第十七話
走りながら後ろを振り向いてみると、そこにはカンガルーがいた。
正確には、カンガルーに似た魔獣。
牙が生えており。
手がグローブのように大きい。
俺と同じくらいの身長。
鬼のような形相で追いかけてきている。
怖っ。
試しにりんごピオーネを投げつけてみたが、無視された。
まあそうだよな。
狼以外には効果ないよな。
少し先に登りやすそうなでこぼこの木がある。
あそこに逃げよう。
逃げる距離が遠くなればなるほど不利だ。
敏捷性が明らかに劣っている。
葉っぱのかごを肘で持ち、両手を使って素早く木を登る。
中身のりんごピオーネが二つほど落ちた。
その時。
「キュー!」
「痛っ!?」
ふくらはぎを殴られた。
くそっ、若干逃げ遅れた。
俺は止まることなく木を登り続け、かなり高い位置の枝の上に座る。
下を見ると、まだカンガルーはいた。
じっとこちらを見つめている。
「めちゃくちゃ怖いな」
さすがにジャンプをしても届かないとは思うけど。
「……痛っ」
若干落ち着いたことにより、足が予想以上にダメージを受けていることに気づいた。
ビリビリというか、ジンジンしている。
殴られた箇所が赤くなっており、明日は確実に腫れるだろう。
なんて威力だ。
骨が折れなかっただけましだと思うべきか。
「今思えば、この世界にきて初めてのダメージか」
今までが順調すぎたんだよな。
にしても、明日歩けるかな。
今は大丈夫だけど、時間が経てば悪化する可能性だってある。
痛いというよりかは熱い。
ふくらはぎが脈打っている感じがする。
「マジで痛ぇ」
狼以外の魔獣もいたのかよ。
夜中の叫び声を聞いていたから、一応別の存在がいることも知ってたけどさ。
しかも狼よりもよっぽど手強い。
まさかりんごピオーネが効かないとは。
これで俺の脳内魔獣図鑑が三体になった。
赤い双眼の狼。
ボクサーカンガルー。
そして、まだ見ぬ機械ライオン。
全部怖すぎるだろ。
もっと癒し系いないの?
「正直……これからトラウマになりそうだな」
だってさっきみたいに川沿いを歩いている際。
いつあのカンガルーが出てきてもおかしくないわけだし。
また殴られるかもしれない。
なんにせよ、今度からはもっと素早く逃げないと。
そもそも最初に相手が狼だと判断して、りんごピオーネを手に持って立ち止まっていたのが間違いだった。
たかが数秒だったが、すぐに走り出していれば逃げきれていた。
仮に相手が狼だったとしても、走りながらりんごピオーネを手に持つことはできるわけだし。
立ち止まったことこそが失敗。
りんごピオーネがあれば安心だという油断が起こしたミスだな。
今回は足だけで済んだが、胴体を殴られていたらどうなっていたことか。
もう二度と同じ過ちは犯さないようにしよう。
魔獣がいると気づいたら即座に逃げ出す。
その際、なるべく音は立てないように気を付ける。
見つからないのが一番なのだから。
俺は再び下を向く。
カンガルーがこちらを見つめながらシャドーボクシングをしていた。
「……マジかよ」




