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色彩の大陸2~隠された策謀  作者: 谷島修一
ソローキン反乱
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ソントルヴィレの戦い3

 大陸歴1658年3月31日・公国首都ソントルヴィレ


 午後、再々度、帝国軍の攻撃が開始された。


“雪白の司書”の三人は、攻撃が開始されたと伝えられると、休憩していた街壁に設置されている詰所から街壁上に登った。

 三人の目に、帝国軍は歩兵のみで進軍してくるのが見えた。今回は大きく横に広がっている。

 皆、矢の攻撃を躱すため盾を構え前進してくる。矢やカタパルトによる岩の攻撃が届かないほどの離れたところに、重装騎士団と騎兵が待機しているのが見えた。

 公国軍は矢とカタパルトの攻撃を開始した。

 帝国軍は矢による攻撃では被害はほとんどないが、岩の攻撃はさすがに盾では躱せない。しかし、今回は横に大きく広がっているので、岩の攻撃は効果的に行うことができなくなっていた。

 帝国軍の歩兵は、最初の攻撃で騎兵を罠にかけた落とし穴まで到達した。罠に嵌ったのは陣の前のごく一部であったが、陣の前に落とし穴が幅広くあると予測していたようで、歩兵はうまく落とし穴を探し当て、それを塹壕代わりにしてそこで待機を始めた。


 三十分ばかり時間が経っただろうか、公国軍は矢と岩を放つのを止めた。効果がほとんどないと悟ったのだろう。

 しばらくして、陣の中央の門が開き、公国軍の騎兵と兵士が出撃し、落とし穴に潜んでいる帝国軍兵士を討ち始めた。

 それを見て、後方で待機していた、重装騎士団と騎兵が動き出した。

 そして、両軍が衝突した。

 帝国軍がやや優勢か。


 フレドリックが合図をした。

「私は重装騎士団を狙う。二人は左右に別れ、落とし穴の兵士を攻撃しろ」。

“雪白の司書”の三人は念動魔術で宙に浮きあがり、戦場に向かった。

 フレドリックは上空から重装騎士団を狙い稲妻を撃ち始めた。

 しばらく戦闘が続いただろうか、後方から煙が上がっているのに気が付いた。

 帝国軍が火矢を放ち始めたのだ、公国軍の陣のテントに火が付き、煙が上がり始めた。

 ニクラスとアグネッタの二人は当初帝国軍に攻撃をしていたが、今は消火に当たっている。水操魔術では局地的に雨を降らせることができる。それを消火に使うのだ。

 火が付いたことによって公国軍の陣内が混乱を始めていた。その隙をついて、帝国軍が鈎付きの縄で柵を倒し、陣内に侵入を始めた。


 街壁の上にいる兵士から合図の笛が鳴らされた。

 撤退の合図だ。

 街壁の大きな門が開いた。

 公国軍兵士が後退して門の中に入っていく。

 ニクラスとアグネッタ人も消火を止め、街壁の上に戻った。

 フレドリックは稲妻を放ち、重装騎士団をぎりぎりまでけん制して公国軍の撤退を支援し、公国軍が城壁内に入るのを見届けた後、城壁の上に戻ってきた。


 ここまでの戦いで、公国は予想以上の被害の拡大を被り、籠城に切り替えたようだ。

 三度の攻撃で、帝国も同様に兵の四千近くを失った。おそらく公国もほぼ同数の犠牲者が出ているだろう。しかし、公国が籠城すれば、帝国軍の食料は数日で尽きる。そうなれば撤退しかないだろう。


 戦況は逐一、公国の最高指導者パトリック二世の耳に入っていた。

 当初の作戦は、帝国軍をこちらの領内深くまで誘い込み、補給線を伸びたところを叩く、ということだった。しかし、帝国軍は補給がなくなるので後がなく、死にもの狂いで攻め込んでくる。さらに予想以上の戦果に帝国軍の士気も高まっているようだ。帝国の司令官は軍略に乏しいと聞いていたため、まさか、ここまでやれると思っていなかった。

 今のところ、猛勇な帝国軍が公国軍を押す形になっていた。


 パトリック二世もこれまでのように落ち着いていられなくなった。

 前線からの伝令に伝えた。

「ヴィット王国の魔術師達は何をしている。司令官に伝えろ、彼らにもっと強力な魔術での攻撃をするように指示を出せ」。


 もう一方の帝国軍も公国軍を侮っていた。初戦で勝利を収め、その勢いで公国軍を追って領内深く首都まで進軍したため、補給線が伸び食料不足となっている。国境にいるペシェハノフからの補給は届いていない。

