ポンニチ怪談 その22 VRD刑
破綻したニホン国の政府関係者の一人、ダケナカは占領国暫定政府からニホン国をつぶした罪を問われ、365日の刑に服すこととなった。その刑の内容は想像を絶するもので…
「ダケナカ・ペイゾウ、365日のVRD刑を言い渡す」
裁判官の声にダケナカは内心ほっとした。ダケナカの心中とは逆に、傍聴席はざわついていた。
(ふん、俺の経済政策を真面目にやらなかったからいけないんだ、きちんとやれば国がこんな、外国に乗っ取られることもなかったんだ)
間違った自由主義に似せた政策のために多数の自殺者、貧困家庭を作り出した弊害なぞは頭の片隅にもなく、歪んだエゴを直そうとも考えないダケナカ。彼らと己の利益追求に走った政治家たちのせいでニホン国は破綻した。ダケナカは、自国の政府が己の誤った政策で潰れると、手のひらを返したように、現在ニホンを統治している占領国の暫定政府の人間たちに媚びを売ろうとした。だが、そのかいもなく、国を滅ぼした罪で裁かれることになったのだ。しかし判決を聞いて、ニヤニヤと笑い出した。
(なに、一年我慢すれば、きっと、現政府の職にもつけるさ。お役人をニンプーリンで接待漬けにしたからな。だからこんな軽い刑なんだ。VRDなんて初めて聞くが、なにきっとたいしたことじゃない、たった365日)
その姿をみて検察側の一人は不気味な笑みを浮かべていた。
「ゆ、許してください、も、もう三日も寝て」
ダケナカは今にも倒れそうな顔をして、派遣先の上司に許しを請うた。しかし
「何、バカなこと言ってんだよ。底辺派遣のてめえにそんな贅沢が許されるとおもってんのか!」
と頭から怒鳴られた。
裁判所を出た後、どこかの施設の部屋にいれられ眠ってしまった。目覚めると、派遣社員としての日々が待っていた。しかも、かなり悪条件、いわゆるブラックだ。
(こ、これが刑。ひょっとして俺が会長やっていたダソナが派遣会社だからか?まあ手数料は3割差し引きのうえ、お茶代、ロッカー貸し出し代なんだの引いていたし、お客第一で登録者は使い捨て方針だったが)
一年、我慢すれば、と思ったのが甘かった。低すぎる時給に高い手数料で手元に金はほとんどない。そして過酷な勤務。正社員が帰っても終電までの残業。しかもタイムカードは押せないのだ。睡眠不足はもちろん、ろくに食べられないので栄養も不足気味だ。いたはずの家族も自宅もなく、窓もない違法物件で畳三畳分のスペースになんとか寝起きしていた。台所などなく、トイレ、シャワーも共同。自炊などはむろんできない、もっとも時間もなく、コンビニのパンや閉店間際のセール品の弁当で腹を満たすだけ。不健康に太った体でなんとか毎日通勤電車に乗る日々だった。
(一体、どれぐらい時間がたったんだ。一年はまだ過ぎないのか)
今日も出勤か。なんで出勤なんかしなければならないんだ、生きていくため働くのか、これが生きていることなのか、これが…
ダケナカはふらふらとホームの端にでて、線路に飛び降りた。あっという間に電車が近づいてくる、衝撃が体中を走る…
「はい、一日目終了、お疲れさん」
目覚めると白衣を着た男が話しかけてきた。ダケナカの体は傷一つない。作務衣のような衣服も真っ白なままだ。
「ここは、い、一体今のは」
「ああ、VRD刑、一日目だよ。いやあ案外長くかかったねえ、自殺までにさ。12時間ぐらいからなって思ったんだけど20時間持つとはねえ。一日2回の予定だったけど、これは装置の開発を急がないと刑期のばしてもらわないとならないかねえ」
「刑って、い、今の日々が、自殺するまでが刑だっていうのか!」
ダケナカの叫びに男はさもおもしろそうに
「そうだよ、知らなかったあ?ま、裁判所の様子じゃねえ。アンタ、物知りみたいな顔してるけど、正直大昔の偏った経済論を振り回してたおバカさんだからねえ。最近の研究ってのを、ちゃんと勉強もしないで、まあアンタとこの政府の奴等もそうだったけど、ホント科学の進歩ってのがわかてないんだねえ」
