第十五話
やがて狼は水分補給を終えて森のなかに帰って行った。
一応少しの時間を置き、木から下りる。
続けて別の狼がきたりしないよな?
見かけたらもう一度木の上に逃げないと。
なるべく早く進みたいから、出会いたくないな。
俺は再び川辺を進み始める。
そんなことを思っていたら本当にやってきたりするんだよな。
考えないようにしよっと。
脳内の思考を断ち切ろうと首を振った時だった。
「……えっ、マジか」
少し先に木が立っていた。
それだけなら別に珍しくもなんともないのだが。
見覚えのある果実がなっている。
「りんごピオーネじゃん!」
ラッキー。
進化前はピンプクなんっつって。
こんな僥倖ある?
高校受験に合格した時よりも嬉しいんだけど。
すぐさま駆け寄り、背伸びをしてひとつ手に取った。
「いただきま~す」
シャリシャリ。
瑞々しくて、りんごのような食感。
だけどピオーネの味。
至福。
「悪魔的にうめぇ」
キンキンに冷えてやがる。
これを食べるためだったら何ペリカ出してもいい。
あっと言う間に全て食べつくした。
「ごちそうさまでした」
一粒の種を地面へと吐き出す。
本当においしかった。
もうこの木から離れたくない。
だからしばらくここにいることにしよう。
「さっそく葉っぱで鞄づくりだ」
運の良いことに、この木の葉っぱは一枚一枚が大きくてしっかりしている。
つまり鞄を作るのにはもってこい。
地面で作業するのは危ないから、木の上でやるか。
幹のでこぼこを上手く使い、太めの枝の上に登った。
早速葉っぱを一枚手に取る。
「硬いな」
耐久性があるのはいいことだ。
さて。
鞄を作るとは言ったものの……どうやるんだ?
正直予備知識が全くないんだけど。
大丈夫だろうか。
まあ適当にやっていれば何とかなるだろ。
できればチャックとか欲しいよな。
それが無理そうならボタンでも。
なんにせよ、ちゃんと開け閉めができるようにしたい。
走ったり、木に登っている最中に中身が落ちたりしたら嫌だし。
こうして俺はりんごピオーネの木の上という恵まれた環境で鞄づくりを開始した。
数分後。
チャックは諦めた。
というか正直、最初から作れるとも思っていなかったけど。
更に数分後。
ボタンも諦めた。
もしかすると別の植物を使えば可能かもしれないが。
下まで取りに行くのが面倒くさい。
更に更に数十分後。
開け閉めの機能を諦めた。
しばらくして。
結局かごみたいな物が完成した。
名付けて【葉っぱのかご】
これで許してくれ。
俺に鞄は無理だった。
もうちょっと簡単だと思っていたんだけどな。
まさかこんなに難しいとは。
「けど、かごでも問題ないと言えば問題ない」
要するにりんごピオーネがたくさん持ち運べればいいわけだし。
かごはかなり大きめにしておいた。
「さてと。次はりんごピオーネの採取に取り掛かろう」
下に危険がないことを十分に確認し、地面へと下りた。
別に木の上で採集してもいいのだが、かごが満タンだと重たくて持って下りるのに苦労しそうな気がするため、地面で採取するというわけである。
俺って天才。
「いや、ちょっと待てよ?」
よく考えたらこの木……低いし。
かごが満タンでも余裕で下りられるんじゃね?
地面からでも背伸びをすれば果実が取れるくらいだし。
魔獣に襲われる心配がない分、木の上の方が良くない?
「……登るか」
再び木の上に登った。




