第十三話
それから一分ほど沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは、言わずもがな紅蓮だ。
「沈黙がうぜぇ。ありす、朧月。どっちでもいいからなんか喋ってくれ」
いきなりなんか喋ってくれと言われてもな。
あ、そうだ。
いい機会だし聞きたいことを尋ねておくか。
まだまだ知りたいことが山ほどある。
「基地ってどんな所なんだ?」
「あとで見ればわかるだろ」
「……組織にはリーダーみたいな人がいるんだよな?」
「ああ。いるぜ」
「結構強面だったりするのか?」
「あとで会えばわかる」
「……お風呂とかある?」
「ある」
「基地のなかに魔獣とかが入ってくるおそれは?」
「基本的にない」
……全然会話が続かねぇ。
こいつ、自分から振っておいて喋る気ないだろ。
「この獣道……基地から川まで迷わず行けるように作ってあるのか?」
「ふぁぁぁ~。……あぁ、眠てぇ。ひとっ風呂浴びてベッドで寝たいぜ」
「……」
眠いんかい。
それでさっきから口数が少ないんだな。
じゃあ、なんか喋ってくれとか言うなよ。
というかまだ午後ですらないけどな。
さては昨日夜更かししてたな?
「それで獣道の話だっけ? ふぁぁぁ。昔はよく基地から川に向かう途中、迷子になって帰ってこられなくなっていた奴がいたらしくてな、ウチが生まれるちょっと前くらいに作られたんだとよ。それ以降組織の人間が多用するようになって、別に何もしなくとも道の状態がキープされているわけだ。一応植物が道を遮っているようなら、切り倒すなりなんなりするっていう決まりがある。どうだ、わかったか? わかったならウチはもう喋らねぇぞ。眠たいからな」
「お、おう。ありがとう」
「それでありす。最近太ってきたんじゃねぇか?」
結局喋るのかよ!
「えっ……そう?」
「いや、適当に言った。合っているかどうかは知らん」
なんじゃそりゃ。
「…………」
「おい、なんで無言なんだよ」
「だって返したら鎬、うるさいありす……って言うもん」
「おぉ、よくわかってんじゃん。正解! なんでわかったんだ?」
「……長い付き合いだから」
正直俺もそんな気はしていた。
短い付き合いだけど、なんとなく予想はつく。
「それで朧月。最近痩せてきたんじゃねぇか?」
「いや、今日出会ったばっかだろ。まあ実際かなり痩せたけどな。過酷な環境で果実以外食べてなかったから、自分でも体が軽くなってきた自覚はある」
「ウチはもうちょい太っている方がタイプだな」
「じゃあもう少し痩せるとするか」
「お前、舐めてんのか?」
「冗談だって」
「なんにせよガリガリはモテねぇぞ?」
まあそうだろうな。
俺もどっちかというと細すぎる女子は嫌だ。
ちょうどありすさんくらいがいい。
というかありすさんがいい。
「俺も好きで痩せたわけじゃないからな。できれば基地に着いたら何かがっつり食べたい。もちろんその分働くつもりではいる」
「はは、そりゃいいや。じゃあ朧月、今夜ウチのマッサージよろしく。たくさん働くんだろ?」
なんだと?
「いや、異性同士でそれはまずいだろ」
「そんくらい普通じゃねぇか? ……おい、まさかとは思うけど、ウチと間違いが起こるとか思ってんじゃないだろうな?」
「それはないけどさ。マッサージって……俺、女子の体なんて触ったことないし。そもそも付き合ってもいない子とそういうことをする気はない」
「はぁ~。男のくせに女々しい奴だな。言っていることがありすそっくりだぜ」
あ、なんかそれは嬉しい。
「なんにせよ、マッサージは嫌だからな?」
「まあどうせ初対面の奴にやらせる気なんてなかったし、別にいいけどな。……というわけでありす、頼むぞ?」
「えぇ……鎬の筋肉、硬いからやだ……」
すごく想像つく。
そんな気しかしない。
「失礼な奴だな、おい。というか、ありすが全体的にぷにぷにし過ぎているんだよ。大して太ってもいないくせにどういうことだ? こんな環境で生きてきてよくそんな体になれるよな。……甘い物ばかり食べているし、当然といえば当然だけど」
なんかそれも想像つく。
かわいい子=甘い物だよな。
「……食べてないもんっ」
「うるせぇ、ぶりっ子」
ひでぇ。