「VRってまさかバーチャル・リアリティか!」
「で、DはDEATH、まあ正式名称は別にあるけど、VRD刑の略称でいうほうが楽だからねえ。一応裁判の前に渡した書類とかにも書いてあるんだけど、どうせちゃんと読んでないんでしょ。アンタらの政府は文書偽造に破棄、アンタの会社もだいぶ法律違反の労働契約やってたからね。うちらの政府の人間も買収しようたでしょ。法なんてお構いなし、占領政府とはいえ、うちらの本国は一応法治国家だから、そんなことは許されないんだよねえ。かわいそうにアンタの接待島に招かれた奴等は全員投獄だよ、買収の疑いでね。ニホン国のマスメディアとか役人とかとは違うんだよ、ホントにおバカさんだね」
言葉もないダケナカに、男はなおも続ける。
「つまりねえ、アンタは最低でも365回、死にたい、死んじゃうって目にあうの、仮想現実の中で。一回目はアンタとこの自殺した派遣社員のVR。他にも派遣先の酷いセクハラに対応してもらえなかった人とか、家庭崩壊で人生めちゃくちゃとかいろいろあるよ。アンタの滅茶苦茶な経済政策モドキのせいでなくなった人々の地獄の苦しみ編ってのもあるよ。月7万円なんて都会じゃワンルームの家賃にもならないベーシックインカムモドキを実施したために亡くなった人は本当に多いしね。水も飲めずに飢え死にとか、いろんなバージョンがあるから、たっぷり楽しみ、いやアンタが死に追いやった人たちの苦しみを味わうんだね」
「な、なんてことだ!そんなことが毎日続くのか!」
「毎日っていうか、アンタにとっちゃ数か月が一日だからねえ。体感時間は何十年にもなるかもしれないねえ。どれだけ人が死のうと苦しもうと反省どころか、悪いとも思わない鈍感すぎエゴイストすぎるアンタらのような人間にはそれぐらいやんないとね、自分の罪の重さがわからないよねえ。まあ、もっと苦しみを味わうべきっていう意見もあるから、一日で一年ぐらいのVRを体感させるって装置を開発中だけどね、どうなるかな」
先ほどの日々が最低でもあと364回、いや、もっと悲惨な生活を送る羽目になるかもしれない。ダケナカはぞっとした。
「そんな、それじゃ気がおかしくなってしまう!」
「甘いこというねえ、他人にはそういう酷い経験を山のようにさせたくせに。まあ、アンタのオトモダチの政治家連中は、先に体験したから狂ったのもいたけどね。ほら、あのスダレ頭の貧相トップとかさ、その前に首相やってた坊ちゃん最強バカトップとか。それから装置を改良して、向精神薬とかの開発もあって、簡単にはおかしくなったりしないよ。体験したことは全部覚えてるように記憶力向上の薬も処方してるし。精神疾患の治療にも役立つ面があるって、いろいろ脳神経とか、いじらせてもらってるし」
「そ、それじゃ、ずっと、このまま。あの日々を全部覚えてるのか、刑が終わるまで」
顔面蒼白のダケナカに男は
「もちろんだよ。それにアンタら前政府の重罪人のおかげで、神経系の研究はだいぶ進んできたらから、幽霊とかをみせることもできるかもねえ。アンタのせいで苦しんで死んだ人はいっぱいいるからねえ。ほうら、さっそく本物がでてきたようだよ」
男の肩越しにいくつもの顔が浮かんだように見えた。ダケナカを恨めしそうに見る部屋いっぱいの顔。ダケナカは思わず目をつぶった、だが
「ぎゃあああ!」
瞼に焼き付いた怨嗟の顔に悲鳴を上げるダケナカの様子に、男は耳まで裂けた口で笑っていた。
どこぞの国ではトップが変わっても滅茶苦茶な路線を歩み続けるようですね。自分の考えた政策を実行したらどうなるか、想像力ゼロの方々が多いようで、どうなるんでしょうねえ。ワンオペ育児やら介護離職やらもそうですが、月7万円で東京の山手線内で生活できるんですかねえ、ワンルームマンションの家賃だけで7万円ぐらいだったような気がします、20年以上前の話ですが。