第二十七話
その後裏庭から正面へと回り、パスワードを入力して建物のなかに戻った。
すると玄関には紅蓮とありすさんの姿。
「おう、きたか。で、総長の用件はなんだったんだ? きて早々に気に食わないから追い出されるとか?」
紅蓮が尋ねてきた。
「ちょっと泡沫組一代目の総長についてな」
「なるほど。……ということは、お前が百年前に告白しようとしていた相手ってのは、一代目の鈴さんだったということか」
「……えっ?」
いや、なんでわかったんだ?
やっぱりこいつ、頭良すぎだろ。
「ははっ、やはり当たっていたか」
「どうしてそれを?」
「なんとなくわかるだろ」
いや、わからねぇよ。
ま、それはともかく。
「えっと、その……。信じてもらえるかどうかはわからないけど、鈴の墓石に触れた瞬間、忘れていた大事なことを思い出した」
「ふぅん。別に朧月の失った記憶なんてこれっぽちも興味ないけどな。で、何を思い出したんだ? 気になるから早く教えろ!」
紅蓮が近づいてきた。
「結局気になるんじゃねぇか! ……えっと、百年前の地球と惑星エリスが衝突する前日、俺は泡沫鈴に告白していたよ」
「えっ、マジで? すげぇじゃん」
「まあ、お別れも同時だったけど……」
「……それを思い出したから、お前さっき泣いていたのか?」
なんで知ってんの?
「まさか……見てたのか?」
「外にうろついている狼くらい目が赤くなってんだから、見ていなくてもわかるに決まってんだろ」
「マジですか?」
「マジだ」
「とにかく、俺はもう大丈夫だから。……墓石を目の前にして大切な人の死を実感した時はさすがに悲しくなったけど、気持ちは切り替えた」
「いや、別に心配してないけどな」
なんだと?
「そこはもうちょっと気を遣ってくれよ」
「冗談だって。……とにかく、ご愁傷さまだ。けどアドバイスするなら、その痛みには慣れておいた方がいいぜ? いや、正確に言えば悲しむのはいいことだが、すぐに立ち直れる心を持っていないと、自分がもたない。この世界では人の死は決して珍しくない。明日誰が死んでもおかしくないような時代なんだよ。ま、慣れだな」
確かに。
それはそうだな。
「うん、気に留めておくよ」
「さてと、気を取り直してウチらについてこい。ついさっき総長から命令されてな。これから基地内を案内してやる」
「あ、ありがとう」
「ほら行くぞ。まずは外からだ。……ありすもしっかりついてきて何か解説を……って、なんでお前がそんな悲しそうな顔してんだよ」
「えっ……これは、違う」
ありすさんは首を左右に振った。
「まさか朧月の赤い目を見ていたら自分も泣きそうになったのか? 情けねぇ奴だな。そんなんじゃ外に出た瞬間またおもらししちまうぞ?」
「おもらしは関係ない。……ほんとにやめて」
「というわけで、行くぞ。おもらしちゃん」
「うぅー……」
ありすさんは紅蓮を睨む。
だけど怒り慣れていないからだろう。
かわいく見える。
本部の建物を外に出て、まずは左手に見える小屋へと移動した。
一軒家を三つ合わせたくらいのサイズ。
窓などが一切なく、鉄のドアがひとつあるだけ。
全体的に頑丈そうな造りだ。
「まず最初に、ここが牢屋だ。簡単に言えば悪いことをした奴を閉じ込める場所だな。ちなみにウチもありすも入ったことはない」
「へぇ……」
まあ確かに、治安を維持するためには必要だよな。
「気をつけろよ朧月。発情してウチやありすに手を出したらここへ入ることになるからな?」
「絶対やらねぇ。……で、今現在入っている人はいるのか?」
「今は……。おい、おもらし! 誰かいたっけ?」
紅蓮がありすさんに聞いた。
「私おもらしじゃない」
「うるせぇ。質問に答えやがれ」
「……じゃあ普通に呼んで」
「おもらし! これでいいか?」
「かわってない」
「それじゃあ……おもらしありすなんてどうだ?」
「だめ」
「う~ん、そうだな。……間を取って、おもらしにするか?」
全然、間取れてねぇよ。
「もう知らない……鎬のばかっ!」
「なんだとー? じゃあありすはおもらしだ!」
だから、さっきから変わってねぇよ!!




