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149.お約束の……

 いち大イベントへの遠征へ向かう前日。


 私は事前準備のために、皇城へ1泊して直接そこから皇女様たちと一緒に現地へ出発することになった。


 皇城へお泊まりするなんていうのは、リリーナ姫の女騎士に就任させられてしまった、最初の2日間以来のことだった。(その後はスパリゾートに移動してしまったので)


 皇城は来客用のお部屋だったら何も用意しなくても大丈夫だけど、私は今度は皇女様の女騎士として彼女の部屋の隣りに設置されてる騎士部屋で一夜を明かすことになる。

 お仕事として滞在するからには、ちゃんと歯磨きとか下着とかお泊まりグッズを持参しなければならない。


 本当はそんな催しではないのだけど、まるで遠足に向かう準備をしてるみたいにワクワクしながら、フローリアの鞍の後ろに括り付けられるリュックみたいなカバンに、自ら持っていくものを詰めていった。


 ふぅ。これで準備OKかな。


 私の服装はといえば、もちろんアルフリードがプレゼントしてくれた皇族騎士団の騎士服だ。


 いつも皇城に行くならこの格好でOKだけど、明日は皇女様の馬車の先導をするのにこの上に着用する鎧も着て行かないとならない。


 自分の部屋の大きな鏡の横に立てかけてある、コンパクトサイズの白銀色をしたカッコいい鎧の方に歩いて行って、手を伸ばした。


 すると、その横に綺麗に飾ってある、別の制服がおのずと自分の視界の中に入ってきた。


 これまでアルフリードと会った時からずっとお世話になってきたエスニョーラ騎士団の騎士服だった。


 皇女様をお護りするのにはやっぱり今着ている皇族騎士団の制服以外には考えられないけど、こっちの制服にも愛着が湧いてきてしまっているのは事実でもある。


 私が持っている騎士服はこの2着だけで、どちらもXSサイズっていう超極小の特注ものだ。

 万が一……今、着てる皇族騎士団の制服が汚れちゃったり破れちゃったりとか、もしもの事があった時に、こっちのエスニョーラの制服も持っておけば、もしかしたら助かった~と思うようなことがあるかもしれない。


 ほとんどお守り代わりのような感じだけど、さっきまとめた荷物の中にこっちのベージュとえんじ色をした騎士服も綺麗に畳んで持って行くことにした。


 鎧の方は、1人でも着れる練習を何度かしたけど、工房長さんが言っていたみたいにすっごく簡単で、今日もすぐに着れてしまった。


 しかし……鏡に準備の整った姿を映して、若干微妙な思いが込み上げてきてしまう。


 鎧を身につけてしまうと、下に着てる皇族騎士の騎士服が全然見えなくなってしまうのだ。

 鎧ももちろんカッコいいのだけど、アルフリードからもらった物が見えなくなってしまうというのは、何とも残念で仕方ない想いがするのだった。


「エミリア、気をつけて行ってくるんですよ」


 荷物を持ち、さらに先日ゲットした幻の剣とともに自宅邸の玄関前へ行くと、そこには家族の面々や使用人さん達が勢揃いしていて、フローリアに乗る準備をしている私にお母様が心配そうに声を掛けてきた。


「お嬢様、帝国の行く末を私たちの代わりに見届けてきてくださいね」


 まだお腹は小さいけれど、そう言いながら新しい命を宿しているそこにそっと手を当てながらイリスがそばに寄ってきた。


「エミリア、これで僕が言った通りになるんだね」


 もう1人で立って歩けるリカルドは、小さいながらも貴族の男の子らしいサスペンダー付きの黒い短パンに、長袖の白シャツ姿で言葉を発しながら、私の方に手を伸ばしてきた。


 そこには一輪の黄色い花が握られていて、私はしゃがみながらそれを受け取った。


「私とラドルフは明日、合流するからな。アルフリード君、エミリアのことを頼んだよ」


 最後に、中央の方にいたお父様が、私のことを迎えにきてくれていたアルフリードに向かって話し掛けた。


 遠征には貴族家の当主が絶対参加である上、皇城で働くお兄様とエスニョーラ騎士団も同行することになっている。


 とはいえ、同行する群れの中心にいる皇族メンバーと一緒にいる私とは遠い位置になってしまうだろう。

 遠征中は多分、顔を合わすことも難しい状況になると思う。


「もちろんです侯爵様。決してエミリアから目を離さないと誓います」


 アルフリードはとても真剣な眼差しで、お父様を見据えた。


「それと……あの話をお聞きになりましたか?」


 すると、アルフリードがお父様に向かって何かを切り出した。

 あの話、とは何だろう? 私には検討がつかなかった。


「ああ、新型の兵器が開発されているらしいという話だろう? あの鎧を盗んだ連中が一枚噛んでいるというではないか」


 し、新型の兵器……?


