第十二話
「朧月。お詫びと言っては何だが、ひとつ良いことを教えてやろう?」
「ん?」
口に水を含んでいく。
ポケットに入れていたせいで若干ぬるい。
やっぱり川の水は直接飲むのが一番だな。
「ありすは毎晩一人で弄っている!」
「ブッ!?」
思わず水を噴き出してしまった。
「ちょっと鎬──!? 冷たっ」
ありすさんの体がビクンッと跳ねた。
しまった。
袖とかてのひらにかかってしまったらしい。
俺は急いで近づき、軍服の袖でありすさんの手のひらを拭いていく。
「あの! ありすさんごめん。すぐに拭くから」
「……え、えっと、大丈夫」
彼女は優しく俺の手をほどこうとしたが、俺は拭き続ける。
「そんなわけにはいかないよ」
「あはは! 何やってんだ朧月。汚ねぇなぁ」
「お前が変なことを言ったせいだろ!」
「だってほんとのことだし。」
「鎬やめて。私触ってないもんっ」
「嘘つけ。年頃の女は誰だってムラムラしているもんなんだよ」
えっ、そうなの?
「私は違う……」
「あはは! 朧月が触っているそのありすの手。……どれだけ汚れてんだろうな」
紅蓮がそう言った直後。
ありすさんは俺の手を振り切った。
「…………」
見ると、彼女の顔は真っ赤。
まるでゆでだこのようだ。
「おい。そろそろやめてやれよ」
さすがにかわいそうだ。
やっていようがいまいが、他人の前で言うことではない。
「あぁー面白れぇ」
「……私は全然面白くない」
「でも男と同様、十代後半の女の子が一人でするのは当然のことなんだぜ?」
「私は本当にやってない」
「なぁ朧月。お前もどうせ毎日一人で鎮めてんだろ? 人間ってのはそういう生き物なんだよ。それを踏まえたうえで聞くが、ウチとありす……どっちを信じる?」
「ありすさんで」
うん、即答。
「はぁ?」
「そもそも俺はこの世界にきて、一度もやってないし」
「嘘つけ」
「そんな体力があるなら、明日を生きるために取っておきたかったからな。そもそもあんな過酷な環境で性欲が溜まるはずがない」
「それは周りに女がいなかったからだろ?」
「まあ……それは」
そうかもしれない。
「つまり今日、朧月がする可能性は非常に高い」
「絶対やらねぇ」
「言ったな? もし仮に基地の部屋で一人でやってたとしたら、匂いでわかるからな?」
「ああ。問題ない」
そもそもこいつは男という生き物をわかっていない。
案外我慢できるものなんだよ。
人によるかもしれないが。
耐えようと思えば別に一ヶ月でも余裕だ。
「……あっ、良いこと考えた。今日裸のありすを部屋に放り込んでやろっと」
「紅蓮、お前いい加減にしろ」
「鎬、いい加減にしてっ!」
そう言いつつ、ぜひやってくれとか願ってないからな。
「お前ら二人して同じような返答しやがって。仲良すぎだろ」
「……」
はぁ。
なんかもう疲れた。
この人ずっとこんなテンションなのか?
もうきついんだけど。
「はぁ……」
ありすさんもため息をついた。




