第二十一話
「この先に組長がいるわけだが……準備はいいか?」
紅蓮が尋ねてきた。
「いや、少しだけ心を落ち着ける時間をくれないか?」
さすがに到着していきなり会うのは緊張する。
話を聞く限り、気難しい人みたいだし。
「おーい、組長ぉー! ウチだけど、入ってもいいか?」
紅蓮はドアをノックしながら大声で言った。
はぁ……やると思った。
なら最初から聞くなよ。
というかそんな口の利き方してもいいのか?
相手は組長だろ?
「どうぞ」
硬い女性の声が聞こえてきた。
うわっ、恐そう。
「失礼しまーす!」
大きな声を上げながら扉を開ける紅蓮。
俺とありすさんは彼女のあとについて行く。
なかに入ると、かなり狭い部屋だった。
ベッドやタンス、本棚などがある。
空いている空間はほとんどない。
組長であろう一人のおばあさんは、正面の机に座っていた。
長い白髪。
眼鏡。
顔はしわだらけ。
みんなと同じ黒い軍服を着ている。
本を読んでいるようだ。
おばあさんはこちらを向いて口を開く。
「ありすに紅蓮。……それから、そっちの男の子は誰だったかね? ウチの軍服を着ている割に、あたしの記憶にはない顔だけど」
「組長。こいつはついさっき川で出会ったんだ。だからウチの組織の者じゃないぜ。軍服は滝の下の洞窟で拾ったんだとさ」
紅蓮が答えた。
「そうかい」
えっと。
こういう時は、自分から挨拶をした方がいいかな。
「あの、朧月零と申します。一応百年前の生き残りで、今まで冷凍保存されていたらしいです」
「へぇ、そうかい…………ん? お前さん今なんと言った?」
あれ?
聞こえなかったかな?
「えっと、百年前の生き残りで、今まで冷凍保存されていた──」
「──そこではない。もっと前だ」
もっと前?
となると名前のことかな?
「朧月零と申します」
「おぼろづき……れい。…………まさか」
おばあさんは突然立ち上がり、こちらに向かってゆっくりと近づいてくる。
えっ……。
なんかおかしいこと言ったか?
確かに俺の苗字はおかしいけどさ。
て、うるせぇ。
変な苗字で悪かったな。
「お前さん……本当に朧月零で間違いないのか?」
「ええ。まあ」
本当にどうしたのだろう。
「確かに冷凍保存されたと聞いていたが……なるほど。そういえば生き残りたちが揃って、一人だけ目覚めなかった者がいたと言っておったな」
「おい、組長。こいつのこと知っているのか?」
「……ああ。話には聞いていたよ」
なんかいまいち話が見えてこない。
「話に聞いていたとはどういうことですか?」
そう尋ねてみると、おばあさんは俺の横を通り過ぎた。
「…………ちょっとついてきなさい。見せたいものがある」