 すると、お父様の隣りにいたお兄様が前に出てきた。


「まあ、発表を行うと3国中に通知を出している訳だからな。同盟が強固になる兆しを快く思わない輩どもが、何らかの動きをしてきてもおかしくはない」


 ええっ…… 何だか不穏な空気だな。

 私は昨日まで皇城にいたものの、世間の情勢が耳に入ってくるよりも鍛錬の方に集中してしまっていたみたいだ。


「とは言っても、皇族方やナディクス、キャルンの王族方は帝国の全武力が360度を取り囲んでお護りするのだ。それに、この発表を遅らせてしまえば、ますます状況は悪くなる一方だ。なんとしても中止する訳にはいかないだろう」


 そうお父様が話を締め括って、私とアルフリードはそれぞれの愛馬に乗り込んで、皇城へと向かった。


 私を運んでくれているフローリアの片耳の横には、リカルドからもらった一輪の黄色い花を挿してあげていた。



 皇城に到着して皇女様のお部屋へ向かうと、そこでは見たことない豪華なドレスを着ている皇女様と、周りを忙しなく動き回っているエルラルゴ王子様、それになぜかリリーナ姫の姿も一緒にあった。


「よし、ソフィのはこれでイメージ通りに行ったかな」


 王子様は首から長い紐状のメジャーを掛けていて、裁縫用のピンクッションが付けられている手首を自分のアゴに置いて、皇女様のお姿を納得の表情で見つめた。


「ちょっとエルラルゴ! 私のイメージしてるのはこれじゃないのよ! いつものフロントオープンのアレンジ版って言ったでしょ!!」


 そんな王子様の方に、リリーナ姫はドスドスとハイヒールなのにそんな効果音が鳴りそうな歩き方でガナりながら、歩み寄った。


「だけど、明日は歴史的にも最上級にフォーマルな場になるんだから。あんな足丸出しの格好、一国の王女として、はしたな過ぎるだろ」


 そんな姫に、首を横に振りながらサラサラな金髪をなびかせて王子様は呆れたように物申した。


「ふん、そんな常識にとらわれてるようじゃ、最新のファッションは生み出せない。そう言ってたのはエルラルゴ、あんたじゃない!! 明日から、わたくしの最上級フォーマルの装いが変革をもたらすのよ!!!」


 ちょっと自分軸が逸脱しすぎてしまった感が否めない様子で、リリーナ姫はさらに物申して一歩も引かない感じだ。


 そんな2人のバトルをユラリスさんが間に挟まれ、青ざめた表情で1人見つめているのだった。


「はぁ、まったく彼らは主役だっていうのに、大丈夫かな。僕はジョナスン殿下の所に行かないといけないから、エミリアいよいよ明日だけど、よろしく頼むよ」


 アルフリードはそう言ってジッと私の方を見た。


 その雰囲気はとても静かで、心配そうだったり不安そうだったりする気配は感じられなかった。なんというか、皇女様の女騎士になってお護りしたいっていう願望を叶えさせてあげたい。

 そんな想いが伝わってくるようだった。


「うん、アルフリード。私の方こそ、よろしくお願いします!」


 もはやそれは私の願望とは呼べなくなってしまったけど、それでも彼の期待に応えるべく、私はニコやかな笑顔を向けて元気よくうなずいた。



「ではな、エミリア。明日は早いし1日中、馬に乗っていることになるだろう。女騎士は就寝中は半覚醒状態を維持しなければならないそうだが、そんな事はしなくて良いからな。しっかり寝て、英気を養っておくのだぞ」


 夜になり、ちゃんと騎士用のお食事も取らせていただいて、お部屋には皇女様と私だけになった。


 ネグリジェ姿の皇女様におやすみなさいをして、そこに併設されてる狭い騎士部屋に移動した。


 キャルン国とナディクス国との国境には昼1日をかけて到着する感じだ。

 明日は朝の4時半くらいに出て、現地には昼の3時か4時くらいになる予定だ。


 私も持参してきたネグリジェにお着替えさせてもらって、歯を磨いたりして、お布団に早々に潜り込んだ。


 今ではお飾りではなく、ちゃんと護衛の役割を担っている女騎士は、主人の就寝中も常に神経を尖らせておく半覚醒状態で横になってないといけなくなってしまってた。


 それをしないでいいってことなので、寝つこうとするも、古い皇城の騎士部屋のベッドというのは固くて、狭くて違和感が無くなるのに少し時間を要してしまった。


 そして……


「エミリア、エミリア! もうそろそろ出る時間だぞ、何をしている!」


 突然、皇女様の大きな声がしてハッとして両目を開いた。


 そこには、昨日エルラルゴ王子様が満足げにしていたゴージャスなドレスを身にまとっている皇女様の姿。


 そして、壁についてる監獄みたいに小さな窓からは、ちょっと薄ら明るい空が見えている。


 ……


 やっっっべぇ…… 危うく寝過ごしそうになったってことぉ!?


