断章ー救いを見た日2ー
私がその音の無い波を見たのはちょうど1番日の照る時間帯だった。
小高い場所にいたので私は波を逃れていたが、既に仲間の何匹かは顔半分まで浸かっていた。
不自然な程に透き通ったその波は地面の草原をそのままに写し、同様に波に浸かった仲間達も写していた。
更に不自然な事に口を覆うほど水に沈んでいるのも関わらず、その仲間たちは浮かぶ事もなく苦しむ事もなく、ましてやその口から息すら出てすらいなかった。
水上にいるのと変わらないように、ゆっくりと歩行しているのだ。
静か過ぎるそれは粘着質を帯び、葉や木々を登って見えた。
いや、水面に全く水平だからこそ表面張力が見やすい状況がただ連続しているだけなのだろう。
だが、それはハッキリと視覚的な異様を放っていた。
触れてはならない。
そう強く確信できるものだった。
「おい!」
「何処へ行くんだ!?そっちは更に深いぞ!!」
「おい!!」
幾年振りか
言語を形どった同胞の声はおよそ知性の帯びたものでは無く叫びそのものだった。
叫びを受け取るはずの同胞達は構わず只々、その更に深い波のない水の中へ淡々と向かうのだった。
まるで導かれるように
それが決まっていたかのように
何故だか私は目頭が熱くなった
言葉を発する必要がなくなって幾程経ったのか
最早、生きる意味を持つ持たないではなく
それを思考する事すらなくった
それでも…
それでも私達はここに何故だか生きてきたではないか?
年月は執着を作ったのではないか?
無意味な繰り返しは愛着を持たせたのではないか?
だからこそ私達はこの気の遠くなる時間を過ごせたのではないのか?
少なくとも私その漠然とした執着や愛着の似た様な何かをここまで生きてきた者達は持っていたのではないか?
たとえ、自ら死ぬ事が出来なった。
そうだとしても
たとえ、そうだとしても!
混乱は転じて耳鳴へと変わろうとしていた。