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エピローグ2

 そのノックの音に一瞬ハッとするも、一度ゆっくりと息を呑んで私は声を出した。


「はい、どうぞ」


 ドアノブが回されて入ってきたのは……

 以前にも見たことがあった、黒いガウンを身につけたアルフリードの姿だった。


 披露宴ではかき上げられて固められていた前髪は、いつものように(ひたい)に下ろされていて、ツヤツヤと光沢を放っていた。


 カチャリ、と静かにドアを閉めると、ゆっくりと彼はベッドに腰掛けている私の方へと歩いてきた。


 そして、履いていた室内ばきをベッドの前で脱ぐと、布団をギシギシと沈ませながら、その上にヒザをついて私のそばへと近づいてきた。


 私はそんな彼のことを真正面から見ていられなくて、自分の髪の毛をいじりながら、横を向いて彼の気配がやってくるのを感じていた。


「エミリア、今日はお疲れ様」


 彼は私が髪の毛をいじっているのを邪魔しないかのように、私の体を腕で大きく包んで、私の頭をその手のひらで撫でた。


「あなたもお疲れ様でした。疲れたでしょう?」


 本当はこれから起こるであろう事が急に始まるのかな……と体が強張っていたけれど、彼の優しい声かけに少し緊張がほぐれて、私はかすかに笑みを向けながら彼に問いかけた。


 アルフリードは私の事を抱き寄せると、甘えるように私の肩に頭をもたれかかった。


「全然。君のそばにずっといられたし、何よりも美しく着飾った君に目を向けるたびに、疲れなんか一気に吹き飛んでいったよ」


 そうして彼は私の肩の上で、もぞもぞと頭を左右に振った。

 そんな仕草がまるで子供みたいで、私はクスリと笑いながら、彼と同じようにその体を抱き締めた。


「私も、あんなに婚礼服が似合う男性の横にずっといられて幸せだったし、あなたに見つめられるたびに嬉しくて疲れなんて感じられなくなっちゃったもの」


 そう話すと、彼は肩にうずめた顔を見上げ、私の頬に手を当てて親指でそこをそっと撫で始めた。


「エミリア。これから本当に僕の奥さんになってくれるんだね」


 改めてそう言われると、なんだか不思議な気分だ。

 だけど……


「そうだよ、アルフリード。あなたは私の旦那様になるんだね……私、ヘイゼル家の次期公爵の妻として頑張るからね」


 そう。これまで彼を救って皇女様を護るために奮闘していたけど、これからはヘイゼル家のために、彼のために私の奮闘人生は新たなる幕を開けるのだ。


 そんな私を彼は少し呆れたように、フッと笑った。


「本当に、君は自分が思った方向にどんどん突き進もうとするんだな。エミリアの好きなようにすればいいけど……絶対に君には苦労を掛けるような事はしないよ。ただ僕のそばで笑っていてくれればいいんだ。それだけで、僕は幸せだよ」


 彼は私を包み込むように、上品で控えめな笑みをこちらに送っていた。

 やっぱり彼は優しいし、こんな事を言ってくれるなんて最高の旦那様だよ。


「ふふ、それは私も一緒だよ。あなたにはずっと笑っていてもらいたいの。それが私の幸せだから。でも、もし何かあった時にはあなたと共に乗り越えさせてね? それも私の幸せだから」


 彼は一瞬目を見開くと、私の顔にその綺麗な顔を寄せて囁いた。


「エミリア愛してる……もう、これ以上我慢できない。僕のものに……なってくれるかい?」


 あまりにも切ない瞳で見つめられて、私の心臓は早鐘のようにドクドクと鳴り出したけれど、私は口元に笑みをたたえて彼の方を見ながら、コクリ、とうなずいた。


 彼は目をつむって私の唇をその口でふさぐと、そのまま一緒にフカフカの布団の中へと沈み込んでいった。




 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえている。

 目を開くと、部屋の中には明るい光が差し込んでいた。


 私の目の前には、長く黒いまつげがけぶるように生えたまぶたに、端正な顔立ちをした穏やかな寝顔が横になっていた。

 この世で私の最も大切な男性。


 その引き締まった頬に手をやって、昨日彼がしてくれたように親指でその頬を撫でていると、焦茶色の瞳がパチリと開いた。


 彼は私の体に回していた腕を引き寄せると、チュッと短く口づけをした。


「おはよう、エミリア。……大丈夫?」


 彼は私を抱き寄せた体勢で、心配そうに顔を覗き込んだ。


「うん……まだ変な感じがするけど、ずっとこうしていたいな……」


 私は筋肉に覆われた彼の胸に頭を当てて、その弾力を感じながら目を閉じた。


「数日は休みを取ってるし、その後は新婚旅行が待ってるからね。心ゆくまで、僕の腕の中でゆっくりしていればいいよ」


 彼は私の髪をサワサワと撫でながら、穏やかに安心しきったような声でささやいた。


 そうして私達は誰にも邪魔されることなく、この2人きりの時間をしばらくの間、堪能したのだった。

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