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色彩の大陸2~隠された策謀  作者: 谷島修一
謎めいた指令
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帝国首都・アリーグラード

 大陸歴1658年3月15日・帝国首都アリーグラード城内


 我々は部隊はヤチメゴロド近郊から出発し、二日後、首都目前まで進んでいた。

 今日は小雨の降る肌寒い日だった。兵士達は外套を携行しているとはいえ、この中の行軍はなかなか厳しかっただろう。


 首都に来るのも約一年ぶりだ。城壁も、辺りの風景も変っていない。

 首都の街壁が見えてきたぐらいに距離まで来ると、首都から伝令がやって来た。

 伝令として馬に乗っているのは派手な赤色を基調とした制服で、肩の部分にはフリンジが付いている。あれは皇帝親衛隊の者だ。

 伝令が伝えてきた内容は、皇帝の命令で部隊をすべて城に入れ、私は皇帝の元に出頭せよ、とのことだった。


 部隊には首都近郊で野営をさせようと思っていたが皇帝の命令なら致し方ない、隊員達も六日間の行軍の上、この雨だ。皆、疲れているだろうから、お言葉に甘えさせてもらおう。

 そして、私も今回の作戦の件で、皇帝には会って話したいと思っていた。


 街壁の前で馬に乗った親衛隊が多数待ち構えていた。伝令としてきた親衛隊員が言った。

「市民があなたに気づいたら、取り囲んでしまうでしょう。クリーガー隊長は“英雄”として今でも有名人ですから。なので、親衛隊で周りを囲うように移動します」。

 と言うと、私を二重に取り囲むように親衛隊員達は馬を動かした。

 私と親衛隊員達は、一足早く城に向かった。他の遊撃部隊の隊員達は別の親衛隊員に導かれて遅れて進む。


 街に入ってしばらくすると、人々が私に気づいたようで、我々についてくるように徐々に人だかりができてきた。前回は、“帝国の英雄”としてここでも派手な歓迎を受けた、そのせいで私の人を街の大多数が私のことを知っている。

 親衛隊員達は、人々を私に近づけないようにしている。かなりの人だかりができてしまったが、それも城に入るまでだ。


 城に入ると、隊員達は親衛隊員達に連れられて、兵舎へと向かった。

 一方、私は皇帝に会うため、伝令の親衛隊員に連れられて城内を進む。

 そして皇帝との謁見の間の前室の待合室まで案内された。待合室と謁見の間は、昨年の“チューリン事件”で、派手に破壊された。私や弟子のオットー、ヴァーシャはじめとする親衛隊たち、ヴィット王国の魔術師などと一緒に、“預言者”チューリンや魔術師アーランドソンと死闘を繰り広げた場所だ。

 待合室の天井と壁は、以前のように綺麗に修復されていた。天井のシャンデリアも新しく設置されている。壁に飾られていた剣や斧も鎧なども以前の通りだ。

 私は、持っている武器をすべて親衛隊員に預け、待合室を通り抜けて謁見の間に入室した。


 先に見える玉座に皇帝イリアが座っている。その傍らには親衛隊長のヴァーシャが立っていた。

 私は歩み寄って皇帝の前にひざまずいた。

「ユルゲン・クリーガー、命により参上いたしました」。

「久しぶりですね、クリーガー隊長」。

 皇帝イリアは私の姿を見て少し笑って続けた。

「ひざまずかなくてもいいと、以前、言ったのを覚えていませんか?」

 私は、あわてて立ち上がった。

「失礼しました、失念しておりました」。

 それを見た皇帝とヴァーシャは少し笑っている。

 皇帝は話を続けた。

「元気そうですね。遊撃部隊のほうも、うまくやっているようですし」。

「いろいろお気遣いいただきありがとうございます。隊員募集も順調に進みましたし、新しく作っていただいた兵舎は快適です」。

「隊員募集は、あなたが “英雄”だから順調だったのですよ。兵舎の件も、あなたの帝国に対する貢献に比べたら他愛もないことです。本来なら、側近として私の傍にいてほしかったのですが」。

 と言って、皇帝は言葉を止めた。

「この話は終わったことでしたね」。

「いえ」。私は頭を下げた。


「ところで」。

 皇帝は話題を変え、今回の指令について話始めた。

「公国軍は国境沿いに二万五千の軍を展開しています。一方、わが軍は国境付近の最前線に三万二千、首都近郊にも兵を集結中で、明日には、あなたの遊撃部隊を含め約一万の兵を展開することになります。後方の部隊の総司令官には、あなたも良く知っているルツコイを当てます」。

 そこまで言うと、いったん皇帝は話をやめた。そこで、私は今回の作戦についての疑問を尋ねることにした。

「ところで、今回の作戦の件ですが、公国の動きについてです。かなり突然のことかと思いましたが、何か両国関係が悪化するようなことがあったのでしょうか?」

「そもそも公国とは長年、国交が無く、以前は小規模な国境紛争がまれに発生していたのは知っての通りだと思いますが、ここ数年は関係が極度に悪化するようなことは、特にありませんでした」。

「それなら侵攻の理由がわかりませんが」。

「それは、私にもわかりません」。

 皇帝は淡々と答える。私は質問を続けた。

「あとは、わが軍の配置です。最前線に三旅団、首都付近に三旅団という配置ですが。最前線を公国が突破できるとは思いません。公国の軍事力は、それほど強大だったのでしょうか?」

「その布陣は、考えがあってのことです」。

「それは…」と私は言おうとしたが、皇帝が言葉を被せてきた。

「その理由は、今は言えません。しかし、私を信用してください」。

 皇帝が今、言えないというのであれば、これ以上尋ねるのは無礼だろう。しかし、なにか隠された理由があるのはわかった。

「わかりました」。

 私は引き下がった。

 私の返事を聞いて、皇帝は満足したようにうなずいた。そして、皇帝はヴァーシャをチラリと一目みて言った。

「今日、あなたをここに呼びつけたのは、ちょっと顔を見てみたかっただけなんですよ。それに、アクーニナもあなたに会いたがっていたようですから」。

「陛下」。

 ヴァーシャが少し大きめの声を上げた。皇帝はチラリとヴァーシャを見て、少し微笑んでから言った。

「では、クリーガー、もう下がって構いません。次の命令があるまで、あなたと部隊は城の中で待機してください」。

「わかりました。では、失礼いたします」。

 私はそう言って、部屋を後にした。

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