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13.もはや種族を超えたあの人

「おい……何言ってるんだ、彼女は僕のものだ、横取りしないでくれるか?」


 アルフリードは表情も態度も不機嫌を露わにして、皇女様の方にツカツカと寄っていった。


「はいはい、いちいち(うるさ)いんだよ。あんたの事もちゃんと考えてるって」


 皇女様はうんざりとした顔で横を向いた。


「アルフは私の側近なんだから、エミリア嬢が女騎士で私の側にいられるって事は必然的にあんたも一緒に過ごせる時間が増えるって事でしょ」


 アルフリードは目を見開くと顎に手をついて、少し考え込み、


「そうか、確かに……悪くない」


 小さく呟いていた。


「ただし、騎士として採用するのは、教育期間が終わってから」


「教育期間?」


 よく分からず眉にしわを寄せていると、皇女様は凛とした表情で腕組みした。


「まず、そんじょそこらの騎士より強い私を護衛することになる訳だから、きっちり鍛錬を積んでもらう」


 うわー、そんな至れり尽くせりで、研修段階からサポートしてもらえるの?? 


「それから、エスニョーラ侯爵と子息の話じゃあ、ろくに貴族社会の教育も受けてなかったみたいじゃない。これから私の側にいてもらうには帝国式の最高の知識とマナーを身に付けてもらう必要がある」


 ふむふむ、騎士としての鍛錬と、知識マナーの勉強ね。


 ちょっと待って! うちでも勉強、お城でも勉強、どこに行っても勉強勉強……


「うーん、どうせなら知識とマナーは婚約式までに身につけておくと良さそうだな」


 アルフリードが、まさかのお父様とお兄様と同じような発言をしてきた。


「なら、そういうのが得意な適任がちょうど今いるな……」


 皇女様が何か意味深なことを言った時だった。



 扉からドンドンという大きなノックがして、アルフリードが警戒したように少しだけ扉を開いた。


 すると、その隙間を押し開くように白い服を着た肩が勢いよく差し込まれて、アルフリードは一歩後ろにのけぞった。


 そのまま扉が大きく開くと、高く積み上げられた大量の箱を持った誰かが入ってきた。


「あー、もう!! 2年ぶりのお茶会で久々に皆に会ったら、今流行(はや)ってるってものこんなにもらっちゃったよ!」


 高めの声が部屋中に響いた。なんか、この声聞いたことがある。

 まさか、まさか……


 抱えた大量の箱の後ろからひょこっと覗いたのは、

 金色のまっすぐな胸まで伸びた髪に、真っ白な肌、漫画みたいに大きな瞳。


 どう見ても美少女にしか見えない、隣国の王子様だ。


 王子様は、私と目が合うと、歓迎会の時に女騎士になりたいと間違えて直談判してしまった時みたいに、キラキラした瞳をさらに大きくした。


「もう来てたんだね! 小さい騎士殿」


 彼女にしか見えない彼は叫ぶようにそう言うと、側にあった大きなソファに抱えていた箱をなだれ込ませて投げ入れると、タタタッとこちらに駆け寄って来た。


 そして目の前まで来ると、体を横に傾けながら私の顔を覗きこんだ。


「うわー、あの騎士服を着てた時も可愛いと思ったけど、こうしてドレスを着てるとお人形さんみたいだなぁ」


 サラサラと体を傾けた方の肩から金髪が流れていく。


 えーっと、どう見てもお人形さんにしか見えないあなたに言われても全然実感が湧かないんですけど……


 もうなんだろう、無邪気で好奇心旺盛な妖精さんですか?

 もはや性別を超えて同じ種族にすら見えなくなってきた。


 何も言えずにお互いに見つめ合っていると、横からただならぬオーラが漂ってくるのを感じた。

 横目でチラッと見てみると、皇女様もアルフリードも恐ろしい顔をして、必死に何かに耐えているように震えていると思った瞬間、


「それ以上ちょっかい出してると追い出すぞ、エル!」

「僕の大切な人にこれ以上近づくな、エルラルゴ!」


 2人は爆発したように同時に叫ぶと、王子様の両脇を掴んで私から遠ざけていった。


 えっ 何なに? このテンション。

 アルフリードはさっきからちょっと態度がおかしいとは思ってたけど、皇女様まで壊れちゃったの?


「あははは! なんにもしないって、2人とも心配性だなぁ」


 2人に床に引きづられるような姿になってしまっているのに、王子様はあっけらかんとして笑っている。

 これは、気心が知れてる3人組って解釈すればいいの?


 アルフリードと皇女様は幼馴染ってことは分かってるけど、やっぱり隣国の王子様の立ち位置が分からん……


「まったく、何をこんなに貰ってきたのか知らないけど、人の部屋を荒らしやがって」


「こんな奴にマナーの授業なんかさせて大丈夫なのか?」


 これまで接してきた紳士なアルフリードからは考えられないセリフに、さっき皇女様が言っていた適任というワードが頭に蘇ってきた。


「あのぉ……」


「「「なんだい」」」


 私が一声あげると、3人とも人が変わったように朗らかな声で返事をした。

 こ、怖い……


「もしかして、隣国の王子様が帝国式のマナーの先生なんですか……?」


 自国でなくて、他国の人が教えてくれるなんて、どう考えてもおかしいでしょ。


「ああ、そうかエミリア嬢は帝国の内情も諸外国との関係も詳しくなかったんだったな」


 皇女様がまた『可哀想な子だ』と言わんばかりの顔つきで言った。


「はあ、分かったぞ。隠されていた令嬢に、君たちはこの国のマナーを身につけさせたいんだな」


 そう言いながら、ポンポンと服をはたいて王子様は立ち上がった。


「私は幼い頃から人質として約10年間、このバランティア帝国に囚われていた。だから、この国の文化にも精通しているんだ」


 へっ? ひとじち……? 人質!?

 急に物騒なワードが出てきたよ!


「完璧な帝国式レディにしてあげるから、私に任せなさい」


 王子様はニッコリと愛らしい笑みを浮かべた。


「ジョナスンが帰ってくるまでは、ずーっと暇だから楽しみができて嬉しいなぁ」


 さらに王子様は、聞き慣れない人名を被せてきた。

 ジョナスンって誰だ?

 あれっ、でも原作でなんか出てきた名前のような気もする。お兄様みたいにサブキャラでいたかな……


「待て、エルラルゴ。ちょっと」


 アルフリードが王子様を手招きしてそばに呼び寄せると、何かを耳打ちした。

 王子様は何回か頷いて、口の端をニカッと上げて笑った。



 王子様の再登場で一気に謎が解けると思ってたのに、


 なんで10年間、人質に?

 なんで国に戻ったのにまた滞在してんの?

 ジョナスンって誰?


 ……さらに混乱してきたよーー涙

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『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
目次はこちらから

サイドストーリー
連載中『ラドルフとイリスの近況報告【改訂版】』
目次はこちらから



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