第三十九話
俺は一度頷き、みんなの方を向く。
「初めまして。えぇーと、百年前の生き残りの朧月零と申します。目を覚ました時に誰もいなくて、機械の故障のせいか体調も最悪でしたけど、なんとかここまでくることができました。……最初のうちはご迷惑をお掛けすると思いますが、これからよろしくお願いします」
すると、いろんな所から拍手が起こった。
「おう、こちらこそよろしくな!」
「お前よく一人でこられたな? あのわけのわからねぇ白い建物って、ここからめちゃくちゃ遠いだろ? 大した奴だぜ」
「筋肉はいいぞぉ~! お前も鍛えろ~」
「よろしくねぇー」
「歓迎するぜぇ!」
筋肉発言をしている奴、ものすごく声が通るんだけど。
マジでどこのどいつだよ。
「ふぅ……」
なんにせよ終わったな。
めちゃくちゃ緊張した。
けど、温かい人たちばかりでよかった。
「さて、新人の挨拶も終わったところで、待ちに待った夕食の時間だよ。食材に感謝して、今日も好きなだけ食べなさい。……それじゃあ、いただきます」
「「「「「いただきます!!」」」」」
総長の声に続き、みんながそう言った。
すごい迫力だ。
みんなはそれぞれ立ち上がり、後ろ側へ向かっていく。
「ほら、朧月零も取ってきな。夕食はバイキング形式で食べ放題だから、遠慮することはない」
「あ、はい。いただきます」
俺は机の間を通り、後ろの方へと向かって歩き出す。
もうすでに向こう側では行列ができており、順番が回ってくるまで時間がかかりそうだ。
うわぁ、それにしても。
食べ放題だと?
幸せすぎる。
食べ物がもらえるだけでもありがたいってのに。
好きなだけ食べていいとは……。
こんな良い環境に俺なんかがいてもいいのか?
それにしても。
どんな料理があるのだろうか。
ドアから入ってきた時に見た感じだと、肉系の料理があったような気がする。
緊張しすぎてあまり覚えてはいないけど。
おそらく唐揚げとか串焼きがあった。
まあでも……取る量はちょっと控えめにしておくか。
お腹は減っているが、胃は明らかに小さくなっている。
この時代にやってきてほとんど何も食べていないため、当然と言えば当然だが。
なんにせよ、残すのが一番よくない。
足りなければ後から足せばいいのだから。
列の最後尾に並ぶと、前に並んでいた女性が振り返ってこちらを見つめてきた。
茶髪のミディアムボブ。
お胸が非常に大きい。
大人っぽい人だ。
おそらく二十代後半だろう。
「ねぇねぇ。君かわいいね」
「えっ?」
何そのチャラ男的なノリ。
「今晩私と良いことしない?」
「いや……その……」
いきなり何なんだこの人。
すごい積極的なんだけど。
変な人って、紅蓮とどこぞの筋肉発言さんだけじゃないの?
「うふふっ、冗談だって。君結構うぶなんだね~」
「……は、はぁ」
「だけどもしその気があるなら、今晩【35】号室においで。ほんとに良いことしてあげるから……ね?」
そう言ってウインクしてきた。
やばい。
一瞬元気になりかけた。
抑えろ、俺。
こんな所で立ったら誤魔化せねぇ。
というかこの人本気なのか?
35号室って言ったっけ?
行ったらマジでいいことしてくれるの?
男からするとすごく魅力的な提案だと思う。
だけど俺は……。
よくわからない人とそういうことをする気はない。




