第四話
「……ふぅ」
一度深呼吸をし、ドアをゆっくりとスライドさせていく。
少しだけ隙間を開けて、外の様子を確認。
先ほどと同様、ジャングルのような景色。
どうやら……あの魔獣はいないらしい。
だがまだ油断は禁物。
もしかすると木の影とかで待ち伏せをしているかも。
静かに外へ出ると、くぼみに手を入れて扉を閉めた。
そこでふと気づいたが。
どうやら外から鍵を閉めることはできないらしい。
ハンドルどころかくぼみが一か所しかない。
パッと見ただの壁。
つまり誰かに入られて内側から鍵を掛けられた場合。
俺はこの建物に入ることはできない。
おそらくドアをノックしたところで、なかには聞こえないだろう。
そしてもちろん、ドアをこじ開けることも不可能。
それが自分の拠点だと思うと安心なのだが、外出する時は不安だ。
だっていつ入れなくなってもおかしくないのだから。
仮にここが異世界だと仮定して。
この世界に知性の高い生物がいても不思議ではない。
「……て、あれ?」
ちょっと待った!!
俺が目覚めた時。
どうしてあのドアは閉まっていた!?
外側から鍵が閉められないのなら、他の人たちが出て行ったあと開いていなければならないはず。
じゃあなんでちゃんと鍵がかかっていたのか。
「嫌な予感がする」
急いで目の前の扉を開けようとする。
くぼみに手を入れ、横へスライド……できない。
「嘘だろ!」
全然開かない。
試しに、押したり引いたりもしてみたが、開く気配がない。
まるで壁だ。
時間にして五分くらいだろうか。
いろんな方法を試した。
蹴ってみたり。
大きめの石を投げつけてみたり。
適当な呪文を唱えてみたり。
だが結局開くことはなかった。
それどころか、傷ひとつない。
真っ白で綺麗なまま。
認めたくはないが、俺は部屋から追い出されたらしい。
もうこの建物内に入ることは不可能だろう。
おいおい。
せめてペットボトル二本……返してくれよ。
唯一の救いは、一本は持ってきていたこと。
食べ物に関しては周りを見た感じどこにでもありそうだが。
どれが食べられるのか、わからない。
下手をしたら全部毒があるという可能性もある。
魔獣に関しても、仕留めたとして食べられるのかどうかわからないし。
とにかく。
カロリーメイトが三箱あるため、一番急ぐべきは水の確保だ。
はたしてペットボトル一本で何日生きられるのか。
しかも気温はまあまあ暖かい。
当然歩いていれば喉は乾く。
急ごう。
白の建物から正面に進んで行く。
別に右でも左でもよかったのだが、俺の勘がこっちに水があると言っている。
本当にあるんだろうな?
なかったら怒るぞ?
誰を叱るのかって?
俺自身をだ。
それから三分ほど歩いた。
特に魔獣に出会うこともなく順調だ。
めちゃくちゃ耳を澄ませて歩いているが。
自分の足音と鳥の鳴き声以外の音が聞こえてこない。
それにしても。
「地面から飛び出ている木の根っこがうぜぇ」
歩いていると、たまに躓いて転びそうになる。
しかも長い植物が多すぎて足元が見えないしな。
どこに木の根が張り巡らされているのかわからない。
全部燃やすぞ、この野郎!
いや、火事に巻き込まれて死にそうだからやめとこう。
そもそも火の起こし方を知らないしな。
「木を使ったらいいんだっけ?」
なんかテレビで見たような気がする。
あの錐揉み式みたいなやつ。
疲れそうだな。
まあ火起こしに関しては、動物でも捕まえた時に考えればいいか。
今はとにかく自分の安全が最優先。
なるべく静かに移動して、狼に見つからないようにしないと。
「……ん? なんだあれ」
突然小さな木にぶら下がっている果実が視界に入ってきた。