「も、申し訳ありません! 今すぐ準備いたします!!」


 すぐさま飛び起きると、皇女様を押し退ける勢いでダダダダッと持参してた荷物の方に向かって言って、ネグリジェを脱ぎ捨てて、持ってきた下着を着込んだり、騎士服を超特急で身につけて、こんな時非常にありがたいワンタッチ式の鎧をすぐさま身につけた。


 ふ、ふ、ふぅ。

 ここまで来ればもう大丈夫かな?



 すでに騎士部屋から出て行った皇女様を追おうと、先日手に入れた大事な剣を掴んだ時。


 なぜかその横にある持参した荷物の中にオカシな代物が見えてしまって、思わず二度見してしまった。


 え……どういうこと?

 なんで、これがここに……


 恐る恐る荷物に手を突っ込んで持ち上げてみると、そこから出てきたのは白くて神々しいユニフォーム。肘やヒザ部分は、青磁色になっている。


 つまり、アルフリードがわざわざ特注をして、今日のこの日に着るために仕立ててくれた、皇族騎士の騎士服が目の前にあるのだ。


 じゃ、じゃあ、今着てるのはまさか……


 鎧のせいで確かめる事はできないんだけど、多分そうだ。


 お守り代わり~とか思って、なぜか持ってきてしまっていたエスニョーラの騎士服に違いない。


 くっ……どうして、どうして、こういう大事な時にこんなヘマをしちゃうんだよぉ!


 なんとか着替えたいけど、皇女様をお待たせしてしまっているのだ。

 もう、諦めるしかないだろう。


 それに、鎧を着ていれば中の騎士服は見えない訳だから、気にしなければそれで問題はないだろうし。


 そう即座に気を取り直して、剣を腰にぶら下げて皇女様の元へと向かったのだった。



 まだ日の登らない中、皇城の正面口には2台の馬車が停まっていて、1つには皇帝陛下に皇后様、皇太子様と皇女様が乗り込んだ。


 そしてもう1つには、エルラルゴ王子様とユラリスさんに、リリーナ姫が乗り込んだ。


 正面口は大きな広場にもなっているので、彼らをお護りする皇族騎士団にその四方を守るため、帝都と国境とは反対に位置する貴族家の騎士団もそこに既に集結していた。


 その人数は何千にものぼっていて、こんな大群を見るのは初めての経験だった。


 皇女様たちの乗り込んだ馬車の前に、私はフローリアにまたがって、さらに憧れだった長い槍を肩にもたれかけさせて、前にいる大群の騎士に合わせて前に進み出た。


 そしてその横には、初めて王子様の歓迎会で会った時に着ていた、軍服みたいなヘイゼル家の司令服を着たアルフリードがガンブレッドにまたがって私と並行していた。


「行ってらっしゃい!」


「どうか、無事にお戻りください!」


 進みゆく帝都の沿道には、朝早いというのにたくさんの住人たちがお見送りに起き出していて、いくつもの声援が耳に届いてきた。


 まだ、発表の内容というのは住人の人たちには伏せられているけど、これから起こる事で世の中が変わるっていう期待をみんな感じているようだった。


「エミリア様ー! がんばってー!!」


 そんな声援の中から、なぜか私の名前が聞こえてきて、キョロキョロとあたりを見渡していると、道の一角のちょっと高い位置に女の子が数名立っていて、こちらに向かって大きく手を振っていた。


 仲良しのご令嬢のオリビア嬢にマリアンヌ嬢にミゼット嬢、その他のご令嬢たちも来てくれていたんだ!

 私も手を振り返して、みんなから遠ざかっていくと、次第に街からも離れて一向は草原地帯などを進んで、刻一刻と目的地へと近づいていった。


 国境までの行く道に近い貴族家の当主と騎士団は、途中途中でこの一行に合流していくので、どんどんと私たちを取り囲む群れは大きく大きくなっていった。


 これだったら、昨日アルフリードやお父様たちが言っていたみたいな、同盟を快く思っていないような人たちが何かをしてきたとしても、皇女様たちにまで危険が及ぶということは、さすがに防げるんじゃないかな。


「この岩場を抜ければ、塔まではもう目と鼻の先だよ」


 私たちが進む道は平地だけど、周りがいくつもの高い黄土色の岩が立ち並んでいるエリアに差し込むと、アルフリードがそう教えてくれた。


 もうすぐ、もうすぐで待ちに待った場所に到着するんだ。

 きっと無事に何もかもが終わる。


 私は槍を肩に抱えながら、空を仰いだ。

 この日の空はすごく青くて、眩しいくらいの太陽の光がサンサンと降り注いでいた。

 あまりにも平穏な空気に、ぼーっとしそうなくらいだった。


 そして、顔を正面に戻したとき。


 ズゥーーーン……


 お腹の底に響くような大きくて低い音が聞こえたと同時に、辺り一体の地面が激しく揺れ始めたのだ。

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『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
目次はこちらから

サイドストーリー
連載中『ラドルフとイリスの近況報告【改訂版】』
目次はこちらから



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