第五十二話
ドームへ入ると、なかは植物とがれきだらけだった。
歩きにくそうだ。
前方には階段があり、上へと続いている。
左右にはそれぞれ廊下が広がっている。
「まずは……右側から調べていくか」
がれきや木の根っこなどを避けつつ、進んで行く。
いや、散らかり過ぎだろ。
別に歩く分には問題ないけどさ。
というか。
他の建物が一切存在していないなか、これだけ形が残っているということは。
「かなり頑丈だったんだろうな」
さすが日本の技術はすごい。
他の一軒家もビルも全部メイドインジャパンだったはずなんだけど……。
じゃあなんでこのスタジアムだけ。
建築方法の問題か?
こうして改めて考えてみると。
あの白い建物の異常さがわかるよな。
壊れるどころか、壁には傷ひとつなかった。
よほど良い素材を使ったと思われる。
そんな物質あったっけ?
ま、現に存在しているということはあったのだろう。
おそらく白い建物は、大規模な何かに対抗するために作られたものだ。
目的はなかに冷凍保存されている人間を無事に生き残らせること。
日本の技術が全て詰まっていると思われる。
そんな所で眠り続けていた俺は……はたして幸運なのだろうか。
生き残れたのは嬉しいけど、環境が悪すぎるよな。
目覚めると俺以外誰もいないし。
記憶もないし。
まさに幸運中の不幸だよな。
「いや、そんな言葉初めて聞いたわ」
その後、右側の通路に面した部屋を全て探索していった。
結果。
特にめぼしい物はなかった。
まるで誰かが持って行ったかのような、空っぽ具合。
清掃ロッカーのなかにすら何もなかった。
普通であればほうきとか。
ちりとりとか。
モップとかがあってもいいはずなんだけど。
マジで何も残ってない。
試合場へと繋がっているドアは、鍵がかかっていて開かなかったしな。
一瞬無理矢理開けようかとも思ったが、体力の無駄だし。
そもそも階段から観客席に行けば試合場は見えるわけだし。
ここでなんとしても開けないといけないわけではないので、やめておいた。
結局一番の収穫は【女子トイレに入れた経験】だろう。
ちょっと高揚感があった。
水の溜まっていない壊れた便器を見た瞬間、なんか覚めたけどな。
途中息子が元気になったりしてないし。
す、鈴が和式の便座に跨っている姿を想像なんてしてないんだからね?
してないもん!
続いて左の通路側を全て探索してみたが、やはり何もなかった。
掃除ロッカーなどが全て空だったのだ。
これは俺の予想だが。
使えそうなものは全て誰かが持って行ったと思われる。
部屋の量からして、集団での犯行だろう。
俺以外の49人の仕業だろうか。
まあ別にいいんだけどさ。
「いやでも……よく考えたら、生き延びるためにほうきとかモップがいるのか?」
普通に考えて移動の邪魔だろ。
まあ、武器を作るために使ったと考えるのが妥当かな?
ほうきの先端にサバイバルナイフを括り付けるだけで立派な槍になるし。
モップの先端にサバイバルナイフを括り付けるだけで立派な槍になるし。
ちりとりの取っ手にサバイバルナイフを括り付けても……武器にはならないか。
そもそもちりとりの用途はちりとりしかないだろ。
絶対他に使えないと思う。
ちりとりは汎用性の低さが具現化したような掃除道具だし。
じゃあ持って行く意味なくね?
必要とするのは、住処のある人間。
つまりこの世界のどこかには人類の基地がある。
そう考えるのが妥当だ。
かなりポジティブな考え方かもしれないが、それ以外に考えられない。
この俺が多分おそらく百パーセントだと保証する可能性があるかもしれないはずだと思う。
「何を言うとんねん」
さてと、最後は上の観客席へと続いている階段だな。
どうせ何もないだろうけど。
一応な。
もしかすると人間が試合場を寝床にしているかもしれないし。
「いや……寝床にするなら普通控室とかか」
試合場って基本的に天井が存在していないし。
雨風しのげない場所を基地にするはずないか。
だけど俺は確かめに行く。
何かあるはず。
せめて何かあってくれ。
せっかく見つけた人工物なのに、無収穫は嫌だぞ。
苦労して見つけたあれな動画は、無修正でいいけどな。
「何を言うとんねん」




