっぱりアルフリードはすごいんだなぁ……


 ただ唯一、周りのことを気にしないあまり、邸宅がひどい有様だったのに放置していた彼と公爵様は、そこだけは本当にあり得ないけど。


 その根本をつかさどる倹約家というモットーを持つ彼らは、私やガンブレッド達、それにクロウディア様以外にはお金をかけないようにしているらしい。


 ということで、スパを貸切にしたり、私の洋服なんかは沢山買ってくれたのに、アルフリードは自分の分は新しいのを一着買えればそれで十分と言い出した。


「じゃ、じゃあ、アルフリード、今日は私がプレゼントしてあげるから! 皇女様たちの発表セレモニーで窮地を救った謝礼金をこの間、たんまりともらったから遠慮しないで大丈夫だからね!」


 そう、あの出来事により、帝国のみならず、キャルン国にナディクス国からも莫大なお礼を頂いてしまったのだが……


 多分、今日彼がスパを貸切したり、お買い物に使った額で、けっこうな割合を使い果たしてしまうような額だと思う。


 それほど、公爵家の財産というのはものすごいのだけど、ともかく、今日は楽しい思い出を上書きしていく日なんだから! 彼から貰うばっかりじゃなくて、お互いに贈り合いができた方が素敵じゃないかな?


「うーん……分かったよ、エミリアがしたいようにすればいいよ。エミリアが買ってくれる服なら、ずっと大切にするよ」


 そうして、少し考えてからお返事をしてくれた彼には、これから寒くなってくる季節に丁度良さそうな羊毛を使ったツイードの三つ揃えのスーツに、皇城へ着ていくのに良さそうな黒い上着などなど、いくつかを贈ってあげたのだった。



 そしてお次は……


「行けー! 今こそ、帝国(はつ)の女騎士、お前の出番だ!!」


 帝都の中心地にあるオペラハウスには、観客が誰もいなくって、舞台がものすごく良く見える、ど真ん中の上の方にある個室の観覧席。


 そんな中にいる私たちの横には、鎧を着たカッコいい感じの女の人がいて、この観覧席の天井に吊るされているワイヤーみたいなものから垂れ下がっている輪っかの紐を両手で掴むと、


「ウィッハーー!!!」


 不思議な雄叫びをあげながら、そのワイヤーみたいなものが一直線に張られている舞台の方へ向かって、ターザンのごとく下へと一気に紐にぶら下がりながら滑り落ちていった。


 このアクロバティックな演出がされているのは、ここの世界では諸外国にも知られている有名な戯曲『伝説の女騎士』の舞台劇である。


「う、うわー、すごいね。貸切にすると、こんなふうに目の前まで役者の人たちが演技しにきてくれるんだね……」


 そう。本日2回目となる“貸切”の登場。

 さすがにスパみたいに昨夜からずっとではなくて、この時間帯の演目だけだけど、アルフリードは私と2人きりで鑑賞するために、この舞台を抑えてくれていたのだった。


 前回は、どんなに面白いことを役者さん達がやっていても、彼はつまらなそーに顔を背けて目をつぶって眠ってしまったりなんかしてたけど、今回は事あるごとに私と顔を見合わせて、ニッコリと笑ってくれたり、一緒になって驚いてみたり、ドキドキするような場面では手を握ってくれたり。


 すっごく、すっごく飽きる事なく、楽しすぎる時間があっという間に過ぎていった。



 そしてそして、お次の思い出上書きデートコースは……


「はぁ〜 洗い立てだから、いい匂いがするなぁ」


 私よりも時間のかかるエステメニューをこなしていたガンブレッドをスパにお迎えに行って、そのフワフワでツヤッツヤな毛皮に包まれた背中にまたがっているアルフリード。


 そんな彼の前に座ってる私の頭に鼻先をつけて、やたらとスースー、スースーと匂いを嗅ぎまくっているのだ。


 それは初めて、このデートに訪れた時にも彼がしていた仕草で、この性癖はいかがなものか……以前と同じように若干ドン引きしそうになりながらも、彼が楽しんでくれているならまーいっか、と後ろからきつく抱きしめられながら大人しくしていた。


 そんな私たちを乗せているガンブレッドは、石畳でできている坂道をゆっくりと登り始めた。


 そして到着した場所は……


「やっぱり秋の味覚が使われてるのが多いな。季節ものを2品くらい頼んで……エミリア、どれがいい?」


「うーん、やっぱり定番メニューのセットがいいんじゃないかな? ……もちろん、リルリルは抜きにしてね」


 横にある窓からは帝都の街並みが見下ろせて、遠くの方には青くて上の方には白い雪が積もってるのが見える山々の景色が広がっている、お馴染みの帝国料理が楽しめる高台のレストランだった!


 1番最初は、私がこの世界にきたばっかりって事もあり帝国料理が全く分からない私に代わって彼が全部注文してくれたけど、2回目の時は何の気力も無くなってしまった彼に代わって私が全部注文してた。


 だけど、今回は2人でメニューリストを見比べて、食べたいものを話し合って……

 こんなふうにして一緒に注文したご飯が次々に運ばれてきて、私とアルフリードはともかく沢山おしゃべりしたり、笑い合いながら、その美味しいお料理をお腹いっぱいに味わった。


 そして、モンブランみたいな栗を使ったデザートをいただいて、あとはもうテーブルに乗っかってるのは紅茶の入ったカップだけになった。


 そのカップを持って一口飲んで、手をお膝の上に戻そうとした時、その手を掴まれた。


 そして、されるがままに何をされるのか見ていると、私の手の指の間に、さらに指が割り込んできた。


 そのままギュッと握り締められると、私の胸もギュッとされたみたいに急にドキドキとしてきて切なくなりながらも、私も同じように彼のそれを握り返していた。


「エミリア……この前、君が言っていたこと、覚えているよ。初めてここでこうした時に、僕と目線も合わせられないくらい本当はドキドキしてたんだって……」


 彼はそう言って、爽やかだけど上品に控えめなその笑顔を私に向けた。

 前回は私がそうしても、何の興味もなさそうに憂いに満ちた表情で窓の外の方をぼんやりと見ていた彼……


 それでも、その耳に私が告白みたいに言ってた言葉はちゃんと届いていたんだ……

 不意にじわじわと瞳に涙が浮かんでいって、私も彼に向かって微笑み返すと、絡ませ合っている手を乗せているテーブルを挟んで、私たちは顔をお互いに近づけて目をつむって口づけをした。



 そうして、ランチタイムを過ごさせていただいたレストランから出て、次に向かった場所。


 そこは、野花がところどころに咲いている、緑の草むらが広がっているエリアだった。


 そこに流れている小川を目にした途端、その前に背中を向けて佇んでいた彼が、泣き叫ぶ私を見向きもせずに置き去りにして、ガンブレッドと共に走り去って行ってしまった姿が鮮明に頭の中に浮かび上がってきた。


 正直なところ……私にとっては思い出すのもツラい、トラウマ的なあの場所だった。

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『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
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サイドストーリー
連載中『ラドルフとイリスの近況報告【改訂版】』
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