第十六話
「人によるってどういうこと?」
「組長はよ。人によって態度を変えるんだよな。嫌いな奴に対しては罵詈雑言を浴びせたり、自分のお気に入りに対しては笑顔で優しくしたり。普通の人には普通に接したり。その基準がよくわからねぇんだよ」
「うわぁ」
それ嫌だな。
「ちなみにウチは普通に接してくれる。……で、ありすはなぜかお気に入りでな。昔からずっとかわいがられているんだよ」
ありすさんが組長に……かわいがられている?
なんかそれも嫌なんだけど。
だってさ。
組長ってどうせ男でしょ?
だとしたら、かわいいからお気に入りってことじゃん。
触られたりしてないよな?
俺のありすさんにそんなことをしたら、絶対許さないからな。
まあ、一応性別を聞いてみるか。
「なあ紅蓮。その組長って男か?」
「いいや、女」
「あ、そうなんだ」
ならいいや。
かなり安心した。
少なくともありすさんが汚されている可能性はなくなった。
だけどまだ不安要素はある。
そう、嫌われるかお気に入りになるか。
できればお気に入りに入りたいところだけど。
まあ贅沢は言わない。
せめて普通がいい。
よし、なるべく礼儀正しくしよっと。
「ありす。そういえばあの人って今何歳だっけ?」
「えっとね。…………72歳」
少し悩んだ末、ありすさんが答えた。
72歳。
じゃあおばあちゃんってことか。
「もうそんな歳だったか? じゃあそろそろウチが三代目を継がないとな」
「それは正式に決まっているのか?」
「いいや。ただなりたいと思っているだけ。……って、なんだその不安そうな顔は」
「いや、なんとなく紅蓮が組長になったらめちゃくちゃしそうだなって思っただけで」
例えば、全員をこき使って自分専用の豪華な建物を造らせたり。
「ウチがそんなことするように見えるのか? あぁ?」
「見える」
「おい、ありす。お前はそう思わないよな?」
「……見える」
「はあ? なんだお前ら二人して。ぶち殺すぞ、こら」
とそこで建物の入り口に到着した。
頑丈そうな扉の横の壁には【泡沫組】という……板。
あれ?
なんていうんだっけ?
名札みたいなやつ。
金属に苗字が掘ってあってさ。
よく一軒家の門とか玄関にあるじゃん。
あっ、そうそう!
表札だ!
表札がある。
なかなか思い出せなかった。
これがもし仮に一人称小説なら、絶対文字数の無駄だよな。
この分だけ物語が進まないんだから。
だとしたらなんかすみません。
マジで出てこなかったんです。
「何してんだ朧月。早く入れよ」
「えっ……なんで俺が先頭?」
「入り口の横にパスワードを入力する機械があるから、試しにやってみろ」
「いや、やってみろと言われても……。そんなの無理だろ」
「いいから早く。どうせ一度間違える程度じゃ何も起こらないし」
「まるで複数回間違えたら罰があるみたいな言い方だな」
「ああ、建物のなかの警報が作動するようになっている」
なるほど。
そんな感じか。
あれ、ちょっと待てよ。
警報とか。
パスワードの機械だとか。
「紅蓮。この世界に電気なんてあるのか?」
「一応。ここの裏の敷地外に幾つか風力発電機があってな。それで発電している」
「へぇ……」
「て、おい。なに話逸らしてんだ。早くしろよ」
「はぁ……。了解」




