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第三十話

「よく見るとこの銃、かなり汚れているみたいだし、そのまま放り込んどくか」


 紅蓮はハンドガンを木箱のなかに入れた。

 あ、そういえば。

 この軍服も返した方がいいんじゃないのか?

 一応拾ったものだし。

 

「なぁ、紅蓮。この軍服はどうしたらいいと思う?」

「ん? あぁーそうだな。お前の好きにすればいいんじゃないか?」

「じゃあもらってもいいのか?」

「まあ、とりあえず軍服の裏に名前があるはずだから、誰のかだけ教えてくれ」

「お、おう」


 軍服のボタンを外して内側を探す。

 

「えぇっと……弥勒(みろく)(げん)って書いてあるけど」

「……なるほどな。弥勒さんの夫のやつか」

「知っているのか?」

「当たり前だろ、同じ基地に住んでいるんだし。……その制服の持ち主の奥さんと娘は、本部の三階に二人で住んでいるぜ?」

「へぇ」

「話に聞いた限りじゃ弥勒さんはな、二十年前に行方不明になった夫の帰りを未だに待ち続けているんだ。今もまだ生きていると信じているんだとよ。お前がその軍服を持って行けば真実を教えることができるわけだが、そうするとあの人……絶対に泣くよな。う~ん。…………よし、お前が決めろ」

「えぇー!」


 何その嫌な役。

 

「なんだその顔は? そもそもお前が拾ったものだろ」

「そうだけど……」

「じゃああとは任せた。ウチは知らねぇ。……最後にもう一度だけ教えておくが、その軍服を届けるべき所は三階の【12】号室にいる弥勒さんの部屋だからな? あーでもお前が無言で借りパクしておきたいってんなら止めねぇ。そもそもウチは関わりがないからな。まあ、実際黙っといたままの方が楽っちゃ楽だろ。……けど、弥勒さんは今でもずっと夫の帰りを待ち続けている。……あの人は絶対に生きている。……ちょっと迷子になっているだけだ。ってさ。……皮肉なもんだなぁ。夫の骨を目撃していて、あまつさえ軍服を借りパクしている奴が同じ基地内にいるんだから。……でもうちは止めないぜ? それでもお前が軍服を借りパクしたいっていうなら──」

「──わかったよ! 返しに行けばいいんだろ? 近いうちに返しに行くよ!」


 すると、紅蓮は突然歩き出した。

 

「というわけで、基地の案内を再開するか。続いては本部の建物だ」


 おい。

 マジで一度『というわけで』の意味を調べろよ。

 

 

 

 

 本部の建物に入った。

 玄関で紅蓮が口を開く。


「まずは廊下を左側へ進むと、食堂やらトイレやら大浴場などがある。いちいち案内するのが面倒くさいから後で一人で確認してくれ。どうせ行ったらわかるだろうし。で次に右側へ進むと、研究室や整備場、会議室などがある。いちいち案内するのがだりぃから、興味があるんなら後で行ってみろ。よし、一階の案内は終わったな。次二階行くぞー」


 紅蓮はそう言って正面の階段を上がって行く。

 こいつ……さては案内に飽きたな?

 案内してもらっている立場だから文句は言えないけどさ。

 もう少し丁寧にしてくれてもいいんじゃないか?

 大浴場とかトイレとか……。

 俺が間違えて女子の方に入ってしまったら誰が責任取るんだよ。

 俺かっ!?

 


 二階に到着した。

 

「この階には、みんなの部屋がある。二階は全て一人部屋だ」


 そう言いながら階段を上がって行く。

 せめて立ち止まってから説明しない?

 ほぼ素通りじゃん。

 


 三階に到着した。


「三階は家族部屋だ」


 そして階段を上がり続ける。

 それだけかい。

 まあ十分伝わるけどさ。

 結婚したら三階で暮らせばいいってことだろ?

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