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色彩の大陸2~隠された策謀  作者: 谷島修一
謎めいた指令
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ホルツの決断

 大陸歴1658年3月15日・旧国境ズードヴァイフェル川付近


 数本の松明の火が、洞窟の闇の中をわずかに照らしている。

 共和国軍の残党、ダニエル・ホルツとその仲間のここでの生活は、もう四年近くになる。ホルツだけでなく仲間のほとんどが脱落もせず、良くここまで耐えてきたと思う。この暗くじめじめとした洞窟の中で、絶望せずにここまでやってこられたのは、共和国の復興のための動きが、少しずつでも進展があったからだ。各都市に来るべき反乱のための同志作りも進んでいる。そして、ここに来て急激にその機会が訪れてきたと、ホルツは考えていた。旧共和国内の大都市に駐留している帝国軍の一部が移動し、守りが手薄になっているのだ。


 ホルツは、重要な話をすると言って、仲間のうちの主要な者を呼びつけていた。徐々に人が集まってくる。

 ホルツと仲間はアジトとしている洞窟の中で話し合っていた。

 最近、帝国軍によって、初めてアジトの一つが発見された。仲間は戦闘になる前に退避していたので、こちら側の犠牲者はなかったが、アジトにあった武器と食料は接収された。

 共和国軍の残党のアジトはこの付近にまだ八つある。武器や食料はそれぞれのアジトに分散して隠してあるため、痛手はさほどなかった。

 ホルツには、今は、その件よりもっと話したいことがあった。


 ホルツは、アジトの洞窟で仲間を見回しながら話を始めた。

「先日、クリーガーからの連絡があった通り、各地の旅団が移動しているようだ。先日、この近くを通る旅団を見た。この機会を逃すことはない。我々も旧共和国の都市に出向き、武装蜂起を指導したい」。

 仲間のうちの一人が口を開いた。

「どこの都市でやるのか?モルデンか?」

「いや、モルデンからの報告だと、帝国軍の数がいくら減っているとは言え、まだまだ多いようだ。ほかの大都市も似たような状況だろう。しかし、小さな地方都市だと、もともと帝国軍は少ないはずだ。もし、そこで何かが起こっても、兵力が減っている大都市からの援軍は望めないということだ」。

 ホルツは、仲間を見回し、そして地図を取り出して地面に広げて見せた。

 そして、はっきりとした口調で話を続けた。


「私が狙っているのは、共和国南部のヴァイテステンだ」。

 ホルツは地図を指さす。

「ここからヴァイテステンまでは、かなり距離はある。しかし、あそこには収容所があり、旧共和国軍の士官たちが三百五十人ほど収容されているという。その中には精鋭の“深蒼の騎士”だったものも十数名いる。ここを襲い、士官たちを解放すれば、こちらも勢いがつくだろう」。


 ヴァイテステンから北東に向かって四日でズーデハーフェンシュタットにたどり着けるが、そこのリーダーであるクリーガーが不在だ。残念だが、そこで合流する共和国派のあては無い。となれば、ヴァイテステンから北西に、五日で到達できるベルグブリッグに向かうのが現実的だろう。途中大きな街もなく、帝国軍はほとんどいないと考えてよいだろう。

「そのまま、ベルグブリッグまで北上する。途中の街や村で我々に合流する者もいるだろう。勢力を拡大しつつ、ベルグブリッグに駐留している帝国軍を攻撃する。ベルグブリッグは小さな街で、帝国軍の数は数百名と少ない。我々の仲間が五百人になっていれば、戦って勝てる可能性が高いだろう」。

 このアジトから、目的の収容所のあるヴァイテステンまで、帝国に見つからないように進むため、街道を使うことはできない。道なき道を進む必要がある。そうすると、二週間以上かかってしまうと予想できる。


 仲間の一人が疑問をぶつけた。

「ベルグブリッグは帝国との国境のそばだ、帝国から軍が侵攻してきた場合はどうする?」

「帝国からベルグブリッグに通じる道は山脈の中にあり、大軍が通るには時間がかかる。我々の手で狭い道を封鎖してしまえば、その場で立ち往生するしかない」。

 ホルツは、地図を指さしながら説明する。

「時間稼ぎをしつつ、各地の小さな街で武装蜂起を起こす。小さな街はすぐに我々の支配下になるだろう。もし、帝国軍がそれら鎮圧のためにモルデンやズーデハーフェンシュタットなどの都市部から離れれば、その時が都市部での武装蜂起の絶好の機会となる」。

 最後の期待を込めてホルツは言った。

「さらに、クリーガーが戻ってくれば流れは一気にこちら側に傾くだろう」。

 クリーガーは今、“帝国の英雄”などと呼ばれている。その英雄が裏切ったとすれば、帝国の衝撃は計り知れないだろう。


「それでは出撃する者を選出する。選出に漏れた者はここを守ってほしい」。

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