第十五話
紅蓮は笑いながら口を開く。
「ハハッ、おいおい。お前もうありすのこと忘れたのかよ。あそこだけじゃなくて記憶力も小せぇ男だな」
「桜花さんのことじゃねぇ! その隣にいる男のことだよ。そんくらいわかるだろ」
「ああ、こいつか。ついさっき川で出会ったんだ」
そう言って、紅蓮はこちらを見る。
顎で指してきた。
自己紹介をしろってことか?
俺は一度彼に会釈をして喋り始める。
「初めまして、朧月零と申します。えぇーと、あの……一応百年前の生き残りです」
「あ、初めまして。俺は東雲大志。…………えっ? 百年前? じゃああの集団の最後の一人ってこと?」
「はい。二週間ほど前に目が覚めました」
「マジかよ。よく一人でここまでこられたな。だってあの謎の白い建物って、めちゃくちゃ遠くの高台の上にあったはずだし」
高台?
ああ、崖の上のことか。
「大変でしたけど、まあ何とか」
「ふんっ、こいつはりんごだけでここまで辿り着いたらしいぜ。普通なら体に力が入らず、魔獣に殺されていてもおかしくはねぇ。大志よりもよっぽど根性がありやがる」
紅蓮が言った。
「二週間りんごだけか。……確かに、俺には真似できないかもな」
まあ正確には兎を一匹だけ食べたけど。
あれがなかったら、今頃倒れていたかもしれない。
「というわけで、お前。今日から果実以外食べるなよ? わかったか、大志?」
「無理に決まってんだろ。もうすでに腹ペコだし」
「飯食う暇がありゃ、女の一人でも食ってみやがれってんだ、この根性なし。……あ、わりぃ。そういえばお前は小さいのを見られたくないんだったな。すまねぇ。ウチとしたことが配慮に欠けたぜ」
東雲さんはため息をつく。
「……はぁ。もうお前と関わっていると身が持たない。早く行けよ」
「おう、じゃあな」
そう言って紅蓮はこちらを向いた。
「朧月、ありす。行こうぜ。このままここにいたら根性なしがうつりそうだ」
「そういうことは俺のいる場所で言うな! もっと離れてから……いや、やっぱり陰でも言うなよ? なんかムカつくし」
「りょーかいりょーかい」
「その返事。お前、絶対わかってないだろ」
「ふふっ、お前さぁ。なんやかんや言いつつ、ウチと長く話していたいだけじゃねぇのか?」
紅蓮が笑いながら言った。
「そ、そんなわけねぇだろ! もう俺は知らん。さっさと組長の所へ案内してやれよ。ここに住むということであれば名簿に登録してもらわないといけなかったり、いろいろとあるからな」
「わざわざ丁寧な説明ありがとよ、大志ちゃん」
「ちゃん付けするな」
「ハハッ。やっぱお前面白れぇわ」
「俺は面白くねぇ」
紅蓮は軽く手を振り、歩き出した。
この二人仲いいんだろうな。
お互い表面上は馬鹿にしていたり嫌っているような言葉遣いだが。
深い友情や信頼を感じる。
いいな。
羨ましい。
「朧月、見えるか? 正面のあれがウチら全員が住んでいる本部の建物だ」
歩きながら紅蓮が言った。
「マジですごいな」
「だろ? 仮にもし敷地内に魔獣が侵入してきたとしても、あのなかにいれば安全だ」
「へぇ。……で、なんで中央だけあんな高いんだ? 他の部分は三階建てなのに、二倍くらいあるように見えるんだけど」
「あぁー。あれは今のニ代目の組長の趣味だ。今から十年ほど前に増築していたおぼえがある」
「趣味って。……あれ、個人の欲のために造ったのか?」
「まあ、組長はそれだけの地位にあるってことだ」
成金みたいな人なんだろうか。
だったら嫌だな。
漫画とかでよくそんな感じのキャラを見たことがあるけど。
あまりいいイメージがない。
「……俺なんかがそんな人に会いに行ってもいいのか?」
「ああ。多分大丈夫だろ」
「なんか珍しく歯切れが悪いな。……まさかやっぱり怖い人なんじゃ。初対面の俺を見た瞬間いきなり怒ったりさ」
「わからん」
「えっ?」
「相手によるからな。なぁ、ありす」
「……あ、うん」
ありすさんは頷いた。




