還り道2
食事を終え、ヨトはそそくさと食器を片付け火の処理をしていた。
私はそれを呆然とただ眺めるだけになってしまっていたが
「センカ、これを片付けたら寝床に向かう。準備しておきなさい。」
身一つでここにいるのだから、準備などないのだが
そう思いつつ周りを見渡すと波打ち際の反対側に石造りの家があった。
恐らく5キロ程だろう…先程の海底から伸びる線の枝の一つがその家の近くに伸びて横を通り過ぎていており、それらの背後には深い森が広がっていた。
「ではセンカ、準備はよいか?」
「あ…はい!」
ヨトはもう準備を終えて此方を覗くようにこちらの様子を見ていたようだった。
「ああ…この線か…あれは還り道と言ってな、少し前に出来たものなんだ」
ヨトは少し目を細めた後
「いや…今は家に戻り落ち着くとしよう」
振り払うかのように話をやめ
「さあ、行こう!」
……とても5キロ程という距離ではなかった
20キロは歩いただろうか
昨日といい遠近感が麻痺しているようだ
家の大きさは大型捉えていたものの木々の大きさがまるで違っていた1本づつが太さ10メートルを超えているのは珍しく無く、高さに関しては下から見上げてはどうにも捉えられないほどだった。なにより1本1本にもはやその地の観光対象になり得るような趣きがあった。
だからこそ遠くから見ても木の葉が落とす深い影を感じることができたのだろう。
「ふせろ!」
突然の声と言うよりは、既に伏せているヨトに転ばせるように伏せられた事に驚いた。
腕と顎に太陽に暖められた草野があったが、ヨトの目は冷たく集中していた。
「なぜ、こんな所に奴等が…攫い損ねたあまりものか?」
ヨトは伏せたまま呟いた後、此方に目線をやり
「すまないセンカ暫く移動できそうにないそのまま伏せていて欲しい」
「はい…」
相変わらず状況がわからないが、冷静ながらも切迫してヨトの言う通りにしるほかない
「ありがとう…ここなら奴等もこちらに気がついない…
それは突然だった。
「ヒュッ ィイィィェォォオオオオオオーーーーオ オ オ オ
甲高い獣の鳴き声が響き渡たろうとしたのを皮切りにどの様に変わったのかわからないまま、低く地響きのような鳴き声を響き渡らせ高い音を掻き消しても尚響いている。
離れた場所から発せられていて音圧自体は大した事はないが、聞けば聞くほどに意識から平衡感覚と時間が離れていくのを感じた。
この世の物ではない…そう強く確信できるものだ。
「そうだ、もっと強く耳を押さえておきなさい。あまり長い事聞くものではない」
自然と手で耳を覆っていたが、無意識の所為なのかまだ近くのヨトの声をしっかりと聞ける程度だった。
いや、この鳴き声で剥がされていく意識の中、手の力を緩めたのかもしれない。
ヨトの声により何枚かの意識を取り戻し、再び手に力を入れて強く耳を塞ごうとした瞬間ーー
「キュイ!!」
恐らくすぐ近くの小動物のそれはタイミングを見計らったが如くこの地鳴りの様な鳴き声に耐えかねた悲鳴が一瞬まろび響いた。
それを確認したのか鳴き声は唐突に途絶え、静寂が戻りつつあったが
「キュ…キュイ…キャキ…キュィ…」
鳴き声を止めた主、その小動物がもがく様に鳴いていたのがきこえてきた。
「センカ…走るぞ!」
ヨトはあの波打ち際で私を止めた時と同じくらいの力で私の手を握りそして引っ張った。
地響きの鳴き声からは反対の小動物の方へと走り、左手に私の手を右手にその小動物を抱えてヨトはそのまま家の左方向…森へ到達する最短距離を走り始めた。