第二話
突然訪れる静寂。
「はぁ、はぁ」
自分の呼吸音だけが聞こえる。
外からは何も聞こえてこない。
狼は諦めたのだろうか。
それとも攻撃をしてきてはいるが。
扉が分厚いために聞こえてこないのだろうか。
どちらかはわからないけど。
しばらく外へは出ない方がよさそうだ。
「マジで危なかったな」
息でふっふのふーどころか。
牙でぐちゃぐちゃにされるかと思った。
今の装備ではあいつには勝てない。
それは本能的に察することができた。
「にしても、さっきのは何だったんだ?」
狼……なのか?
俺の記憶が確かであれば狼の目は赤くない。
だがさっきの動物の両目は真っ赤だった。
例えるならガーネットのような、不気味な赤。
あんなに怖かったのは、幼い頃にみた夢以来だろう。
豚の貯金箱に永遠と追いかけられる恐怖がわかるかね?
それはともかく。
「あいつは、狼じゃないのかもしれない」
そう。
言うなれば魔獣。
異世界転生系の小説によく出てくる奴だな。
「だんだんとここが異世界のような気がしてきた」
それが一番ピンとくる。
どうしてカプセルで眠らされていたのかはわからないが。
外にあった謎の植物。
魔獣と呼ぶのがふさわしい見た目の狼。
もう完全に異世界だろ。
正直、異世界に行ってみたいとか思ったことはあるけどさ。
実際にきたら怖すぎるんだけど。
下手したら最初から死んでたからな?
何あの序盤で出会うべきではない相手。
ちょっと難易度高すぎじゃない?
ここが本当に異世界なのであれば。
俺が思ってたのと違うぞ。
「……さてと、それでこれからどうするよ」
なんかお腹空いてきたし、喉も乾いた。
そんな悩みを解消するには外へ出るしかないわけだが。
今は出たくない。
となるとこの部屋で時間を潰すしかないな。
さすがに一時間くらい閉じこもっていれば、狼も諦めてくれるだろ。
「じゃあ……この部屋の探索でもしてみるか」
もしかすると何かお宝があるかもしれない。
まずは全員分の箱を開けてみよう。
運が良ければ女性用の下着とかが残されてたり……。
いや変な意味じゃないぞ?
ちょっとでも衣服が増えたら、体温の低下が防げるかもしれないって思っただけだからな?
だってこの部屋ちょっと寒いんだもん。
決して嗅いだり、匂ったり、香りを確かめたり、クンクンしたりしないからな?
あー、でも。
よく考えるとさ。
そもそも下着なんて残っているはずないだろ。
おそらくカプセルで寝る前に身に着けていた衣服があの箱に収納されていた感じだし。
下着を二枚着ている人はそうそういないはずだ。
仮にいたとしても、持って行くだろうし。
「まあとにかく、物色していきたいと思います」
俺はRPG世界の勇者のごとく、棚にあった箱を片っ端から開けていく。
し、下着。
下着出てこい! とか口に出すことなく作業を行う俺。
純水よりも純粋な男である。
だって変なことを思いながら箱を開けてたらさ。
もし仮に俺のこの物語が小説とかになってたら、恥ずかしいじゃん。
下着~。
下着ちゃ~ん。
女性のし、た、ぎ~。
出ておいで~! とか言いながら箱を開けていたら、やばいだろ?
小説家〇なろうとかに投稿されているかもしれないんだよ?
だから念のため。
いつ誰に見られていてもおかしくないように、気を使っているというわけだ。
仮に一人称小説だった場合。
今思っていることが全部バレるけどな。
まあ、それは大丈夫だろ。
小説家になろ〇に投稿されるとしても、どうせ三人称小説だろうし。
一人の純粋な少年は、無言で箱を開けていった……みたいな感じの一文で終わるはず。
だって何も喋ってないもん。
そんなことを脳内で考えつつも、箱を開け続けること数十分。
やっと全部見終わった。
「正直何も残ってないと思ってたんだけど……わりと収穫があったな」