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色彩の大陸2~隠された策謀  作者: 谷島修一
終章
73/74

手紙

 大陸歴1658年6月22日・ブラウグルン共和国・モルデン


 オットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタイン達がズーデハーフェンシュタットを出発してもうすぐ四か月になる。

 この二人だけなく、多くの人々がこの間の予想外の激しい環境の変化に戸惑いを感じていた。

 まさかこんなに早く共和国が解放されるとは、誰も思っていなかったであろう。モルデンを掌握する計略を立てたクリーガーですら、そうであったに違いない。


 ある日、オットーとソフィアはモルデンにある城の兵舎で話をしていた。

「こんな急展開になるとは思わなかった」。

 クラクスはそう感嘆した。

「しかし、師が心配ですね。今、どうしているのか」。

 ソフィアは心配そうにつぶやく。

 共和国軍の一部に編成されたオットー達は、元遊撃部隊と言えども、もう帝国からの情報提供はない。

 さらに、コフが主導する共和国暫定政府はクリーガーの悪い噂は流すものの、彼自身がどうなったかの情報を入手することすらしていないだろう。彼らは帝国との交渉と今後の共和国内でどう主導権を確たるものにするかで手一杯だ。


 オットーとソフィアの二人が今後の身の振り方について話し合っていると、来客があると軍の者が伝えに来た。

 二人は城の兵舎の近くにある、小さな会議室に連れてこられた。扉の前に兵士が一人立っていた。部屋の中に通されると、白髪の目立つ六十歳ぐらいの初老の男性が椅子に座って待っていた。そして、オレガ・ジベリゴワもそこにいた。彼女も呼ばれて、先に来ていたようだ。


 初老の男性とオレガは、オットーとソフィアが入室するのを見て立ち上がった。初老の男性は小柄でオレガより少し背が高い程度だった。

 男性は一つ咳払いをしてから自己紹介をする。

「私はパーベル・ムラブイェフと言います。帝国の首都で弁護士をしておりまして、ある人からお願いされて手紙を届けに参りました」。

「私はオットー・クラクス」。

「私はソフィア・タウゼントシュタインです」。

 二人は軽く頭を下げた。

「帝国の方が良くここに来られましたね」。

 オットーは不思議そうに尋ねた。

「帝国政府の交渉団の一人として来ました。実は、無理を言って入れてもらったんですがね」。ムラブイェフは、そういうといたずらっぽく笑って見せた。「本当はあなた方に手紙を届けるのが、今回の私の主な役目です」。

「誰からの手紙ですか?」

 ソフィアが不思議そうに尋ねる。

「あなた方がよく知っている方ですよ」。

 ムラブイェフは少しもったいぶって、カバンの中から手紙を三通取り出し、三人にそれぞれ手渡した。


 三人は手紙の封筒に書かれている宛名が自分の物と確認した後、封筒の裏の差出人を見て驚いた。彼らの師、ユルゲン・クリーガーからだった。

 三人は短い感嘆の声を上げた。

 その反応を見て、ムラブイェフは微笑んで見せた。

「最初、クリーガーさんは、軍法会議で死刑を宣告されて、死を覚悟したときに手紙を一度、書いたようです。その後、恩赦で釈放されたので、その手紙は一旦破棄したようですが、ご自身の無事をどうしてもあなた方に伝えたくて、改めてこの手紙を書いて私に託しました」。

「恩赦ということは、師は生きておられるのですね?!」

 オットーが大声で尋ねた。

「もちろんです。彼は首都で元気にやっています」。

 ムラブイェフは笑顔で答えた。そして、やや小さな声で言った。

「ただ、事情があって、しばらくは帝国から離れることはできないと思います」。

「事情とは?」

 ソフィアが尋ねた。

「実は、今後、帝国の人間として陛下にお仕えすることが恩赦の条件とされたのです」。

「そんな!」。

 オットーは再び大声を上げた。

「彼はその条件を飲みました。あなた方も、彼が死ぬよりかは生きていてくれた方がいいでしょう?」

「それは、もちろんですが」。

「そんなに、悲観することはありませんよ。帝国と共和国の交渉が落ち着けば、そんなに遠くない将来、クリーガーさんと会うこともできるようになるでしょう」。

「わかりました」。

 オットーは納得したようだ。


「ところで、ムラブイェフさんは、師とはどこで知り合ったのですか?」

 ソフィアが尋ねた。

「私が軍法会議で彼の弁護を引き受けたんですよ。無罪は勝ち取れませんでしたが、結局は恩赦になってよかったです」。

「そうだったんですね」。

「では、用は終わりましたので、私はこれで失礼します」。

「ありがとうございます」。

 オットー、ソフィア、オレガは立ち上がってムラブイェフに礼を言った。彼は笑って右手を上げて挨拶をして、会議室を後にした。


 三人は彼を見送り、再び椅子に腰かけた。そして手紙を改めて見つめる。

 オットー、ソフィアはしばらく言葉を発せず、クリーガーとの思い出に浸っていた。

 オレガは手紙を抱えたように胸に押し付けて小声で泣いていた。クリーガーが無事でうれしいのだろう。


 オットーとソフィアは封筒の封を切って、敬愛する師からの手紙を開いた。

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