第四十八話
七日後。
あれから俺は永遠と川沿いを歩き続けていた。
湖を出発した初日と全く景色が変わっていない。
不安になってきた。
読者が離れるかどうかという件についてもだけど、一番不安なのはそもそも人里が存在するのかどうかということ。
この星には、森しかないのではないかと思うようになってきた。
今朝、何年も歩き続けて星を一周し、最初の白い建物に到着する夢を見て目が覚めた。
悪夢だろ。
起きて三十分くらい体の震えが止まらなかったもんな。
朝からテンションが駄々下がりである。
もうあの夢のことは考えないようにしよう。
正夢になりそうな気がしてならない。
そんなことはない!
人は絶対にいるぞ!
この星は森だけじゃない!
そういえば、あれから七日経ったわけだけど。
結局【七日後】っていう三文字は出ているのかな?
もし仮に出ていたとすれば、俺がどうやって七日間を過ごしたのかわからないよな。
とはいっても、今までと何も変わらない。
たまにりんごピオーネの木が生えているため、果実で食いつないでいる感じ。
動物の肉はあれ以降食べていない。
ハンドガンの弾を節約したいというのもあるが、一番の理由は火起こしが面倒くさいからだ。
そんな時間があれば少しでも先に進みたいと思うようになってきた。
最近ちょっと鬱になりかけているような気がする。
ずっと不安というか。
心のどこかで、死んだら楽になれるのではないかと思う自分がいる。
なるべく考えないようにしてはいるが。
どうしても夜になるとぼーっとしてくる。
鬱病の人の気持ちが少しわかったような気がする。
ただ歩いているだけなのに、涙が出てくる時がある。
悲しくもないのに、胸が苦しくなってくるんだよな。
鈴とか、両親の姿が走馬灯のように頭のなかに流れてくる。
鈴が泣いている姿が見えたら、百パーセントの確率でもらい泣きしてしまう。
体は痩せたり筋肉がついたりしてこの世界に適応し始めているが。
精神はそうはなってない。
だんだん壊れてきている実感がある。
そう思えている時点で俺はまだ大丈夫なんだろうけど。
なんとなく空を見上げた。
雲がある。
わたあめの形に似ている。
いや、それを言ったら全部わたあめに見えるだろ!
死んだら俺も空の上に行くのかな。
それとも輪廻転生しているのだろうか。
「やめろ。死に関連するようなことを考えるな」
俺は生きたい。
空の上になんて行くものか。
頭はまだ正常だ。
ふいに顎を触ると、少しだけジョリジョリした。
そういえばこの世界にきてからまだ一度もひげを剃ってないな。
こんな姿じゃ、美少女になんて会えない。
服装もかなり変だし。
制服の上から軍服を着て、更にツタの紐を巻き付けているような服装は、世界中に俺しかいないだろう。
「ひげって、サバイバルナイフで剃れるかな?」
まあ、普通に考えて無理だろうな。
髭を剃ろうと思って勢い余り、首を切ってしまうかもしれない。
頸動脈なんて切ったら痛いだろうな。
血しぶきもやばいだろうし。
確実に死……あぁ~、ちょっとお腹空いてきたし、りんごピオーネでも食べるか。
かごのなかを見る。
昨日補充したばかりのため、13個ある。
まだまだ安心だ。
一つ手に取って齧った、その時。
左側にある獣道のようなものが視界に入ってきた。
「えっ……道か?」
すぐさま近づき、改めて近くで確認。
植物が生い茂っているなか、不自然に隙間が続いている。
かなり狭いが、道っぽい。
自然にこうはならないだろう。
近くに人里があり、川までの道のりとして使われているのか?
詳細はわからないけど、これを辿っていけば人に会えるかもしれない。
「ありがてぇ」
すぐに森のなかへ入り、獣道を進み始める。
少し希望が見えてきた。
待っていろよ、人間。
今会いに行くからな。




