第二十五話
「機械の……ライオン」
実際に見たはずなのに信じられない。
そんなのいるはずないだろ。
だけど、さっき見てしまった。
俺の真下を通り抜けていく際。
背中に無数のコードがあった。
赤い双眼。
鬣に至っては、無数のパイプで構成されていたような気がする。
これらの情報を集めて出てくる解答。
「機械……だよな」
あっ、まさか。
魔獣に対抗するために人類が作ったロボットなんじゃないのか?
その可能性はあるな。
そういうことにしておこう。
あんなのが敵だとは思いたくない。
まあ目の前に現れたら全力で逃げるけど。
「てか、そもそも逃げられないような気がする」
まずスピードがおかしかった。
人力でどうこうできるレベルじゃない。
あいつに出会った時点で終わり。
つまり生き残れるかどうかは……運ってことか。
何それ。
もうここから動きたくないんだけど。
「あいつが味方だということを祈っておくしかないな」
仮に人類が作ったとしても、無差別に生物を殺すようなプログラムを組まれてたら意味ないけど。
まあ、人間がそんな阿呆な真似をするはずないか。
作った本人も殺されるわけだし。
「はぁ」
本当にここから動きたくない。
マジで嫌だ。
せめてもう少しここで時間を潰そう。
奴がこちらに戻ってきてもおかしくないし。
一時間くらいは経ったと思う。
魔獣が近くにいない状態でのんびりしていたからか。
いつもより回復している。
大分身体が楽になってきた。
幹と身体を固定していた紐をほどいていく。
機械ライオンに出くわす可能性がある以上、動きたくはないが。
ここでじっとしているわけにはいかない。
立ち止まっていても何も始まらない。
進まなきゃ。
まだ日が暮れるまでにはかなり時間があるはず。
できるだけ進みたい。
この辺りが機械ライオンの行動範囲だとすれば、なるべく離れた方がいいのも確かだ。
「とにかく。少しでも物音がしたらすぐに木の上に逃げよう」
あいつはカンガルーや狼なんて比にならないくらい手強い。
少しでも逃げ遅れたら殺される。
「……最善を尽くせたとしてもどうにもならないかもしれないが」
いや。
あまりそういうことは考えないようにしよう。
紐をほどき終えて再び装備した後、木から下りた。
そういえばあのカンガルーたちは結局どうなっているのだろう。
予想では機械ライオンに食べられたのではないかと思うが。
隣の川辺へと移動。
「うわっ……」
二体のカンガルーの死体があった。
どちらも肉はほとんど残っていない。
骨が見える。
やはり食い荒らされたらしい。
周りの小石が真っ赤に染まっている。
「狼に不意打ちされても返り討ちにできるようなカンガルーだぞ」
そんなのが二体集まってこのざまかよ。




