第二十八話
「……」
「おい、朧月。お前がおもらしちゃんが納得しそうなあだ名を考えろ。でないと話が進まん」
「話が進んでないのは確実にお前のせいだ! ……というか普通にありすさんでいいだろ」
「チッ。ノリが悪いやつだな。全然面白くねぇ」
「それは悪かったな」
紅蓮はにやけながら、
「よかったな、ありす。男の子に庇ってもらえて。……さすがぶりっ子を演じて普段からかわいい子ぶっているだけあるぜ」
「……これが素だもん!」
「それはそうとありす。結局今牢屋に誰か入ってんのか?」
「……うん。ちょうど一ヶ月前──」
「──あっ、そういえばそうだったな。暁闇虎狼っていうウチの一個下の男が入ってるぜ」
「ぎょうあんころう?」
これはまた変わった名前だな。
紅蓮の一個下ということは17歳。
俺と同い年か。
「そいつは今まで大人しい奴だったんだがな。一ヶ月前に両親が二人とも魔獣に殺されて以降豹変しちまった。食堂で人の料理をひっくり返したり。誰彼構わず殴り掛かったり。一度ウチにも突っかかってきやがったから、その時は軽くボコしたけどな。……でも、とにかく暴れまくってたんだ」
「やっぱり両親の死が辛かったのかな?」
「だろうな。あいつはそうとう愛情を注いでもらっていたし。大きなショックを受けるのも無理はない。……それで結局三日くらい暴れ続けていたっけ? 見兼ねた総長が投獄を命じたんだ」
「期間は?」
「さあ? ……ありすは知ってるか?」
「ううん」
ありすさんは首を左右に振った。
「だとよ。まあおおかた総長の気分によるんじゃねぇか?」
「なるほど」
続いて、本部の正面から見て右側に位置する建物に移動した。
さっきの牢獄よりも小さい。
木造りで、あまり耐久性があるようには見えない。
扉にも鍵はなさそうだ。
「ここは倉庫だ。武器や食料などを保管している。何か質問はあるか?」
紅蓮が聞いてきた。
「えっとじゃあ……このなかって誰でも入っていいのか?」
「ああ。使いたい奴が使いたい武器を持って行けばいい。だけど、食料は原則として係以外の奴が持ち運ぶことは禁止されている。遠征などで持って行く場合、きちんと総長に許可をもらってからでないとだめだ」
なるほど。
「でも、見た感じ鍵がかかってないし、食料を盗み食いする人とか出てこないか?」
「いや……基本的にいないな。バレたら短時間だけど牢屋行きになるし、リスクが高すぎる。まあウチは武器を持って行くついでによく果実を盗み食いしているけど。バレてないから大丈夫だ」
「よし、総長に言っておくか」
「おいちょっと待て! 冗談だって冗談。盗み食いなんてするわけねぇじゃん。……なぁ、マジでチクるのは勘弁してくれよ?」
「……」
こいつ、確実に盗み食いしてるな。
「よし、ちょっと一緒に入ってみるか。ウチとありすの武器も返さないといけないし」
紅蓮は扉を勢いよく開けた。
するとなかの様子が視界に入ってくる。
うす暗い。
「うわっ、すごいな……」
右側に武器類がある。
ハンドガン。
アサルトライフル。
マシンガン。
手りゅう弾。
剣など。
壁に掛けられていたり。
机や床に置かれている。
すごい量だ。
そして左側には果実や穀物など食料。
天井から軍隊鳥や狼の死体が吊るされている。




