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色彩の大陸2~隠された策謀  作者: 谷島修一
謎めいた指令
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巡洋艦スタニスラフ四世号

 大陸歴1658年3月9日・巡洋艦スタニスラフ四世号艦上


 船に乗ると、“チューリン事件”に関連して、レジデンツ島へ向かった時のことを思い出してしまう。あの時は、二隻のフリゲート艦で島に向かっていたが、途中一隻がクラーケンの襲撃で沈没、その乗員の大部分が行方不明となってしまった。

 結局、あの航海と島での戦いでは傭兵部隊百名のうち七十名が戦死した。私の旧友たちも多く犠牲となったので、つらい思い出だ。


 シュバルツに艦内を一通り案内してもらった後、我々は甲板に出た。

 私は甲板の高いところから、隊員達を見た。最近、私は事務方の仕事も多くなっていたので、弟子たちと、ゆっくり話す機会もなくなっていた。二時間の航海の間にちょっと話をしようと思った。


 オレガとソフィアが一緒に居るのが目に入った。

 滅多に乗れない船に乗れて、ちょっと、はしゃいでいるようだ。オレガは船に乗るのは二度目だったか。一度目は一年前、首都からの旅で渡し舟の乗った以来だろう。いつも無表情で感情をあらわにしない彼女のああいう姿を見るのは珍しい。


 私はオレガとソフィアに近づいて話しかけた。

「オレガ、嬉しそうだね」。

「船にはめったに乗れませんから」。

 オレガは、普段は無表情だが、今は嬉しそうに少し笑っている。彼女はまだ十六歳だ、たまに子供っぽいところを見せるが、それは仕方ないだろう。


 私はソフィアに向き直って尋ねた。

「ソフィア、そういえば、魔術はどれぐらいオレガに教えたんだい?」

 オレガには、剣術は私が教えているが、魔術についてはソフィアに教える様にお願いしている。

 ソフィアはオレガの肩に手を置いて答えた。

「私が使える物はすべてです。水操魔術、火炎魔術、念動魔術。オレガは物覚えが良いので、教えるのも楽ですね。でも念動魔術で、空を飛ぶには、まだまだ訓練が必要です」。

「そうか。剣術も呑み込みが早い。遠くない将来、私を越えてしまうかもな」。

 私はオレガに笑いかけた。

「ソフィアのほうは、新しい魔術を覚えたりしていないのか?」

 ソフィアは最近は魔石や魔術書をあさっているようだ。それらを扱う商人と良く会っているというのを耳にしている。

「先月、商人のシュルツが面白い魔術書を持って来たので、一冊買いました」。

「では、また、新しい魔術を使えるようになるのかな?」

「覚えたら、披露しますよ」。

「どんな魔術だい?」

「それは秘密です」。

 と、言うとソフィアは、いたずらっぽく笑って見せた。私のことを驚かせようとしているのか、彼女は知らないうちに魔術を覚えたりする。以前も念動魔術で空を飛べることは、実際の戦闘になってから私は知った。

 私は、わかったよ、というように両手を広げて、微笑んで見せた。


 別のところではオットーとプロブストが会話しているのが見える。彼らは副長に就いてから、よく情報交換をしているようだ。


 フリードリヒ・プロブストは、ここズーデハーフェンシュタットの出身の剣士だ。初期のころから傭兵部隊に所属している。黒髪に中肉中背、剣の腕はそこそこに良いし、機転も利く。 “チューリン事件”で、当時の我々“傭兵部隊”がレジデンツ島へ遠征の任務に就いた時、百人の内三十名しか生き残ることができなかったが、彼はその生き残りの一人だ。

 どちらかと言うと地味で目立たないタイプだったが、副長としてよく部隊をまとめている。『地位が人を作る』と言ったのは、ルツコイだったか。


「オットー、フリードリヒ」。

 私は二人に声を掛けた。オットーが話しかけてきた。

「今回の任務は急ですね。公国が攻めて来ようとしているとか」。

「任務はいつも急だ。しかし、今回の一件も謎が多い」。

「というと」。

「公国の侵攻の理由が不明だ」。

 プロブストが割り込んできた。

「最近の帝国の混乱に乗じたのでは?」

「私もそう思ったが、ルツコイは、国内の誰かが手引きしているのではと疑っている」。

「誰か?」

「国内で発生している暴動の首謀者や旧共和国軍の残党などだ」。

「なるほど。それは考えられますね」。

「しかし、私は、その可能性はないと考えている」。

「それは、どうしてですか?」

「私の独自の情報網だよ」。

 私は適当にごまかした。プロブストには私が共和国派と繋がりがあることは言っていない。遊撃部隊の中で知っているのは、オットーとソフィアだけだ。


 私はプロブストの肩を叩いた。

「最近、私の方は面倒な仕事も増えてしまって、訓練などは任せきりで申し訳ない」。

「隊長が書類の山と戦っているのは、クラクスから聞いております」。プロブストは笑って答えた。「それに、いろいろ任されているので、私は信頼されているのかと思っております」。

「その通り、君らを信頼しているよ」。


 私はオットーに近づいて耳打ちした。

「オットー、モルデンではよろしく頼むよ」。

 オットーの旧友のリーヌス・シュローダーは、モルデンという都市で共和国派の連絡役を担っている。今回の遠征では途中、モルデンに立ち寄るのでオットーにはリーヌスに会ってもらう予定だ。


 二時間ほどして、河の対岸の普段は渡し舟が利用している桟橋に到着した。隊員達は下船を開始した。私はシュバルツに敬礼した。

「ご武運を」。

 シュバルツは別れ際にそういった。我々を下ろした後は、彼らは訓練航海でオストハーフェンシュタットまで航海するそうだ。

 我々は下船し、隊列を組んで進軍を始めた。

 今晩は、宿場町・フルッスシュタットの手前の草原で野営することになる。

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