第七話
「うぅ~ん、どうしよっかなぁ~。……そうだ! 土下座してくれたら案内してやらんでもないぞ?」
紅蓮さんの言葉に、俺はすぐさま土下座をした。
「お願いします」
「ちょ、お前! 男のプライドとかねぇのかよ」
「今更ないですよ。今までずっと一人で寂しかったですし。正直このまま一人で死んでいくのかな、とか思ってました」
「チッ、面白くねぇ野郎だ。ここは頑なに土下座をしようとしないお前を、ウチが力ずくで土下座させる場面だろ?」
そんなの嫌だね。
「……そうですね」
「なんだその心のこもっていない返答。まあいいや。とりあえずウチとありすは任務に戻るから、案内してほしかったらついてきな」
「それはいいですけど。任務ってどんなのなんですか?」
「ああ、今回の任務はな……て、お前。さっきからずっと気になってたんだけどさ。敬語、気持ち悪いからやめろよ。吐きそうだ」
あ、そういう人よくいるよな。
じゃあ止めるか。
「わかった。で、その任務って何?」
「やっぱムカつくわ。敬語に戻してくれねぇか?」
「なんでですか!?」
めちゃくちゃすぎる。
「冗談だ。タメ口でいいって。……おい、ありす。いいから何か喋れよ! 存在感ねぇな」
「……」
ありすさんは無言で首を左右に振った。
「何かわいい子ぶってんだ? ぶりっ子。で、今回の任務についてだが、最近巨大なドームに凶悪な敵が住み着いたって噂があってな。ちょっと本当かどうか偵察にきたんだ」
なんかありすさんの扱いひどくない?
見てるだけなのに罪悪感が半端ないんだけど。
どうにかして助けたくなる。
て……ん?
スタジアムの凶悪な敵って、なんかおぼえがあるぞ。
あいつのことだよな。
「あ、それだったら見ましたよ?」
「は? 何をだ? まさかありすの下着をか? 朧月お前それはだめだぞ。なぁ、ありす。ぶりっ子ごっこしてないで、何か反論してやれ!」
いろいろとひどすぎる。
「違うって」
「鎬が勝手に言ってるだけだよっ……」
俺とありすさんが同時に否定した。
「おぉ、そうかそうか。で、何を見たんだ?」
急な話題転換。
すさまじいな。
「えぇっと、試合場の機械でできた巨大蜘蛛のことだと思うんだけど」
「あ、それそれ! 本当にそんなやつがいたのか?」
「うん」
「じゃあ任務完了だな。お手柄だぞ。新人のくせにありすよりもしっかりしてるじゃねぇか。おい、見習えよ? ずっとぶりっ子ごっこをしているつもりなら、いずれ海に放り出してブリと区別がつかないくらいにしてやるぞ?」
「……うぅ」
ありすさんが悲しそうに下を向いた。
さすがに止めないと。
「おい、その辺に──」
「──よし、じゃあ帰ろうぜ。ウチらの基地はこっちだ」
俺の言葉を遮り、紅蓮さんは川の上流へと向かって歩き出した。
自分勝手すぎるだろ。
こんな人は未だかつて出会ったことがない。
まさにめちゃくちゃという言葉がふさわしい。
ありすさんは俺の顔を一瞥した後、彼女の後ろに向かっていく。
さて、俺も行くか。
歩き出してすぐ。
「おい新人朧月。何か質問はないのか? 暇だから何か話題を振ってくれ」
紅蓮さんが後ろを向いて話しかけてきた。
「あ。じゃあ……百年前だったっけ? その百年前、地球に一体何があったんだ?」
「そういえばどうして冷凍保存されたのかわからねぇって言ってたな。じゃあ当然何が起こったかもわからないのか」
「うん」
「ウチとかありすは百年前の生き残りじゃねぇから話で聞いただけなんだがな、どうやらこの地球と他の星がぶつかったらしいぜ?」
「えっ!? 星同士が?」
「ああ。で今現在、惑星エリスと地球が引っ付いて∞(むげん)みたいな形になってるんだとさ」
「……」
驚きで声が出ない。
正直信じがたい。
惑星エリスって言ったらあれだよな。
太陽系準惑星の。
えっ、でも……軌道上絶対当たらないと思うんだけど。
本当か?
「お前疑ってるだろ?」
「いや……まあ、うん」
「けど事実だ。他の百年前の生き残りたちも口々に言っているし。∞の形にしても、うちの組が昔から何十年もかけて探索して得た情報だからな」
「へぇ」
「で、他には?」
「そうだなぁ……。えっと、正直聞きたいことだらけなんだけど」
「ったく面倒くせぇなぁ。全部答えてやるよ」
「あ、ありがとう」
「礼とか気持ち悪いからやめろ」




