第二十七話
「おい、嘘だろ」
いや、りんごピオーネの木に出会えたこと自体は嬉しいんだけどさ。
何も今じゃなくても良くない?
せめて景色に変化があってからじゃダメだった?
俺今、めっちゃ不安なんだけど。
ループしている説が立証しかけてるよ?
走ってりんごピオーネの木の下に移動した。
うむ。
りんごピオーネの木で間違いない。
背伸びをすれば届きそうな位置に果実がなっている。
「前回とは違うと言えば違うような気がする。……でも同じと言えば同じに見えないこともない」
要するに覚えてない。
いちいち木の形なんて記憶するかよ。
とりあえず隣の木で一夜を明かそう。
りんごピオーネの木は低いため、魔獣が登ってこないとも限らない。
少しでも危ない可能性があるのなら、最初からやらない。
りんごピオーネを六個ほど採取してかごに入れた。
これでかごの中身は十個。
果実は大量にあるわけだし。
今日はりんごピオーネを食べ放題だ。
だって朝になればまた採取できるのだから。
我慢する必要がない。
「あぁ……たまには別の物が食べてぇなぁ」
所持しているからか。
ものすごくカロリーメイトが食べたい。
だけど、これは緊急用だ。
わかってはいる。
でも食べたいんだよ。
乾燥したものが無性に食べたい。
「いや、だめだ」
こんなわけのわからない世界にいる以上。
カロリーメイト一本が生死を分ける可能性がある。
今は果実に恵まれているけど。
今後はわからない。
だから我慢しろよ、俺。
よし、別のことを考えよう。
カロリーメイトのことは忘れるぞ。
ポケットのなかにはカロリーメイトなんてない。
俺はりんごピオーネしか食べられない。
あっ。
便意を催してきた。
木に登る前で良かった。
茂みのなかに入って用を足す。
毎日一度はするわけだけどさ。
実はこの時間が結構嫌いだ。
葉っぱで拭かなければいけないというのもあるけど。
一番の問題は、出てくるのが個体じゃないということだ。
水なんだよな。
果実しか食べていないからだろう。
ぶっちゃけてしまうと。
この世界で目覚めてから一度として個体は出ていない。
特に腹痛があるわけでもないし。
問題はないと思うけど。
あっ。
このシーンは全カットでお願いします。
恥ずかしいし、何より汚い。
と、見られていること前提の思考だけど。
誰も見てないか。
はぁ……。
もういっそのこと見ていて欲しい。
一人でいることが寂しすぎる。
圧倒的孤独。
その後、りんごピオーネの隣の木に移動して登っていく。
高い位置の太い枝に座り、近くの枝に葉っぱのかごを掛けた。
胴体に装備している紐をほどいていく。
食事の前に身体を固定しておいた方がいいだろう。
食事中に気が緩んでバランスを崩したら危ないし。
しっかりと体と木の幹を紐で固定した後、りんごピオーネをたらふく食べて眠りについた。
明日も個体じゃなくて液体が出るんだろうなぁとか思いながら。
 