 公国が攻城戦に切り替えてきたのを見たキーシンは、ここは予定通り撤退だろうと思い。ソローキンの姿を探し、馬を横に着けた。

「当初の予定通り、公国が籠城したので、撤退しましょう」。

 ソローキンは帝国軍の戦況を見回して言った。

「いや、兵士の士気も上がっている、この勢いで一気に首都を攻め落とす」。

「しかし…」。

 キーシンは言いかけたが、ソローキンは、こうなったら自分の意見を押し通す人物だ。

 キーシンは、しぶしぶ指示に従うことにした。

「わかりました。攻撃を続行します」。


 帝国軍は間髪を入れず、攻城戦に切り替えた。

 兵士達が、まずは街壁をよじ登り、街の中に侵入。そして、街壁の門を開けさせるのが戦術の基本だ。

 ソローキンの命令が伝わると上級士官たちの号令を掛ける。一斉に兵士達が街壁に殺到した。

 ソローキン、キーシン率いる重装騎士団と騎兵は、城門が開いた時に突入できるように、少し後方に整列して待機している。


 帝国軍兵士は鈎付きの縄を、矢に取り付け、次々に放つ。上手く外壁の上部に引っ掛かった縄を使い、街壁を登ってくる。

 街壁の中に撤退してきた公国軍兵士の多くが街壁の上に配置された。縄で登ってくる帝国軍を弓で撃つ。一方、地上に居る帝国軍も弓で街壁の上に向けて矢を放つ。


 縄が次々に掛けられる。このままでは帝国の侵入を許してしまう。

“雪白の司書”の三人も攻撃を開始した。アグネッタは、城壁の上から、登ってくる兵士を稲妻で狙い撃ちする。

 ニクラスは火炎魔術で縄を焼くことで、帝国兵士が昇ってくるのを遮っている。縄を焼き切られた兵士達が地面に転落していく。しかし、このままでは追いつかない。


 ついに、街壁の上に帝国軍兵士が到達し始めた。

 街壁の上でも白兵戦が始まった。

 帝国軍は城門を開けさせようとするだろう。何とかそれを阻止しないといけない。


 フレドリックは城壁にたどり着いた帝国軍兵士達を上空から確認した。このままでは帝国軍の街の中への侵入を許してしまう。

 この魔術は、死者が出る可能性があるので、使いたくなかったが致し方ない。

 フレドリックは呪文を唱えた。

 上空で、みるみるうちにどす黒い雲が集まってきた。次に、冷たい突風が吹き始めた。

 そして、数分後、人の頭ほどもある巨大な雹が降り注いできた。

 フレドリックは公国軍兵士達に合図し、兵士達を街壁の下の詰所などに身を隠させた。

 アグネッタとニクラスは念動魔法で、雹を躱している。

 雹はフレドリックの立つ街壁を中心として、あたり一面に降り注ぐ。

 地上の帝国軍にも降り注いでいる。彼らは盾で雹を遮っている状況だ。身を隠すだけで動くことはできなくなっている。

 街壁を登っている途中の兵士は、雹を遮ることはできない。雹が兵士達に命中し次々と地上に落下していく。

 これで、これ以上、街壁に登ってくることはない。

 街壁の上まで登った帝国軍の兵士は公国軍により倒されて一掃された。公国軍の兵士にも雹の巻き添えで負傷している者が出ているようだ。街壁内の木造の建物の屋根も雹により大きな穴が開いている。その中に居る者にも負傷者が出ているに違いない。


 ソローキン、キーシンをはじめとした、重装騎士団は騎兵は雹の降っていない場所まで後退した。街壁付近に居る兵士達は、盾で何とか雹を遮っているのが見える。

 ソローキンはごく限られた範囲で降り注ぐ雹を見て、これは自然現象ではなく、魔術だろうと予測した。あの魔術師達は、このような魔術も使えるのか。

 キーシンは、ソローキンに助言した。

「このままでは、被害が拡大します。ここは撤退しましょう。あの魔術師達が居る限り、首都を陥落させることは不可能でしょう」。

 キーシンは大声で続けた。

「帝国領土まで逃げのびましょう」。

 ソローキンは、キーシンの進言を聞くことにした。しかし、もう少しのところで街の中へ進入できそうだったがそれが成らず、よほどくやしかったのか、何度も公国軍が居る街壁に向かって悪態をついた。

 街壁の門を開けるところまで今一歩だった。まさか、こんな強力な魔術師が居るとは思わなかった。補給が届いていれば。これら予想外のことが無ければ、首都陥落も不可能ではなかっただろう。 “イグナユグ戦争”以降、戦闘は無敗だったのに、ここで敗北を喫するとは。

 怒りをぶつける先は、目の前の首都に向かって、怒りを言葉で表現することしかできなかった。

 しばらくして、落ち着いたソローキンは「わかった、撤退だ」。と告げた。


 さらに、しばらくすると雹が止んできた。

 ソローキンは、全軍に合図を出した。

 街壁の近くからも兵士が引き上げて来るが、さほど多くない。犠牲者は多い。

 今のところ公国軍の追撃はない。三度の攻撃で公国軍もおそらく多くの被害を被っているはずだ。


 全軍を最初の帝国軍の陣まで移動して、被害の確認をした。公国軍の捕虜になったものも少なくないだろう。

 各部隊から最終的な報告を受け、数を集計すると、元居た兵力の半分近くになっている。

 唯一、良い情報としては、兵の数が減ったので、食料が国境まで何とか持ちそうだということだ。


 公国軍の追撃が心配だが、キーシンの旅団が殿を務めることとなった。

 ソローキンの旅団は国境に向け出発した。

 時刻は夕方となっていた。西の空が赤く染まり出した。

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