第四十九話
獣道を進み始めて三十分ほど経った時。
俺は足を止めて一度辺りを見渡す。
360度植物だ。
足元を見れば微かに獣道があるが、いつ見失ってしまってもおかしくはない。
慎重に歩いていないとすぐに方向がわからなくなるだろう。
そして獣道から離れたが最後、迷い続けることになる。
まだりんごピオーネが12個あるため、数日は生きることができるけど。
ジリ貧だろう。
そう考えた瞬間、身体が震えた。
俺は今とんでもない所にいる。
果たしてこのまま進み続けてもいいのか?
もしかするとこの獣道は、巨大な魔獣が適当に歩いてできた跡なのでは?
歩き出して正確にどのくらい経ったのかはわからないけど。
もうかなり歩いているはず。
なのにも関わらず、人工物が一切見えてこないということは。
「俺は……ただ森のなかを彷徨っているだけ」
今すぐ帰ろう。
川に会いたい。
明確に方向を伝えてくれる川の側にいたい。
そもそも人間は水場がないと生きてはいけない。
ここはだめだ。
早く気づけてよかった。
踵を返し、来た道を戻っていく。
このまま歩き続けていたら、いたずらに体力を消耗していただけだっただろう。
そして下手をすると迷って死んでいた。
まだ死にたくはない。
獣道から外れないよう、慎重に進むこと三十分ほど。
無事に川辺へ戻ってくることができた。
小石のジャリ、という足音。
水の流れる心地よい音。
なぜだろう。
めちゃくちゃ安心する。
助かったわけでも、人に出会えたわけでもないのに。
川から少し離れていただけなのに、懐かしいような気分だ。
川が愛おしく見える。
俺……まさか川依存症になったりしてないよな?
なんかそんな気がしてきた。
違うとは思うけど。
可能性としては否定できない。
まあ別に川依存症になったからと言って不利に働くようなことはないだろう。
この獣道が人里へと繋がっていたりでもしない限りはな。
「……やっぱり、人里に続いているんじゃ」
いや、だめだ。
ここで悩んでいても泥沼にハマるだけ。
さっき戻ってきたばかりだろ。
もう立ち止まるのはやめよう。
時間の無駄だし、決心が鈍るだけだ。
俺は川の流れに沿って歩き出した。
これでいい。
川に沿って進み続ければ、必ず人里があるはずだから。
そもそも水場から離れた場所に、人が住むはずないだろ。
そんなの非効率的なだけだ。
だから絶対に大丈夫。
俺の判断は正しいはず。
あのさ。
もし仮にの話だけど。
これが三人称小説だとして、【この選択が後に悲劇を生むことになるということを、少年はまだ知らない。】みたいな描写入ってないよな?
獣道をあと少し進んでいたら人里にたどり着けていたみたいな設定……マジでやめろよ?
はぁ。
このままだと自分を追い込むだけだ。
「何か楽しいことを考えよう」
とは言っても何を考えよう。
あっ、そうだ。
人里に降りてからの日常を想像してみるか。
どうせ妄想だし、ここは異世界ってことにしよう。
森を抜けた俺は、直近の城下町に移動した。
王国の辺境にあり、周りは城壁に囲まれている。
おそらく魔獣の侵入を防ぐためだろう。
冒険者ギルドに向かっていると、一人の美少女がチンピラ三人組に絡まれていた。
助けようと思って歩き出した瞬間、何か様子がおかしかった。
話を聞く限り、どうやら追い剥ぎは美少女の方らしい。
美少女はチンピラ三人を斬殺し、こちらを振り向いて「うふふ、私あなたに一目惚れしちゃった。これから私の部屋にこない?」とささやいてきた。
彼女の顔には返り血がついている。
「いや、なんだよこの展開!」
どうせ妄想なんだからもっと楽しい展開にしようぜ。
俺絶対こんな子がヒロインとか嫌だからな?
異世界だし、別にいてもおかしくはないけど。
俺とは無関係であってくれ。
その後、周囲を警戒しつつ妄想しながら歩き続けた。
クラスメイトの女子と楽しくVRMMORPGを楽しむ話。
転生した異世界で筋トレをしまくり、最強になる話。
地球に突如現れるようになった魔物と戦う組織に入団する話。
ある日突然、RPG世界と現実世界を行き来できるようになった話。
幼馴染だと言い張る全く見覚えのない美少女が突然俺に会いにきた話。
ダンジョンでただひたすらレベルを上げ続けて最強になる話。
幼馴染の鈴と三日間ベッドの上で過ごし続ける休日。
百人規模の裸の美少女たちに囲まれてベッドの上で一年間過ごす妄想をし、絶対途中で嫌になるだろ! と一人でツッコミを入れてみたり。
妄想している間、割と楽しかった。
ちょっと活力が戻ってきたような気がする。




