進軍
大陸歴1658年3月23日・帝国公国国境セベルー川付近
最前線。
帝国軍の第二、第三、第六旅団が陣を展開してから、早くも十日が経つ。
各旅団長であるデニス・ソローキン、セルゲイ・キーシン、アレクサンドル・ペシェハノフの三人は今日も早朝から指令室テントで会議を行なっていた。
国境付近にいる偵察部隊からの報告をペシェハノフが伝えるが、日々、公国軍に動きはない、というものが続いていた。
冷たい雨が降る日の多いこの季節。今日も小雨が陣地を冷やしていた。
ここに陣を張って十日、兵士たちの疲れもわずかではあるが見え始めた。
「先制攻撃を掛けようと思う」。
会議中にソローキンが突然そういった。
「一度、痛い目に合わせれば、こちらを侵攻しようなどと思わなくなるだろう」。
「このままでは兵士の士気も下がる一方だ。私も早めに決着を付けてしまいたいと思う」。
キーシンがそれに同意した。
「兵士の士気や疲れを気にするのであれば、少しずつ交代でプリブレジヌイで休息させてはどうでしょうか?」
ペシェハノフは提案した。
「それでは、根本的な解決になっていない。敵軍を国境から撤退させ、この状況を変えなければ、いつまでたっても我々はここで陣を張り続けないといけない」。
ソローキンはそう言った
たしかにその通りだが、ソローキンは開戦によって出る負傷者や死者については考えていない。
「私は開戦には反対です。そもそも陛下の命令はこの場に待機だと」。
ペシェハノフはそう言ったが、ソローキンの考えを翻すのは無理なのはわかっていた。しかし、ここでは自分が反対意見を言ったという事実だけを残したかったのだ。
ソローキンは、ペシェハノフに向いて不満そうに言った。
「戦いに勝てば陛下も何も言わないだろう。君が命令違反をすることに不満なら、私とキーシンの旅団のみで攻撃を開始する。君の部隊はこの場で留まってくれ」。
「そうすると、公国軍とほぼ同数での戦いになります。カタパルトの実力もわからない状況では、当方の被害も予測できません」。
「何を臆することがあるか。我が軍に敵はない」。
ペシェハノフが何か続きを言おうとしたが、ソローキンはそれを聞かず立ち上がった。
「一気に捻りつぶしてやる」。
ソローキンはそう言い捨てると、ソローキンとキーシンは指令室のテントから出て行った。
ソローキンは鎧を部下たちに装着させ、出発の準備をさせる。一時間もしないうちにソローキンとキーシンの旅団は野営地をたたみ始めた。
それが終わると各旅団だ整列する。
最初にソローキン、続いてキーシン、上級士官たちが号令を掛けると旅団がゆっくりと進み始めた。
重装騎士団を先頭に、騎兵、歩兵がそれに続く。
ペシェハノフは出発する旅団を見送る。国境へは半日もすれば到着するだろう。そして、この季節は川の水量はまだ少ない、ここ数日の雨のせいで少々水量が多いようだが、比較的簡単に渡河できるだろう。そうすると、公国軍の出方にもよるが、午後の早い時間には開戦となる可能性がある。
ペシェハノフは戦闘の様子とソローキン達の旅団の動きを探らせるため、国境付近に監視するように偵察を出した。また、首都の皇帝にもソローキンとキーシンが進軍を始めたという伝令を出発させた。




