第一話
小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
建物のなかに比べると、少しだけ気温が高い。
心地よい暖かさだ。
「今まで考えもしなかったけど、異世界に転移したってことはないよな?」
地面へと足を踏み入れる。
シャリッという音。
少し柔らかい。
少しだけ歩き、とある植物の前で歩みを止めた。
中心が黄色で周りが紫のひまわり。
今までこんな植物は見たことがない。
「おそらく外国にもないよな?」
俺が知識不足なだけかもしれんが。
テレビでも見たことはない。
これに限らず。
周りにある植物は全てどこかがおかしい。
つまり……ここは異世界かもしれない。
嘘だろ?
異世界って言ったら、神様からチートとかもらえるんじゃないの?
俺を召還したお姫様は?
駄女神様はどこですか~?
巨大なトカゲが馬車を引いている街はどこかね?
スマホは持ってるけど……これ使えないよ?
「どういうことだ……」
なんで森が広がってんの?
方向とか全くわからないんだけど。
唯一の救いは、真後ろに建物があること。
後ろを振り向くと、正方形の白い家がある。
不気味なほどに真っ白な建物。
傷どころか汚れひとつない。
よほど頑丈な物質で建築されているのだろう。
材質にはあまり詳しくないが。
どんな材料を使えば森のなかでここまで綺麗な状態を保てるのか。
少なくとも現代日本で育ってきた俺は知らない。
まさか藁で作っているわけではあるまい。
藁だったとしたら、狼がやってきて息で吹き飛ばされるかもしれない。
「藁の家なんか、ふっふーのふー! でひとふきだ!」
なんつってな。
「ガルルルゥ」
……ん?
なんか声が聞こえなかったか?
後ろから聞こえてきたような……。
おそるおそる振り向いてみると、茂みの隙間から狼っぽい動物が見えた。
黒っぽい茶色の体毛。
鋭い赤の双眼。
口元からよだれを垂らしている。
息が荒い。
そして、こちらを睨んできている。
「おい、マジかよ!?」
俺は即座に白い家に向かって走り出す。
「ガルルゥ!」
同時に狼の足音が聞こえ始めた。
追ってきているのだろう。
やばいやばい。
やばいって!
この場合はどうすればいい?
慌てるな。
落ち着いて冷静に考えよう。
あの建物まではそんなに遠くない。
幸いドアも開けっ放し。
だけど、逃げ切れるのか?
しかし まわりこまれてしまった! ってならないよな?
今からサバイバルナイフで応戦した方がいいんじゃ……。
いや、基本的に何でもこなせるとはいえ。
リスクのある手はなるべく取りたくない。
逃げる一択しかないだろ。
短い距離を全力疾走し、建物のなかへ入るのと同時に扉を横へスライド。
微妙に間に合わず、狼の鼻が思いっきり挟まった。
「キャンッ!!」
狼はそんな声を上げて後ろへと下がる。
同時に扉が完全に閉まったため、俺は急いでハンドルを回した。
 




