伯父と姪
私は用意された部屋でヴァーシャと一緒に私の恩赦を喜んでいた。
すると何度か扉をノックする音がした。
ノックに気が付いた私は扉を開ける。扉の前にはムラブイェフをが立っていた。私は驚いて声を上げた。
「ムラブイェフさん、どうしてここへ?」。
私は握手をするため手を伸ばした。ムラブイェフも手を伸ばしてきたので、握手をした。
「クリーガーさん。あなたが恩赦になったと聞いたので、お祝いを述べようと思って」。
ムラブイェフは力強く握手しながら言う。
「はい。それにしても、耳が早いですね」。
「たまたま別の軍法会議の件で城に来る用事がありましてね。それで、あなたが恩赦になったことを教えてもらいました」。
ムラブイェフが部屋の中を覗く、目線の先にはヴァーシャが立っている。
ヴァーシャはムラブイェフ見ると声を上げた。
「伯父様」。
「伯父様?」
私は、そのやり取りを不思議そうに繰り返す。
私の様子を見たムラブイェフはすぐに答えた。
「ヴァシリーサは私の姪です」。
「そうだったのですか!?」。
私はそれを聞いて、とても驚いた。
ヴァーシャはムラブイェフに近づいて話しかけた。
「伯父様、今回はありがとうございました」。
「実は、ヴァーシャにお願いされて、君の弁護を引き受けたんだよ」。
「そうだったのですね。ヴァーシャ、そして、ムラブイェフさん、今回は大変お世話になりました。感謝しています」。
「何にせよ、恩赦になってよかった。姪っ子の悲しむ顔を見たくはなかったですから」。
「陛下には条件を出されました」。
「それも聞きましたよ。今後は帝国に留まるとか」。
「ええ。おそらくは陛下のお傍で働くことになると思います。これまでも陛下直属の部隊にいましたから、実質はさほど変わらないでしょう」。
「そうですか。ともかく、処刑にならずに本当に良かったですね」。
そして、ムラブイェフはヴァーシャをチラリと見てから言った。
「では、これ以上お邪魔しては悪いから、私はこれで失礼します」。
ムラブイェフは部屋を出ていこうとしたが、立ち止まった
「そうだ、牢番から手紙を預かっていたのですが、これはあなたが処刑された後のことを想定して書いたものでしょう? そうはならなかったわけですから、お返ししておきますよ」。
そういって、懐から手紙を四通取り出して私に手渡した。
私はそれを受け取った。ヴァーシャは横からそれを覗き込んで、自分宛の手紙があることを見つけた。
「私宛?」
そういうと、スッと私の手から手紙を抜き取って、ニヤリと笑った。
「あなたが最後に書く手紙、興味あるわ」。
そういうと彼女は手紙を自分の胸のポケットに入れた。
「その手紙は、恥ずかしいので私のいないところで読んで」。
私はあわてて言った。
「わかったわ」。
ヴァーシャは少しいたずらっぽく笑ったように見えた。
「では、お邪魔かもしれないからこの辺で失礼するよ」。
そう言うと、ムラブイェフは部屋をそそくさと去っていった。
私は彼の背中にもう一度礼を言った。
残された私とヴァーシャは部屋にある豪華なソファに腰かけた。
「帝国に残ってくれることになって、本当に嬉しいです」。
ヴァーシャは私に体を向けて言った。
「陛下には共和国を解放してくれた上に、恩赦を頂き、感謝しかありません」。
私もヴァーシャに向き直って言った。
「陛下はアーランドソンに国を乗っ取られた前の状態に戻しただけです」。
「それでも、これは英断だと思います」。
「ところで、ユーリ。故郷に帰りたくないのですか?海はもういいのですか?」
この質問は、去年、私が故郷のズーデハーフェンシュタットに帰るとき、私は首都に残らない理由として、ヴァーシャには「海が好きだから」と言ったのを思い出した。彼女もその時の私の言葉から、そういう風に聞いてきたのだろう。
「海より好きなものができましたからね」。
私はヴァーシャの瞳をじっと見つめる。ヴァーシャも私の瞳を見つめる。そして、私達はキスをした。
「そろそろ、仕事に戻らないと」。そう言うとヴァーシャは立ち上がった。「あなたは指示があるまで休んでいてください。おそらく数日は何も無いと思いますが」。
私も立ち上がり、もう一度私は彼女を抱擁した。
「ここ一か月半、牢の固いベッドだったから、柔らかいベッドで横になるとします」。
それを聞いてヴァーシャは少し微笑んだ。
「ゆっくり休んで。では、また後で」。
そう言うと、彼女は手を振って部屋を出て行った。




